アリュゼルン
「あぁ! お目覚めになられたんですね! よかったです!」
そう言いながら俺とオイストが話している部屋に入ってきたのは、一人の可愛い女の子だった。
奥の景色が見えるかのような透き通った白い肌。
コーラルピンクのような温かみのあるピンク色と、同じく温かい金色がグラデーションになっている長い髪。
小さな顔に髪と同じような色のクリッとした大きな瞳。
誰が見ても納得の美少女だった。
そしてその女の子は前髪の左半分を編み込んでいた。御歌ちゃんが最近よくやっている髪型と同じだ。この髪型はアポノファン界隈では“帝編み”と呼ばれ、SNSで御歌ちゃんの女性ファンがこの髪型を真似しているのは飽きるほど見てきた。しかし、この子は御歌ちゃんと並んでも遜色ないくらい帝編みが似合っていた。見事だ。いいものを見せてもらった。
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オイスト「あ、アリュゼルンさん! ちょうど今あなたの話をしてたんですよ!」
悠記「え…アリュゼルン……?」
オイスト「はい、そうですよ?」
悠記「えぇ!? ってことはこの子があの寝具ちゃん!?」
今まで口元しか見えなかったからわからなかったけど、めっちゃ美少女じゃんか…。
素顔がわかった瞬間、急に緊張してきたな。
今まで“寝具ちゃん”の名に相応しい低反発ぶりを見せてもらったが、ここにきてビジュアルで盛大に裏切ってきたな。いい意味で。
あぁ、そうだった。この子の本当の名前はアリュゼルンだったな。
ようやく念願だった本名が知れたことだし、ここで寝具ちゃんは卒業だな。
アリュゼルン「色欲マンさん! ご無事でよかった…! 本当によかった…!」
悠記「…………….ん? し き よ く ま ん…….?」
アリュゼルン「え…?」
オイスト「先ほど悠記さんに翻訳機を差し上げたので、アリュゼルンさんの言葉も理解できていますよ。もう悠記さんと会話ができるはずです。」
アリュゼルン「ぇ………ぇぇぇええええ〜!!!!」
俺も変なあだ名つけられてたぁ…….
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アリュゼルン「すみませんっ! 本当にすみませんっ! 名前がわからなかったので第一印象で呼ぶことにしていただけなんですっ!」
悠記「え!? 俺の第一印象“色欲マン”なの!?」
アリュゼルン「はい…初めて出会った時、あなたから色欲に満ちた視線を感じたので……。」
悠記「そ、そうなんだ…。」
どうしよう。はっきり否定はできない。
アリュゼルン「色欲は邪心です。なのであの時、私は愚かにもあなたに刃を向けてしまいました…。申し訳ございません。ですが、あなたはあれから何度も危険を顧みず私のことを助けてくださいました。」
悠記「いやいや、それは俺もだよ! 君に何度も助けてもらった! あの時だって! 連れ去られそうな俺を見て必死になってくれた時も嬉しかった!」
アリュゼルン「言わないでください! あの時、私何もできなくて…! あなたの勇気とオイストさんの助けが無かったら私はまた……」
よく見るとアリュゼルンは涙目になっていた。
私はまた…? “また”の後に続く言葉を聞いてもいいのだろうか。
こういうのは深掘りせずに黙って微笑からの頭なでなでとかの方がいいのかな?
俺だってアリュゼルンがいなかったらヤバかった。これは紛れもない事実だからな。
そうだ。ようやくアリュゼルンと話せるようになったんだ。俺が一番に彼女に伝えたいのはこれだった。
悠記「アリュゼルン、君がいてくれてよかった! ありがとう!」
アリュゼルンはウルウルの目を見開き、俺のことを数秒見つめた後、満面の笑みを浮かべてこう言った。
アリュゼルン「はい! こちらこそありがとうございます!」
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その後俺たちはアリュゼルンが作ってくれた晩ご飯をいただくことにした。
どうやら俺がモンスターに襲われてから丸一日経っていたらしい。
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アリュゼルン「改めまして、アリュゼルンと申します。悠記さん、オイストさん、よろしくお願いします。」
オイスト「ええ、よろしくお願いします!」
悠記「うん、よろしく! それにしてもアリュゼルンか…素敵な名前じゃん。」
アリュゼルン「ありがとうございます!」
悠記「実を言うと、俺もアリュゼルンの名前がわからなかった時はアリュゼルンのことを“寝具ちゃん”って呼んでたから、本名がわかって嬉しいな。」
アリュゼルン「寝具ちゃん…? その…由来はなんなんですか?」
悠記「ほとんど反発せずに黙って俺に着いてきてくれたから、低反発だなと思ってさ。」
アリュゼルン「ふふふふ、何ですかそれ!」
オイスト「ハハハハ! 二人とも二度と誰かにあだ名をつけない方がいいですよ!」
悠記「おい! じゃあオイストだったら俺たちになんてあだ名付けるんだよ?」
アリュゼルン「あ、それすごく気になります!」
オイスト「うーん、そうですね〜。まず悠記さんは命綱無し男、アリュゼルンさんは慟哭女ですかね?」
悠記「テメェが一番終わってんじゃねぇか!」
アリュゼルン「なんだか愛を感じません。」
オイスト「仕方ないじゃないですか。僕は二人の名前がわかるまでに得た情報が少ないんですよ。そういえばアリュゼルンさんは料理が上手なんですね!」
悠記「確かに! めっちゃうまいよ! 特にこの肉! 噛んだ瞬間ジュワッと旨味が溢れてきて最高なんだけど! 鶏肉か?」
アリュゼルン「ありがとうございます! 好きなんです。誰かに料理を作るの。その肉は悠記さんを連れ去ろうとした鳥と同じ肉らしいです。オイストさんが教えてくれました。」
悠記「えぇ!! あいつ食べれるの!?」
オイスト「“ラキュイス”という大型の鳥です。一本しかない足は筋肉が発達していて硬いですが、旨みが凝縮されているので煮て食べられることが多いですよ。」
悠記「足が一本の鳥……? そいつもしかして目も一つだったりする……?」
オイスト「おぉ、そうですそうです! 飛び出た大きな目が一つあって、その目で獲物を探すのです。」
楽しー! 帝攻略本を照合するの楽しー!
異世界への聖地巡礼を最大限に楽しんでる気がするなー。
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悠記「そうだアリュゼルン、オイスト、他にも聞きたいことがいっぱいあったんだよ! 俺、実は異世界からここに来たみたいでさ…」
アリュゼルン「異世界……?」
オイスト「異世界!? 本当にそんなものがあるんですね…」
悠記「ああ、俺からしたらこっちが異世界なんだけどな。変な扉を潜って、気づいたらここにいたんだ。」
アリュゼルン「それは不思議なお話ですね…。もしかして悠記さんが見慣れない道具をたくさん持っていたのは、その異世界というものと関係があるのでしょうか…? あの光る薄い板のようなものとか…」
悠記「ああ、これはスマートフォンだ。俺の世界ではほとんどの人が持ってる。ラキュイスだっけ? あの鳥に襲われた時に落としちゃったけど、回収してくれてありがとう。」
アリュゼルン「いえ、その板の光にはとても救われましたので、きっと今後も役に立つと思います!」
逆にこの光のせいで死にかけもしたけどな…
悠記「それが、バッテリーがもうほとんどなくてさ…。この世界じゃ充電する手段もないし、残念だけどもう使うことはないかもな。」
オイスト「へぇ〜これは確かに見たことのない機械ですね。あのー悠記さん、この機械を僕に預からせてくれませんか? 異世界の技術というのは非常に興味深いです。それに構造を調べれば僕でもこの機械を充電することができるかもしれません。」
悠記「本当に!? そういうことなら是非お願いするよ! それにしてもオイストってエンジニアか何かなのか? この翻訳機だって並大抵の技術じゃないと思うんだけど…」
オイスト「うーん、まあそんなところです。ここ“テックテックキルス”は技術の国ですから!」
アリュゼルン「えっ………。」
アリュゼルンの手からスプーンが落ちた。
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アリュゼルン「あの…オイストさん…ここはテックテックキルスなのですか……?」
オイスト「はい、そうですよ。」
アリュゼルン「それじゃあ、オイストさんはテックテックキルスの民……」
あ、あの時の顔だ。
フードで素顔が見えなかった時にアリュゼルンが何度も浮かべていた不安そうな表情。
今のアリュゼルンはおそらくあの時と同じ顔をしている。
オイスト「あ、はい…そう…ですが……。あ! そういうことですか! 安心してください! 僕はあなたたちをどうにかしようなんて微塵も考えていませんから。この場所もテックテックキルスのかなり端の方ですから、僕以外の国民にバレる可能性もかなり低いですよ。」
アリュゼルン「そうなんですね…。すみません…私近隣の国出身でテックテックキルスの情勢はよく聞いていたので…。」
悠記「ん? なに? どういうこと? そのテックテックキルスは何か問題でも抱えてるの?」
オイスト「ええ、まぁ…簡潔に言うと、この国は今…鎖国状態でして…」
鎖国……?
まさかのこっちも訳ありか…?
アリュゼルン「はい…私もその話を聞いていたので、さっきは少し動揺してしまいました。申し訳ございません。」
オイスト「いいんですよ。テックテックキルスは技術の国、もちろん軍事技術も他国のものを遥かに凌ぎます。世界中がうちの高度な軍事技術を恐れているのは全国民が理解していますよ。」
悠記「つまり、鎖国中だから外部からの侵入者に厳しいってこと?」
アリュゼルン「はい、私はそう聞いていました。」
オイスト「確かに国の守備を担っている者たちには、侵入者や怪しい人物は見かけ次第拘束、もしくは排除するよう通達されています。そして全国民にも見かけ次第通報する義務があります。正直僕じゃなかったら危なかったかもしれません。」
悠記「ひえぇぇぇ〜! なんか俺たちここまでめっちゃ運でやってきてないか!?」
アリュゼルン「そ、そうですね…。」
悠記「でもだとしたら俺たち、早めにここを出た方がいいんじゃないか? このままだとオイストにも迷惑がかかるかもしれないし。」
アリュゼルン「そうですね…そうなると恩を仇で返すような形になってしまいますし…」
オイスト「心遣いには感謝しますが、二人とも次はどこに行くつもりですか? 当てはあるのですか?」
悠記「そうなんだよな〜問題はそこなんだよな〜。俺がこの世界に来たのも何か意味があるはずなんだけど、さっぱりわからないしな〜。」
オイスト「そうですね…。僕も異世界なんて物語で聞いたことしかないですから力になれそうにありません。ですが一つだけ言えるのは、このままテックテックキルスの中心部を目指すのはおすすめしません。国王なら悠記さんに起きたことについて何か知っている可能性もありますが、この国が悠記さんたちにどのような対応をするかは完全に未知数です。」
悠記「うーん、やっぱりそうかー。」
ふと横に目をやると、アリュゼルンがじっと下を向いていた。
悠記「アリュゼルン…? 具合でも悪いの?」
アリュゼルン「い、いえ! そういうわけではないのですが……あの…その…」
悠記「…………?」
アリュゼルン「あの! 悠記さん! もし行く当てがないのなら、私の提案を聞いてくれませんか…?」
悠記「……………提案?」
最後まで読んでくれてありがとうございます!
アリュたそ可愛い♡




