謎のレイヤーさん
[前回のふりかえり]
人気アイドルグループApollo Notesの最年少メンバー「帝御歌」を推している主人公「淡井悠記」。
御歌は2年間の活動休止から復帰後、自分が異世界に行っていたことを公言し、様々なところで楽しそうに異世界体験談を話していた。
そんな異世界トークをしているときの御歌の姿を見るのが大好きな悠記は、これからApollo Notesのお話しイベント「ベジグリ」にて推しの御歌と異世界についてお話しする予定である。
「御歌ちゃん!来たよ!」
「あ!悠記くんじゃん!やっほ〜!」
これは自慢だが、俺は御歌ちゃんから認知をもらっている。
ベジグリに多額の給料を投入した賜物だろう。
それにしても、活動休止で忘れられたのではないかと思っていたが覚えていてもらえてよかった。
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悠記「この間、配信で尻尾が2つに分かれてる恐竜の話してたじゃん?それって戦うの?」
御歌「あー、あれねー。戦うよ!あの子たち頭に尖ったトサカみたいなのがあるんだよ。それが実は仲間の声を聞くための感覚器官になってるの。耳みたいなものね。そのトサカは遠くの仲間の小さい声も拾えるぐらい敏感だから大きい音出せば動けなくなるよ!」
悠記「頭にトサカ?イリテーターじゃん。恐竜キ◯グでやたら当たるやつじゃん。」
御歌「なにそれ〜。でも最初の方は基礎的な戦闘力を上げるためによく戦ったよー懐かしいなぁ!」
悠記「へぇ〜、異世界でも頑張ってたんだね!これからも異世界のこといろいろ教えてよ!」
御歌「もちろん!“帝攻略本”を開きたくなったらまた来てください♡」
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いやーよかった!
やっぱり異世界トーク中の御歌ちゃんは至高だ!
特に「帝攻略本を開きたくなったらまた来てください♡」の時のあの顔と声!
可愛すぎるだろ!
たぶん今日御歌ちゃんとベジグリした人たちの中で一番価値あるものをもらった自信がある!
神回だこれは!
さて、2部までまだ時間があるけど2部は何について聞こうかな。
そういえば御歌ちゃん、魔法とか使えたのかな?
異世界の魔物?と戦える力があったってことは、炎とか雷とか出せたのかもしれない。
剣とかは使えなさそうだし……よし、次は魔法について聞いてみるか。
そんなことを考えながら会場内を歩いていると、一人の老人が俺の前に立ち塞がった。
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その老人は変だった。
なにが変かと言うと──格好が変だった。
なんというか、二次元のキャラクターみたいな白を基調とした高貴で仰々しいデザインのローブを着ていた。
そして顔は口を覆うほどの髭で隠れているが、目元でわかる。
この人、イケメンだ。
俗に言う“イケおじ”ってやつだ。漫画やアニメなら絶対強キャラだぞ。
いや、たぶん本人はそのつもりなんだろう。
有名なスマホゲームかなんかのSSRキャラなのかもな。完璧なコスプレだ。
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そんなことを考えながら固まっていると、気づけば"イケおじと弱男ドルヲタによる見つめ合い"という異様な光景が完成した。
いや、ここにいるということはこの老人もアポノファンなのだろうが、さすがにこの絵面は耐えきれない。
老人は格好のこともあってかなり目立っている。
今すぐこの場を立ち去りたいが、どう声をかけたらいいかもわからない。
必死に頭の中で打開策を考えていると──
今度は一人の美女が老人の隣にやってきた。
若くはなさそうだが、年寄りでもない。
とにかく美しい女性だ。御歌ちゃんとは違った大人の魅力がある。
美女は老人と色味こそ似ているものの、全く違う海賊のような服を着ていた。
すると老人は俺から視線を外し、美女に静かに頷いた。
美女はそれを確認すると、すかさず右腕を上げる。
状況が飲み込めずに戸惑っていると、背後から眩い光に照らされているのを感じた。
振り返ると、俺の背後にはなんとも神々しい扉が現れていた。
壁もない、ただの空間に光とともに現れた一枚の扉。
俺はもちろん、周りの人たちもさすがにどよめき扉に注目している。
空間に扉といえば、好きな子のお風呂場にワープできるか、
地震を起こす長くて禍々しいバケモノが出てくるかの二択だが……
さらに不可思議な展開に動けずにいると、美女がその扉をゆっくりと開いた。
中は白い光で溢れていて何も見えなかったが、悪いものではない気がした。
よかった。とりあえずバケモノは出てこなさそうだ。
それにしても不思議な扉だ。中は一体どうなってるんだ?
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ドン!
「えっ?」
何が起きたのか理解するのは一瞬だった。
背中を押されたのだ。
完全に油断していた俺は、なすすべなく扉の中の白い光に包まれた。
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「うわ、なんだこれ! 不思議な感覚だ……」
扉の中でも意識ははっきりしていた。
だが地に足が着いていない、数ミリ浮いているような感覚。
あたり一面が白く眩い光に包まれていて、進んでいるのか止まっているのかわからなかった。
初めての感覚に不安になりながらも身を委ねていると
突如、黒っぽい空間がノイズのように辺りを支配し、強い衝撃を受けて俺は吹き飛ばされた。
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気がつくと、白い光はすっかり消えており
俺は山や森に囲まれた草原にいた。
好きな子のお風呂場とはいかなかったが、これはワープしたと見ていいのだろうか。だとしたらここはどこだ?
できれば日本国内であってほしいが、この見慣れない草原……
俺の知らない場所であることは間違いなさそうだ。
「クソッ! ベジグリの後はヲタク仲間の家でアポノ4周年記念ライブの映像を見て盛り上がろうと思ってたのに!」
「そもそも、あのじいさんと美女はどういうつもりだ? あの扉はどういう技術なんだ? あ、そういえば扉!」
辺りを見回したが、扉はもうどこにもなかった。
「まあ、じっとしてても仕方ない。歩きながら考えるか。」
俺は誘拐されたのだろうか?
あの老人の態度的に、俺を探していたようにも見えたが──
それよりも扉を出したあの美女だ。一体なんだったんだ?
あの美女は別に水色でも丸顔でもなかったし、耳もちゃんとあった。
あのワープする扉は現代の技術では説明がつかない。
まさか、御歌ちゃんみたいに本当に“異世界”ってやつに来たのか……?
いや、まさかな。
でも俺は所詮一般庶民だ。
俺の知らない科学技術や大発明なんてのは社会に普及していないだけで秘密裏に存在しているはずだ。
もしかして俺は、その国家規模の実験に利用されてるのか?
いや、そうか!ドッキリだ!
テレビ番組かなんかのドッキリのターゲットにされたんだ!
扉を潜ったら知らない場所にワープするドッキリ!
いや、それにしてもすごいな最近のテレビは……落ち目なのに……どんな仕掛けなんだあの扉は。制作費すごいだろうな。リアクション弱かったかな...?
でも何はともあれそういうことなら、そろそろカメラとかネタバラシの人が──
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来た。
いや、来たのはカメラでもネタバラシでもなかった。
一人の女の子だ。
フードを被っていて顔はよく見えないが、たぶん若くて可愛い。清楚っぽい雰囲気で結構好みだ。
女の子「カレイ ファス イラ? ズォル ネ ヴァル イラ?」
はい確定。
たった今、俺は外国にいることが確定した。
彼女の耳慣れない言語が何よりの証拠だ。
日本語はもちろん、英語でもなさそうだ。
落ち着け。日本語は通じなくても英語なら通じるかもしれない。
この世界の共通言語だぞ、ナメるな。
もし英語がダメだったら、後で笑顔も試してみよう。
そう思いながら、俺は恐る恐る尋ねた。
「Excuse me, but where am I?」
彼女はずっと不安そうにこちらを見ている。
英語も通じていないということか。
すかさず俺はニコッと笑ってみせた。
「カレイ ネ リュファ サレンナ」
「ラヴ カレイ ゼル イラ?」
「リス ファル モル イラ?」
おそらく質問をされているということ以外は、まったくわからない。
しかし、お分かりいただけただろうか。
俺が笑顔を見せた瞬間、彼女はめっちゃ喋りだしたのだ。
やっぱりこの世界の共通言語は英語じゃなくて笑顔だったのか……!
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「サルヴァ。カレイ ネ ズォル ヴァル サー、アン ソル...!」
「え……それって……」
俺が笑顔の大切さを噛み締めているうちに、
気づけば彼女は細く柔らかそうなその手に剣を握りしめていた。
最後まで読んでくれてありがとうございました!
謎の老人と美女レイヤーさんの目的とは…?
見知らぬ土地で出会った言葉の通じない女の子に刃を向けられた悠記はどうなるのか…?
次回「第3話 帝攻略本ッ!」乞うご期待!
文字で説明できることはあまりありませんが老人と美女の見た目について
<老人>
・白寄りの金髪、オールバックで1本だけ毛束が前に垂れている、後ろ髪は長い
・白を基調としたローブを羽織っている、老人にしては体格が良く背筋も伸びている
・悠記より背が高い
<美女>
・藍色の髪、腰ぐらいまでの長さで毛先が内巻き、前髪の左側だけ後にかきあげている
・海賊っぽい帽子、海賊っぽい丈の長いジャケット、インナー、ピチッとしたパンツ、全て白を基調としている、焦茶色の太いベルトを2本腰につけている
・インナーは胸元を開けている
・目が優しい
・悠記よりも背が高い
こんな感じですかね。
あと間接的に触れてますが、わかりにくいかもしれないので補足します。悠記と御歌は直接対面するのが2年ぶりなだけで、オンラインベジグリは御歌の復帰後何度かやっています。




