あの日のペルテ
森の奥の洞穴で見つけた卵の母親と思しき遺体を森の中に埋葬した俺たちは、洞穴の中で一晩過ごすことにした。
シングマンはギリギリ入れなさそうだったので、功労者なのに申し訳ないが外で休んでもらうことにした。
アリュゼルン「無事に一日を終えられそうですね。」
悠記「そうだね。いろいろあったけどなんとかここまで来れた。」
アリュゼルン「悠記さんがいてくれたおかげです。ありがとうございます。」
悠記「いや、俺の方こそアリュゼルンがいてくれたからここまで来れたんだよ。ありがとう。」
俺がそう言うとアリュゼルンは心の底から安心したような落ち着いた笑みを浮かべ、俺の方を見つめていた。
少し気まずくなった俺はつい話を逸らした。
悠記「そ、そうだ!何か食べよっか!
オイストが食べ物とか水も用意してくれてたみたいだから!ホント助かるよなー!」
アリュゼルン「そうですね!えっと、何があるんでしょうか....」
悠記「うーん、よくわからないけどこれとか....?」
アリュゼルン「あー!これは“オミアギャジュ”ですね!私もおばさんも好きでよく食べていました!
煮ても焼いても揚げてもおいしいんですよね!」
悠記「おばさん?おばさんと暮らしてたの?」
アリュゼルン「はい....私、両親がいないんです。」
悠記「え....?」
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昔から私には両親がいませんでした。聞いた話によると私が生まれる前に2人とも死んでしまったのだとか。
そして死んだ両親に代わって私を育ててくれたのがその“トゥンクおばさん”なんです。
これも聞いた話ですが、私の実の母親が生前、イムロヴィンの防衛や国内での問題解決を担う“愛護団”という組織の4番目のチームで団長を務めていたらしく、トゥンクおばさんは当時その第四愛護団の副団長を務めていたこともあり、私の実の母とはお互いにとても信頼し合っていたそうです。
トゥンクおばさんに引き取られた私はイムロヴィンの首都ペルテで育ちました。
トゥンクおばさんは気高く強い愛の騎士として、私の実の母亡き後の第四愛護団を率いていましたが、私にはとても優しかったんです。
戦い方を教えることは一切せず、私の興味があることには精一杯協力してくれました。
私が花に興味を持ったときは、街の外まで私を連れて行ってくれて、いろんな花を見せてくれました。
私が料理に興味を持ったときには、食材をたくさん買い込んでくれて、私が量産してしまった失敗作も「おいしい」と言って食べてくれました。
おばさんには配偶者がいなかったので、私たちはずっと2人きりで暮らしていましたが、それはそれは穏やかで幸せな日々でした。
今の私がいるのは、ここまでおばさんが伸び伸びと育ててくれたおかげです。
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悠記「へぇ〜トゥンクおばさんか。優しい人だったんだね。
でも、トゥンクおばさんもその…今どうしてるかわからないの....?」
アリュゼルン「はい、トゥンクおばさんは5ヶ月ほど前にイムロヴィンが攻め込まれた時、身を挺して私を都市の外に逃してくれました。
私がトゥンクおばさんの顔を見たのはそれが最後です....。」
悠記「アリュゼルン....その...首都ペルテだっけ....?
本当に行かなくていいの?」
アリュゼルン「........いいんです。
今行けばすべてが台無しになる可能性がありますから。
せっかく悠記さんと巡り会えたのですから
この好機、無駄にはしません。」
悠記「そっか....わかった....」
今の俺たちがイムロヴィンの奪還を目的に動いた場合、必ずどこかで取り返しのつかないことになるというのは当然わかっている。
だが俺は確認せずにはいられなかった。
なぜなら彼女の表情を見れば、アリュゼルンが本音を飲み込んでいることは明らかだったからだ。
しかし、俺は心からアリュゼルンに今すぐ本懐を遂げてほしいと思っていたのだろうか。
もしもここでアリュゼルンが一言「行きたい」と言えば、俺は首都ペルテに向かっただろうか。
アリュゼルンが行かないと決めたことに心のどこかで安堵してはいないだろうか。
そんな後ろめたい気持ちを仄かに感じながら、俺はつい話を逸らした。
悠記「そ、そういえばアリュゼルンが俺と出会うまで5ヶ月もあったんだね。」
アリュゼルン「はい、リウボーフィ村が滅ぼされたのは1ヶ月くらい前ですが。」
悠記「そうだったんだ。ここまでなるのに結構時間かかってるんだね。」
アリュゼルン「はい、長かったような短かったような....苛烈な日々でした。」
悠記「ねぇ、アリュゼルン。
よかったら教えてくれないかな....?
この5ヶ月、アリュゼルンがどうしてたのか」
アリュゼルン「確かに断片的にしかお話ししていませんでしたね。
わかりました、お話しします。
この5ヶ月のことを....」
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今から5ヶ月ほど前、イムロヴィンのペルテで私はトゥンクおばさんと二人、穏やかな日常を送っていました。
トゥンク「アリュゼルン、アネパルクスさんにこの間の試食会のお礼を言っておいてくれないかい?」
アリュゼルン「うん、わかった。言っておくね。
それじゃあいってきます。」
トゥンク「いってらっしゃい。気をつけて行くんだよ。」
家の近所にあった“マンキャラモレ”という飲食店で働かせてもらっていた私は、その日もいつも通りお店に向かいました。
アリュゼルン「アネパルクスさん、こんにちは。今日もいい天気ですね!」
アネパルクス「ん?...あぁアリュゼルンか。
こんにちは。今日もよろしく頼むよ。」
アリュゼルン「あの、どうかしましたか....?
頭を抱えているように見えましたが....」
アネパルクス「うーん、それがなぁ。
この間、豊穣の国“クロヌレア”が攻め落とされただろう?
その影響でクロヌレアから仕入れていた食材がいくつか入ってこなくなっちまってなぁ。」
アリュゼルン「え….本当ですか?それって大丈夫なんですか….?」
アネパルクス「ハハハ。なぁに、アリュゼルンが心配することじゃないよ。
なんとか対策は考えるさ。
ただ、あのクロヌレアが落ちたとなると、この国も他人事じゃあないだろうな....。」
アリュゼルン「イムロヴィンでも戦争が起こるということですか….?」
アネパルクス「うーむ....。セーラ様ならなんとかしてくださると信じたいが、こればっかりは連合国軍次第だろうなぁ。
元々この戦争は連合国軍の一部の国々が始めたって話だからなぁ。」
アリュゼルン「あ、そういえば邪の国が他の国々を率いているってトゥンクおばさんが言ってました!」
アネパルクス「あぁ、邪の国のやりそうなことだ。
連合国軍は今や一国ではとても太刀打ちできない程強大な勢力になっているという....。
イムロヴィンの命運はもはやロヴェリシア様のみぞ知るところだろうが....このままでは連合国軍が次々と各国を飲み込んでいき....
まぁ、ジリ貧だろうなぁ。」
アリュゼルン「私たちはどうすればいいのでしょうか....」
アネパルクス「この間の礼拝でも仰っていたが、セーラ様は“決してこちらからは仕掛けない”という考えをお持ちだ。
万が一攻めてきた時は国を守るため応戦するとのことだったが、俺たちはただイムロヴィンが標的にならないことを祈っておくしかないんじゃないか?」
その頃世界中の様々な国が連合国軍によって攻め落とされており、その余波がイムロヴィンにも来ていました。
他国の戦争の様子を直接目の当たりにした国民などいませんでしたが、当時侵攻を受けていなかったイムロヴィンにも確実に緊張が走っていました。
私自身も親しい人や情報紙から得た情報しか知りませんでしたが、不穏な雰囲気はひしひしと感じていました。
しかしイムロヴィンは愛の神ロヴェリシア様を崇め奉る国。
イムロヴィンのすべてはロヴェリシア様とその申し子であるセーラ様に委ねられています。
私たち国民はただ憂いながら世界の動向を注視しているしかありませんでした。
しかし、ついに私たちの不安は現実となりました。
連合国軍がイムロヴィンに攻めてきたという知らせがペルテに届いたのです。
セーラ様は連合国軍の侵攻を食い止めるため、当初の宣言通り13ある愛護団のうち第五から第十三愛護団を即座に派兵しました。
もちろん連合国軍侵攻の知らせを受けたペルテは大混乱に陥っていました。
ペルテはイムロヴィンの中枢。
女王セーラ様のいるペルテを目指して連合国軍が進軍しているということは皆わかりきっていたのです。
ペルテで暮らす人々の中には郊外や他国に避難する人やシェルターで生活し始める人が出てきて、一時的に閉店する店なども少なくありませんでした。
私が働いていたマンキャラモレも例に漏れずしばらく店を閉めることになり、私は自宅でトゥンクおばさんの帰りを待つことになりました。
トゥンクおばさんが率いていた第四愛護団は当時前線には出ず、イムロヴィン領内の防衛を担っていましたが、連合国軍が攻めてきてからは自宅に帰らなくなりました。
そして連合国軍がイムロヴィンに攻めてきてからわずか3日後、トゥンクおばさんが帰らないことに大きな不安を抱えていた私は、家の外が急に騒がしくなったのが気になり家の外に出ました。
外に出るとみんなが同じ方角を見ながらひどく狼狽えていました。
その方角に目をやると、遠くで疎らに煙が上がっているのが見えました。
私は見慣れない景色に呆然としてしまっていましたが、そんな私の目にあるものが映りました。
それはイムロヴィンではない複数の国の旗印でした。
その瞬間、私は何が起こっているのかを理解しました。
ついに連合国軍がペルテに攻めてきたのです。
旗印を見る限り、ペルテに攻めてきたのは
生物の国『ドントフィード』
音の国『アンセンブラ』
炎の国『レハヴァフラン』
雷の国『ラァヴトルデ』
でした。
その時私が見た光景は、まさしく私が恐れていた光景そのものでした。
私の周囲では恐れ慄き逃げ出す人々もいましたが、私は確実に迫ってきている危険を感じながらも、その場から動くことはできませんでした。
どこに逃げればいいのかわからないのもそうですが、本来なら私を導いてくれていたはずのトゥンクおばさんがいなかったというのも大きかったかもしれません。
そんな時、周囲からとある話が聞こえてきました。
民A「いち早く侵攻を食い止めに行った愛護団はどうなったのさ。」
民B「それがどうやらそっちもまだ戦ってるみたいなんだよ。」
民C「本当かい?だったらあれはなんなんだい?」
民B「敵も軍勢を分けてたって話さ。」
民A「でも、だったらあれどうすんだい...
愛護団の半数以上がペルテを離れてんだろ....」
民B「セーラ様がペルテに残ってる愛護団引き連れてあそこに向かったみたいだ。
領内の哨戒に当たってたっていう第三、第四の一部も戻ってきてるっていう話だ。
信じるしかないよ。愛の申し子セーラ様とイムロヴィンの精鋭たちを....」
第四愛護団が一部ペルテに戻ってきているということはトゥンクおばさんもいるかもしれない。
私は迷わず走り出していました。
最後まで読んでくれてありがとうございました!
前話を書いたのがいつか覚えてないぐらい期間空いちゃいました。申し訳ない。
まぁ、順当にいけば私はまだまだ寿命があると思うので、無理なくのんびり書いていこうと思います。
補足情報とか出したいのですが、この先本編で出す可能性もあるので迷います。




