沈黙のリウボーフィ
またもや死線を乗り越えた俺たちは改めてイムロヴィンを目指し、森の中を進んでいた。
アリュゼルン「悠記さん、一つ聞いていいですか?」
悠記「ん?どうしたの?」
アリュゼルン「悠記さんは他の惑星から来られたのに、部分的にこの惑星に詳しいのはなぜですか?
先ほども悠記さんの言う通りにしたらあの生物を倒せました。」
悠記「そういえば言ってなかったな。この前俺の“推し”の話をしただろ?」
アリュゼルン「はい、確か悠記さんのとても大切な人ですよね?“おんか”さん?でしたっけ…」
悠記「そうそう。その御歌ちゃんがどうやらこの惑星に来たことがあるみたいなんだよ。」
アリュゼルン「えぇ!本当ですか...?」
悠記「うん、俺が最初ここを異世界だと思ってたのも御歌ちゃんの影響なんだ。
おそらくつい2ヶ月くらい前まで御歌ちゃんはこの惑星にいたみたいでさ。あ、でもこの惑星、俺のいた惑星よりも時間の進みが早いみたいだからなぁ。この惑星の時間軸で言えば2ヶ月じゃないかもな。」
アリュゼルン「え、そうなんですか?」
悠記「うん、俺も驚いたよ。なんか異星っぽいよな。
でも御歌ちゃんはここを異世界だと思って冒険してたらしくてさ、俺たちの惑星に帰ってくるなりここでの体験談をすごく嬉しそうに語るんだよ。
それでこの惑星の生き物の話もよく聞いててさ、最初に襲ってきたトサカのあるやつとか、夜の森にいた獣みたいなやつとか、さっきのデカくて速いやつも全部、御歌ちゃんの話してた内容と全く一緒だったから。」
アリュゼルン「そうだったんですね...それでは“おんかさん”は命の恩人ですね!」
悠記「あぁ、感謝だね。」
アリュゼルン「私もいつか感謝を直接伝えたいです!
悠記さんの住んでいた惑星、私も行けるでしょうか...」
悠記「あー、確かに気になるな。
でも俺がこっちに来れたなら、アリュゼルンもあっちに行けるんじゃない?
変な扉を潜っただけだし。
でもあの海賊みたいな女の人を見つけないと、どうにもならないな。」
アリュゼルン「海賊...?なんですかそれは?」
悠記「ここには海賊はいないのか?うーん、海賊を知らない人に海賊の格好を説明するのは無理だなぁ。」
アリュゼルン「そうなんですか。
そういえばその“おんかさん”は悠記さんと同じ方法でここに来たのでしょうか?
同じ方法で来たなら帰る方法もわかるのではないですか?」
悠記「いや、それがわからないんだよ。
俺はここに来る直前とここに来る最中、そしてここに来た直後のことすべてを今でもはっきり覚えてる。
でも御歌ちゃんはそのすべてを覚えてなかったんだよ。
目が覚めたら広くて天井の高い綺麗な部屋で知らない人たちに囲まれてたらしい。」
アリュゼルン「うーん、それはまた謎ですね...。
通常、この惑星に来る異星人は宇宙船などに乗って来ますが...」
悠記「いや、御歌ちゃんに関してはそれはないよ。」
アリュゼルン「え、なぜですか?」
悠記「俺たちの惑星ではこの惑星はおそらく認知されてないんだよ。
そもそも俺たちの惑星以外に生き物が住んでる惑星が見つかってない。
だから俺もここが惑星だと知った時はビックリしたよ。
それに、俺たちの惑星では一般人が乗れるような宇宙を自由に移動できる乗り物は無いからね。
御歌ちゃんは有名人だけど権力者でも技術者でもないから、宇宙を移動したとは考えにくいんだよ。」
アリュゼルン「それではその“おんかさん”も悠記さんと同じ方法でここに来たと...?」
悠記「うん...もしくはまた別の信じられないような移動方法が存在するか...」
アリュゼルン「悠記さん。」
悠記「ん?」
アリュゼルン「私は昔、ある神様の話を聞いたことがあります。」
悠記「神様?おとぎ話とか神話みたいなものか?」
アリュゼルン「そうかもしれません。実際私も見たことはありませんから。」
悠記「うん、だろうね。」
アリュゼルン「その神様の名前は“冒険神レルトネヴダ”。子供の頃、故郷の大人たちや本から見聞きしただけですが、とてもよく覚えています。」
悠記「レルトネヴダ…なんか神様っぽい…」
アリュゼルン「神様ですよ。」
悠記「あ、うん。いや、すごそうな名前だなって思ってさ。で、その冒険神?がなんだって言うんだ?」
アリュゼルン「私が見聞きした話によると、冒険神レルトネヴダ様は転移能力を持っているらしいのです。」
悠記「へぇ〜転移能力…!そんな神様がいるんだ。」
アリュゼルン「あ、見えてきました。」
そうアリュゼルンに言われて前を見ると、無数に立ち並ぶ木々の向こうに再び広々とした平原が見えた。
悠記「お、ということはついに?」
アリュゼルン「はい、一応ここからはイムロヴィンの領土になります。とはいえ、領土の端なのでほとんどが自然ですが。」
悠記「でも目的地は近いんだよな?」
アリュゼルン「はい、ここまで来れば目的の村まではもうすぐです!」
森を出た俺たちは引き続きイムロヴィンの平原をシングマンに乗り進み続けたが、後ろから見たアリュゼルンは少し緊張している様子だった。
確かにこの平原にもテックテックキルスの平原にいたシカみたいなやつがいた。
パッと見渡した感じさっきのような大きな生物はおらず、小さくておとなしそうな生物が点々としているだけだった。
とりあえずこの一帯は安全そうだ。
イムロヴィンの平原を数分間進み続けると、アリュゼルンが遠くを指差しながら口を開いた。
アリュゼルン「悠記さん、あれが見えますか?」
悠記「ん?あ〜なんだあれ…櫓…?高い柵みたいなのも見えるな。
あ、もしかしてあれが?」
アリュゼルン「そうです。あれが目的のリウボーフィという村です。」
悠記「おぉ!あれがそうか〜!無事に辿り着けそうでよかったよ!」
アリュゼルン「はい!あと少しです。頑張りましょう!シングマンもよろしくね。」
シングマンは相変わらず鳴き声ひとつあげずに走りだした。
確かによく考えたらシングマンはここまでほぼ休憩なしで走り続けてるんだよな。
並外れた体力だ。おまけに速くて身体能力も高く、これはあくまで推測だが頭に生えたアトラスオオカブトみたいな3本の大きなツノで、ある程度攻撃役も担えるのではないかと踏んでいる。
この惑星ではかなり重宝されている家畜みたいなものなのかもしれない。
いや、でもアリュゼルンが知らないってことは珍しいのかな...?
とにかく村に着いたらたくさん休ませてあげないとな。
そんなシングマンのおかげで、遠くにポツンと見えていただけのリウボーフィ村は見る見るうちに近づいていた。
しかし、近づくにつれてその全貌がはっきりしてきたリウボーフィ村を見て、俺はとてつもない不安感に襲われた。
というのも、村を囲っている背の高い木製の壁が所々壊れていたのだ。それは劣化などではなく、明らかに何者かによって破壊されたような痕跡だった。
そして村に辿り着いた俺は思わず絶句した。
案の定、村の中はボロボロだった。家屋は崩れ、木々は倒れ、食べ物や道具など様々なものが散乱していた。
そしてその中には、明らかに人と思われるほとんど骨となった無数の遺体も転がっていた。
おそらく死んでから時間が経ったのだろう。白骨化はしていないが、数ヶ月は経っているだろうか。
漫画やアニメなどでしか見たことのないような凄惨な光景に頭の中が真っ白になり、俺は小刻みに震えながら少し後ずさった。
この村で何かが起きたことは誰の目にも明らかだった。
その時俺の頭をよぎったのは、この惑星に来てから出会った凶暴な生物たちだった。
特にさっき森で出会したあの明らかヤバイノシシ。
あれほどの巨体と凶暴性を持ち合わせた生物が普通にその辺に生息していると考えると、一つの小さな村がこんな風に簡単に滅んでしまうのも想像に難くない。
アリュゼルン「悠記さん、すみません…。突然このようなものを見せることになってしまって…。」
悠記「いや、いいんだ。ちょっとびっくりしたけどね。これが俺に見せたかったもの?」
アリュゼルン「はい、そうです。」
悠記「これはさっきみたいな大きな生物の仕業なの?」
アリュゼルン「はい、この村をこのような状態にしたのはおそらく何らかの生物だと思います。
ですが、これはそんなに単純な話ではないのです。」
悠記「…………どういうこと?」
アリュゼルン「悠記さん、すみません。悠記さんをここに連れてきたのは完全に私のエゴです。
悠記さんは自分の意思だとおっしゃるでしょうが、私は悠記さんがこの惑星に安寧をもたらす鍵になる気がして、悠記さんにこの惑星の現状を知ってもらうためにここに連れてきました。
悠記さんがこの惑星の問題に干渉すれば、数々の困難や危険が悠記さんの身にも降りかかる可能性があります。
悠記さんにはたくさん助けられたのに、私たちの問題に巻き込んでしまうのは恩を仇で返すと思われても仕方ないと思います。
ですが私は悠記さんに期待せずにはいられないのです。悠記さんが特殊な方法でここへ来たことも、これまでの勇姿や機転も、もう悠記さんが救世主に見えて仕方ないのです!
これは完全に私のエゴです…」
悠記「同じこと言ってるよ。」
アリュゼルン「え…?あ、すみません!言いたいことがまとまらなくて!」
悠記「必死すぎるよアリュゼルン。らしくないじゃん。
でも気持ちは伝わったよ。」
アリュゼルン「………。」
悠記「聞かせてよ。この惑星で何が起きてるのか。」
アリュゼルン「本当に…いいのですか?」
悠記「俺この惑星に来れて本当に嬉しかったんだよ。推しが冒険した世界だから。
御歌ちゃんは異世界だと思ってたみたいだけど、本当に楽しそうにここでの出来事を話すんだよ。
でも全部が俺の惑星では嘘みたいな話でさ、御歌ちゃんを誹謗中傷する人も多くてさ、俺もここに来るまでは御歌ちゃんの話が完全に真実だって信じてたと言うと嘘になる。でも悔しかったんだよね。
御歌ちゃんの話がみんなに信じてもらえないことがじゃなくて、楽しそうに思い出を話す御歌ちゃんの無邪気さに刃を向けられるのが。
そんな時によくわからないけどここに来れて、御歌ちゃんの言ってた世界だってわかって、もちろん危険な目にもあったけど、それ以上に御歌ちゃんが言ってた世界に来れたのが嬉しくて、たぶん俺以外のファンはここには来れてなくて…あぁ、なんか俺もまとまんなくなっちゃったな。
まあ要するに、推しが行ったこの世界をもっと堪能したいと思ってたってこと!」
アリュゼルン「悠記さん…」
悠記「前にも言っただろ?俺もアリュゼルンの存在に助けられたんだ。
それに正直、言葉が通じない時からアリュゼルンは何か背負ってるんじゃないかって思ってた。」
アリュゼルン「え…そうなんですか……?」
悠記「うん、だからさ……聞かせてよ。」
アリュゼルン「ありがとうございます…!さすがは英雄様ですね…!器が違います!」
悠記「気が早いよ!役に立つかはわからないよ!?」
アリュゼルン「いえ、正直私はオイストさんから聞いた話で確信したのです!
ですがまあ、その話は今は一旦置いておいて本題に入りましょう。
この惑星は現在、世界中を巻き込んだ大きな戦争の最中にあります。」
悠記「戦争…!?マジか…。」
アリュゼルン「私は悠記さんがその戦争に終止符を打つ鍵になると睨んでいるのです。」
悠記「…………えぇ〜!!!!俺が!?」
最後まで読んでくれてありがとうございます!
文章構成に苦戦していて更新頻度が落ちていますが、もうちょっと頑張ります。
サンタさんに文才をお願いしたけど、もらえませんでした。




