九・異世界転生なんざ、くそったれ!③〔完〕
月の第二城から来た、陸を跳ねて移動する伝令役の二枚貝──『ジャンピング・シェル』との会話を終えたリックが。
ジャジャに飛び乗った鬼導 星二に言った。
「星二さま、レザリムスの【東南西北の四大厄災】が、中央地域の昆虫騎士ピクトグ・ラムの居城『黒いゴルゴンゾーラ城』に、集結をはじめたとの連絡が入りました」
「ほぅ、どんなヤツらだ」
「東の厄災【魔勇者の娘『甲骨』】
南の厄災【食魔獣トンパ・トンパ】
西の厄災【ググレ・グレゴール大司教】
北の厄災【影武者女王デス・ウィズと狂気の外科医キリル・キル】」
「集結しているのは厄災だけか?」
「いいえ、それぞれの地域の守護者たちも厄災を追って。ゴルゴンゾーラ城に集結しはじめています。
東の守護者【赤いガイコツ傭兵カキ・クケ子】
南の守護者【蛮族料理人・カリュード】
西の守護者【大魔導師・ナックラ・ビィビィ】
北の守護者【魔女皇女・イザーヤ・ペンライト】……そして、結晶洞窟の女魔王【パール・ソネット】も援護に駆けつけたそうです……わたしたちは、どうしましょうか? 星二さま」
「そんなの、決まっているじゃねぇか」
星二は木刀で、戦艦空母を示して言った。
「オレたちは、ルメス姫を救い出して。あのでっかいカトンボを叩き落とす! 行くぞ! ジャジャ……落ちろ! カトンボ!」
星二は、ツートンカラーのワイバーンに乗って。
ナガト・デスティニーに向かって飛び立った。
◇◇◇◇◇◇
ナガトから伸びている、触手のようなモノの攻撃を避けながら。
発着口に飛び込んだ星二は、木刀で触手を蹴散らして黄金の艦橋へと向かう。
「邪魔するな! 化け物ども!」
星二が操舵室に飛び込むと、そこに触手に囲まれた、ルググ聖騎士団たちがいた。
黄金の壁にメリ込んだ宝石類に心を奪われたネルが、呟きながら黄金に近づく。
「なんて綺麗な輝きの宝石……ネルはファンになってしまいそうだよ」
ネルを取り込もうと、伸びてくる触手を剣で払いながらベレイが叫ぶ。
「しっかりしろネル! 自分を見失うな! 欲望に呑み込まれたら、吸収されるぞキュン」
◇◇◇◇◇◇
星二はベレイの所に駆けつけて背中合わせで、蠢く触手群から互いの背後を守る。
「無事だったか、ルメス姫はどこだ?」
「あそこだ」
ベレイが指差した先には、操舵輪の前面窓に首から下を繭か卵の殻のような白いモノに包まれ。
吸い込まれた時と同じポーズで磔状態になって両目を閉じている、ルメス姫の姿があった。
体のラインが卵のような繭の表面に、少し膨らんでいるところを見ると、姫は衣服が溶けて裸体らしい。
ベレイが言った。
「操舵輪が触手で、ガッチリと固定されている……少しの間だったが、触手で捕らえられた時に。コイツらの意識が流れ込んできて……正体がわかった」
◇◇◇◇◇◇
蠢く触手を木刀で叩き斬りながら、星二がベレイに訊ねる。
「コイツら、いったいなんなんだ?」
「一言で言えば別世界の【寄生生物】だな……この戦艦が寄生されて、内部まで侵食されたので別の世界に投棄された迷惑なゴミだ……何百年もかけて、復活の機会を狙っていたキュン」
◇◇◇◇◇◇
別世界から廃棄された、戦艦空母は中央湖の王室の人間の体に、地図遺伝子を忍び込ませた。
なん世代か経過した時に、忍び込ませた遺伝子が強く現れる時を待ち続けて──。
「人間が興味を持ちそうな鉱物の元素を、地中から吸収して戦艦空母の表面に付着させて──大いなる力と輝く財宝の欲望で、人間が復活させるようにコイツが仕組んだ……」
「目的は?」
「より強い欲望が集まる場所……中央地域の人間の吸収」
◇◇◇◇◇◇
大剣を振るってネルを触手から守っている、エ・ジールがベレイ師団長に訊ねる。
「これから、どうするんですか? 師団長!」
「こんな、危険な化け物……中央地域に向かわせたら世界の終わりだ、ルメス姫を救出して……湖底に沈める」
ベレイの言葉を聞いた、星二が苦笑した。
「考えが一致したな、おいっ。エ・ジールとやら、そのでっかい剣に跳び乗ったオレを姫に向かって投げつけろ」
◇◇◇◇◇◇
両目を見開いたルメス姫の口から、寄生生物の言葉が漏れる。
《させぬ!》
ルメス姫の腹部に、丸い複眼のようなモノが出現する──寄生生物の本体だった。
《我を攻撃したら、この娘の肉体も傷つくぞ……やめろ!》
エ・ジールの大剣に跳び乗る星二。
「そんなヘマは、しねぇよ……オレを誰だと思っている、鬼導 星二だぞ!」
木刀を突き出して、ルメス姫に向かって跳ぶ星二。
「変われ! 白き木馬!」
木刀の先端が木製のユニコーンに変わり、一本角がルメス姫の体を傷つけるコトなく、寄生生物の複眼本体を砕く。
◇◇◇◇◇◇
艦内を侵食していた、触手が次々と消滅していく。
捕らえられていたルメス姫も触手から解放されて、裸で星二の腕に抱かれた。
触手の固定が無くなった、操舵輪を中央湖の方向に回し、剣で固定するベレイ。
◇◇◇◇◇◇
艦内に響く爆発音。
「コントロールしていた寄生生物が消滅したから、どこかが暴走して爆発したか……艦から逃げろ!」
宇宙戦艦空母ナガト・デスティニーから、次々と湖に向かって飛び降りるルググ聖騎士団は、ワイバーンの群れに救出される。
爆煙を出しながら着水した、黄金色の戦艦空母は、金のメッキが剥がれるように……静かに湖中へと沈んでいった。
◇◇◇◇◇◇
ガルダン島に、意識を失ったままの裸のルメス姫をジャジャに乗せて、もどってきた星二の元にグザム王妃が駆け寄る。
「ご無事でしたか、星二さま」
「あぁ、オレは大丈夫だ、それより姫を頼む」
ルメス姫を受け取ったグザム王妃は、白いシーツで姫の裸体を包み隠す。
意識を取り戻したルメス姫が、ジャジャから降りてきた星二 を見て言った。
「星二……さま」
「終わったよ……全部、もうこれで聖騎士団から狙われるコトは……」
低い石の階段を下りようとした星二は、コケで滑って後頭部を強打する。
驚くルメス姫。
「星二さま!?」
後頭部を押さえた鬼導星二が、上体を起こして言った。
「いったぁ……電灯を交換しようと低い脚立に乗ったら、バランス崩して落ちて床に後頭部を……えっ!?」
周囲を見回すサーラ。
「ここ……コチの世界? 異界大陸国レザリムス?」
サーラは、自分の手を眺める。
「女の手、女の体……あたし、元の肉体に帰ってきた?」
サーラは、白いシーツに体を包んで、自分を見ているルメス姫の存在に気づく。
「あっ、食い逃げの姫さま?」
◇◇◇◇◇◇
ルメス姫は微笑みながら、町娘のサーラに話しかける。
「メッ・サーラさんですね。こうして名乗るのは、はじめましてですか──ババアクウー国のルメス姫です」
すべてを悟ったルメス姫が微笑む。
「そして、さようなら星二さま……今までありがとうございました……さて、どこから何を話したら良いものでしょうか」
そして、ルメス姫は鬼導 星二と出会ってから、今までのコトをメッ・サーラに語りはじめた。
『異世界転生なんざ、くそったれ!』~完~