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中央湖地域の【鬼導 星二】……異世界転生なんざ、くそったれ!  作者: 楠本恵士
ルメス姫の体を調べろ!眠らされて拉致された鬼導 星ニ
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六・生きろ! ただ、その ためだけに

 その日──新調したトラ柄迷彩模様のハ虫類皮防具を、片方の肩と片方の胸に装着した鬼導 星二は。

『月の第二城』の部屋で、今まで沼ドラゴンのなめし皮の裏側に描き溜めてきた、ルメス姫の女体に現れた図形をテーブルの上に並べていた。


 並べ終わった星二は、腕組みをして唸る。

「今まで記憶して書き残してきたが……こりゃいったいなんだ? リックにはわかるか?」

 働きナマケモノのリックが、木製テーブルの上に並んだ、なめし皮を眺める。

「中央湖に浮かぶ島の地図……でしょうか? これだけでは、どの島か特定は難しいですが」

「そうか、ルメス姫の体に浮かぶ図形を、もっと集めないとな」

 星二がテーブルの上に広げた、沼ドラゴンのなめし皮を片付けていると、グザム王妃がやって来て言った。


「あっ、いたいた探しましたよ。星二さま」

「名前に『さま』はよしてくれ、オレは王妃さまからそんな呼ばれ方をされるような、人間じゃねぇ」

「ルメス姫を守っていただいているので、わたくしの感謝の気持ちで星二さまと呼ばさせてください……用件は地獄送りを免れた〝転生者〟が現れたので。注意していただくように……この方が城に来て忠告を」

 振り返ったグザム王妃が首をかしげる。


「あれ? さっきまで後ろを歩いていたのに? どこに? こっちですよ、わたくしの声が聞こえる方向に来てください」

 奇妙な人物が壁伝いに、手探りで部屋に入ってきた。

 目隠しをしていて、剣が収納できる鞘が一体化した盾を持っている。

 丈が短いスカートを穿いた、ギリシャ神話の女戦士のような格好をした剣士女神だった。

 盾の中央には天秤が取り付けられていた。

 目隠しをした剣士女神は、部屋にあった大きな壺に頭をぶつけてうずくまる。

 

 目隠しをした女神が言った。

「痛っ、今ゴンッって音がした、頭からゴンッって」

 立ち上がった女神が、目隠しをズラして室内を確認してから、また両目を目隠しで隠す。

 グザム王妃が言った。

「紹介します、ジャッジの剣士女神『テミス』さんです……目隠しは先入観を排除して、正しい判定をするためらしいです」

「どもっ、テミスです。主に腐れ転生者の処分を担当しています……転生者の大量発生があった時に、地獄送りイベントを遂行した女神の一人です」


 椅子の上にスカート姿で胡座(あぐら)をかいた星二が、目隠し女神に訊ねる。

「女神なんて、この世界にいたのか?」

「滅多に人間の前には姿を現しませんけれどね……それより、大変な事態が発生しました──あたしのミスで、生きたまま地獄送りから逃れた腐れ転生者が一名、城に侵入しています……その転生者は、鬼導 星二に強い恨みを抱いています」


「オレに恨みを抱いている? どうしてだ?」

「その腐れ転生者は、安易に異世界に逃避するために、走行してきたトラックの前に笑いながら飛び出してきて死んだ愚か者です……自分には特殊な力が秘められていて、異世界でならその力で、楽してなんでも自由になると思い込んで。転生してきたパカです」


 テミスの話しだと、ダメ人間が転生をしたものの、自分が思い描いていた通りにならないので。

 幽体転生者の鬼導 星二を、完全な妬みと嫉み(ねたみとそしみ)で恨んでいるらしかった。

「そんなのオレに関係ねぇじゃねぇか、自業自得だ」

「それが、最初からわかっていたら転生目的で、軽々しく命を絶ったりしませんよ……とにかく、注意してください。あたしは城の中を見回ってきます」

 そう言い残して、壁や柱にぶつかりながら部屋から出ていくテミスを星二は眺めた。


   ◇◇◇◇◇◇


【アチの世界〔この世界〕】と、ある建設会社の事務所──作業服姿の女性事務員が、すまなそうな口調で言った。

「鬼導さん、すみません。定時で帰る時に電球の交換をお願いして」

 脚立に乗った、星二の肉体に幽体転生しているサーラが電球を取り外しながら答える。

「気にしないでください、妻が身重だから、高いところの電球をよく交換していますから」


 最初にアチの世界に幽体転生したサーラが見たのは、病院の天井と傍らで涙を浮かべている見知らぬ女性だった。

 病室のベットに寝かされていた、サーラの手を握りしめていた涙ぐむ女性──星二の妻のララは握ったサーラの手を自分の頬に押し当てて微笑む。

「よかった、橋の上から川に落ちて病院に搬送されたって、警察から連絡があった時は心配したんだから……命が助かってよかった」


 退院したサーラは、最初見知らぬ世界に戸惑ったが、ララがいるアパートで生活をしていくうちに徐々に慣れて。

 今では鬼導 星二が就職する予定だった建設会社に就職して、それなりにアチの異世界で生活をしている。

(最初は、見たことないモノばかりで戸惑ったけれど……この世界の生活も慣れると楽しいな、ララさんと生まれてくる赤ちゃんのために頑張って働かないと……この借りている肉体に星二さんの魂が、もどってくる日まで)


 電球の交換を済ませて、脚立を部屋の隅に片付けたサーラはドリンク剤を一本。

 女性事務員の前に置いて言った。

「残業ごくろうさん、これ飲んでムリしない程度に頑張って」

 作業服をロッカールームで着替えたサーラは、帰宅するために職場近くの駅へと歩いて向かった。


 ◆◆◆◆◆◆


【コチの世界〔異界大陸国レザリムス・中央湖地域〕】月の第二城──通路を歩いていたの星二は、明らかに危なそうな目をした不審者と遭遇した。

 その男は、不気味な笑みを浮かべながら星二に言った。

「鬼導 星二……いいよなぁ、転生者で人気者になれていいよなぁ……オレもなりてぇよなぁ」

 仰け反るような格好で、星二を妬む目で見る性根が腐った転生者。

「鬼導 星二、女の体に転生するってどんな感じだぁ? へへへっ」


 最低の転生者を睨みつけながら、星二が背負っている神木の木刀を引き抜き構え言った。

「てめぇか、走ってくるトラックの前に転生目的で笑いながら死んだヤツは……てめぇ、身内を悲しませたな。それだけじゃねぇ、運転していたドライバーと家族も悲しませた」

「うへへっ、死んじまった後のコトは知っちゃこっちゃねぇ」

「最低の男だな、オレがぶちのめしてやる」


 最低転生者を挟み込む形で、反対側からテミスが現れた。

 テミスが言った。

「今度は逃がさない……おまえには地獄など、生ぬるい地獄の深淵にまで落ちろ!」

 テミスの持っている、肉体と魂を分離させる剣が転生者の肉体と魂を分率切断した。

「へへへっ、これでまた転生できる……へへへっ」


 剣を鞘に収めてテミスが言った。

「成敗! また、くだらないヤツを斬ってしまった……魂が抜けた腐れ転生者の肉体は、光りの粒子になって昇天する」

 光りになって消えていく転生者に背を向けて、数歩進んだテミスは立ち止まり振り返り目隠しをズラして昇天していく転生者に首をかしげた。

「なんか、手応えが変……そう言えば、こいつの転生スキルっていったい?」


 ◆◆◆◆◆◇


【アチの世界】駅のプラットホーム──スマホの画面を見ながら電車待ちをしていた、鬼導 星二姿のサーラは、ドンッと後ろから体当たりをされた感触と、脇腹に焼けるような鋭い痛みを覚えた。

(えっ!?)


 見知らぬ男が、サーラを見上げて。薄笑いを浮かべながら睨みつけていた──男の手にはナイフが握られ、切っ先がサーラの体の中に入っている。

 サーラを刺した、男が言った。

「見つけたぞ、鬼導 星二……いいよなぁ、おまえは異世界転生の成功者でいいよぁ……これが、オレの転生スキル。異世界で情念を抱いて死んだら。地獄から這い上がってきて、望む世界に一回だけ再転生できる……へへへっ」


 レザリムスからの幽体転生者のサーラには、見知らぬ男が何を言っているのか瞬時に理解できた。

 男はさらに話し続ける。

「地獄から這い上がってきたオレは。この、死にたがっていて魂が抜けた男の体を奪ってやった……へへへっ、鬼導 星二ざまぁ」

 刺されてホームに倒れるサーラ、駅のホームに響く悲鳴。

 男はその場で数名に取り押さえられ、電車待ちをしていた多くの人にスマホで顔を撮影された。

(帰らなきゃ……ララさんが待っている家に帰らなきゃ)

 薄れていく意識の中でサーラは。

「早く救急車を!」の声を聞いた。


 ◇◆◆◆◆◆


【コチの世界】月の第二城──星二は突然の脇腹の痛みに、座っていた椅子から床に倒れる。

「ぐっ……なんだ、この痛みは?」

 星二の急変に驚くリック。

「星二さま?」

「リック……アチの世界のオレの体に何かあった」


 ◆◆◇◇◆◆


【アチの世界】サーラが緊急搬送された病院の集中治療室──通り魔に刺されたサーラは治療され、電子機器の音が聞こえる部屋で、意識を失った状態でベットに寝かされていた。


 ◇◆◆◆◆◇


【コチの世界】月の第二城の寝室──。

 急に脇腹に痛みを感じて意識を失った星二は、心配そうなルメス姫や、リックに見守られながらベットに寝かされていた。


 ◆◆◆◇◇◇


【コチの世界・アチの世界】二人の共鳴した夢の中──鬼導 星二の意識は、刺されたサーラの夢とシンクロして飛んでいた。

 酸素吸入をされているサーラを励ます星二。

「生きろ! 死ぬな! 頼むから生きてくれ! どちらかが死んだら、もう片方も死ぬ」


 ◆◇◆◇◆◇


 夢の中で、薄っすらと目を開けたサーラは、星二が伸ばしてきた手を握りしめて微笑む。

 うなずいた星二も、涙を流しながら微笑む。

 不思議な絆で結ばれた二つの魂が言った。

「オレは……」

「あたしは……」


 ◆◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◇


「「死ねない!」」

 そして、鬼導星二の体のサーラは、一命をとりとめて意識がもどった。

 サーラの体の星二も、意識がもどる。


「星二さま」

 心配そうなリックに、ベットの中で涙を拭った星二が言った。

「リック……生きているっていいもんだな……オレは、この借りている体で精一杯生きてやる」

「はい、その通りで」

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