ミルクと、それからガムシロップを
「──それで、きみって、なんで殺し屋になったの?」
ウィル・ノックバーが不躾に訊いた。
車内を満たす居心地の悪い沈黙を裂くためでもあったし、好奇心から出た質問でもあった。
それでも、リアシートから返事が来ないものだから、追撃をするようにつらつらと、独りでに言葉を紡ぎ続けた。
ノックバーの悪い癖だ。
「ああ、勘違いしないで?素性を探ろうって気はないんだ。でも、きみって元々は情報管理局の刑事課特捜部の出身なんだろう?マーチライトから聞いたよ。それで、誰もが敬服する諜報機関のエリート刑事様が、どうして悪に堕ちたのか、ちょっと気になってね」
ノックバーの軽口に、リアシートに身を沈めていたレファリアがうんざりとした様子で身を起こし、
「不景気の中で公務員なんてやってられないのよ」
とだけ、忌々しい目覚まし時計を黙らせるようにして吐き捨てた。
「じゃあ、きみはお金のためなら人を殺しても良いって考えているわけだ?素晴らしいね、刑事をしていた人の言葉とは思えないや」
「医者も弁護士も神父も、みんな金のためさ」
レファリアは溜息を吐いた後で、気怠げに呟いた。
「同感だよ。秩序を守りたければ、正義の味方が稼げるようにしてあげないと、僕らみたいなのが街に溢れて悪巧みするようになる。"身代金を払え"ってね」
レファリアはそれまで、小瓶に入ったカプセル剤を次々と噛んでは顔を歪めていたが、途端にそれを止め、小瓶をリアシートに転がした。
まるきり悪戯を咎められた子供だ。
「仕事の鬱憤を忘れさせてくれるのが、その薬物かい?」
ノックバーは柔らかい口調で訊いた。
「抗不安剤、正気でいるための魔法よ。これを噛んでいないと頭の中に嬌声が響いて、もう最悪」
忘れられない男を惰性で罵るような言葉が吐き出された。
「噛んでしまえるサイズの悩みなんて、どうにでもなるさ」
「でも弾倉には入らないみたい」
レファリアは左手で拳銃を模して、自身の脳天に向けた。
撃鉄の反動を再現して軽く跳ね上げたとき、本物のように火を噴いて殺してくれたらと期待していた。
「形が歪なんだ。悩みってやつは」
そこに優しさを探すように、レファリアはノックバーをちらりと見た。
病的にまで痩せた細身に、毒でも飲まされたかのように青白い肌を持つ青年がそこにいる。
レファリアはノックバーの優しげな横顔に惹かれて、
「刑事をしていた頃は、銃に安心感を覚えていた。きつく握りしめていると、嫌なことを忘れられる気がして。大好きな人形みたいに」
と柄にもなく身の丈話を溢した。
「力は何よりも簡単に絶頂へ導いてくれる。怖いくらいに」
「そのはずだったのに、今は薬物に夢中よ」
「何事にも飽きは来るものさ。それこそ命を奪うことにも」
レファリアは少し安堵したように顔を綻ばせた。
「そうなったとき、わたしは殺しを止められると思う?」
レファリアの問いに、これまで饒舌に口を動かしていたノックバーも一瞬考え込み、丁寧に言葉を選んで返した。
「代替品を見つけられたら、止められるさ」
「具体的には?」
ノックバーは再度唸った。
特別な相手がクリスマスプレゼントに何を欲しがっているのかを推察するように。
しばらくして、愛想を込めて言った。
「幸せ、なんてどうだい?」
レファリアが小さく微笑み、車内は再び沈黙に包まれた。
二人は電磁張力車と呼ばれる、半世紀前までは夢の域を出なかった、いわゆる"空飛ぶ車"に乗っている。
高出力の融合炉エンジンが銀色に煌めく長方体の車体を地面から数センチばかり浮かせ、有限燃料を湯水のように溶かしながら邁進する超高級車だ。
富裕層だけが乗るこの車種は、やはり金持ちはハンドルを握るべきではないというように、完全な自動運転機能を搭載しているが、今夜はノックバーが運転している。
機械オタクとしての性分で電気が通ったモノはなんでも自分の手で動かしたいだとか、運転が趣味だとか、レファリアには全く興味がない理由で。
二人はこれから結託して強盗を決行する関係ではあるが、レファリアからしてみれば"共犯者以上仲間未満"の間柄で、相手のことを知りたいとは微塵も思っていなかった。
つい先刻、独白をするまでは。
しかし、深く関わらないことが裏稼業で生き抜くコツだ。
必要以上の接点を持ってはいけない。
それこそ、二人を乗せた電磁張力車が緩やかに宙を滑る専用の高架道路と、遥か下方で昔ながらのガソリン車が忙しなく行き交う一般道のように。
ファレーデ州に修繕が不可能な経済格差が生まれたのは、レファリアが殺し屋になるよりも幾年か前になる。
戦後の好景気で飛躍的な経済成長に肖り、大規模な都市改革が進行していた頃に、バブルが崩壊して、都市構造にまで影響を及ぼしたのだ。
結果、円形都市のファレーデ州は官庁街と高級住宅地が融合した中央付近が一等地、その外縁をドーナツ状にぐるりと囲む、工場や労働者用の高層アパートメント、労働者たちで賑わうローエンド趣向の歓楽街を含めた一帯が二等地、さらに外側に広がる"見捨てられた空間"が三等地と、それぞれが呼ばれ始めた。
いつしかファレーデ州に住む市民の間には、中心からの距離に基いたえらく差別的な階級制度が敷かれるようになり、異なる区画同士の接点は緩やかに数を減らしていった。
その典型的な例が、交わらない道路だ。
電磁張力車用の高架道路は、二等地と接続されていない。
二等地に続く道は、主に物資の搬入口として使用されている数本の公道だけで、インターチェンジを通過する際には、厳粛に管理された通行許可証の提示を求められる。
二等地の北東に広がる歓楽街を根城にするマフィアとて、一等地に出入りするには相応の苦労を要した。
まるきり反旗を翻した革命軍が皇族を討てないようするために設けられた城下町と関所だ。
それだけ電磁張力車に乗っているということは、光栄な勲章に他ならなかった。
そしてやはり、覇道を歩む勝者は高潔であるべきだというように、レファリアもきっちりと飾付けされている。
肩に触れる長さで切り揃えられた黒髪が、華奢な身体をタイトに結ぶ烏の濡れ羽色のボディコンドレスと完璧にマッチし、白く澄んだ肌と鮮やかなコントラストを魅せる薔薇色のリップは、ぷっくりとした唇に極上の光彩を与え、レファリアの凛とした美貌をより一層艶かしく、さらには麗しい品格へと昇華させていた。
アメジストの耳飾りと、決して左に回ったり、暴れたりはしない金色の腕時計に倣い、レファリアの風貌もまた、完成された美術と化している。
「やっぱり、もう一度訊いても?レファリア──きみはどうして殺し屋になったんだい?似合わないというか……ほら、なんていうか、きみって綺麗だからさ」
レファリアをバックミラー越しにうっとりと眺めていたノックバーが、煮え切らない様子で尋ねた。
それから、くしゃりと笑い、
「余計な茶々かもしれないけれど──それだけ魅力的なら、最愛の人を見つけて、ベーカリーでも営みながらのんびり暮らしていく生活も望めたんじゃないかなって思ってさ。──それなのに、立派に刑事なんかして、今は殺し屋だろう?ずっと銃を手放せないでいる。美しい薔薇には棘があるっていうけれど、僕からすれば薔薇に棘は似合わない。きみを見ていると、なんだか不思議な気分になるんだ」
と言って恥ずかしそうに頭を掻いた。
「……それは、恋情?」
レファリアは豆鉄砲に撃たれた鳩の顔になって訊いた。
知らない言葉を復唱したような感覚があった。
「知的好奇心さ。──少なくとも、今はまだね」
ノックバーはそう言いながらハンドルを切り、電磁張力車を高架道路から降ろして、紳士淑女が闊歩する一等地のメインストリートの路肩に駐車した。
「僕らの戦場に到着だ。僕は計画通りに外から見守っているから、なにかあれば救援に向かうよ。それじゃあ、健闘を」
リアシートのドアが開かれ、レファリアが降りた。
「……ありがとう、ノックバー。どうかあなたも無事で」
レファリアの言葉を遮るようにドアが閉まり、電磁張力車は一等地の喧騒に向けて突進していった。
全てが始まりを迎えたそのとき、ノックバーは既に取り返しがつかない過ちを犯していた。
伝えるべきだったのだ。
せめて明日の夜にディナーを予約していることぐらいは。
「とびきりのロマンス詐欺をしましょう」
事件が起きる二週間前、レファリアを含めた六人の犯罪者はホテルのスイートルームで顔を合わせた。
招集したのは気品と美麗に溢れた言葉遣いで司会進行を務める"親愛なる仲介人"ことリル・マーチライトだ。
笑っているようにも、蔑んでいるようにも見えるピエロのような冷笑が特徴的な色白の美青年で、黒色のシャツの上からマジシャンが好むような派手な装飾の赤色のジャケットを着熟している。
ちぐはぐな格好だ。
マーチライトは裏稼業に精通する犯罪者たちを繋ぐ仲介人として、界隈では名が知れている。
部屋にいる者は皆、マーチライトに集められた者たちだ。
「今回は非常に重大な計画になります。ですので、こちらで精選して信頼なるプロフェッショナルの皆様にお集まり頂きました。目的のためならばどのような手段であろうと厭わない、犯罪のプロフェッショナルです。メンバーは私を含めて七名ですが、一人は下準備の関係で別行動となりますので、今日は不在です」
「僕らは七人の悪党ってわけだ、良いね」
マーチライトはにこりと笑い、部屋を見渡して、全員に互いを見るよう促した。
部屋の隅で壁に背を預けて立つレファリアも、他の五人と同じく全員を鋭い眼差しで一瞥した。
レファリアと同様に壁際で距離を置いている者もいれば、部屋に飾られた鹿の剥製を眺めて唸っている者もいる。
レファリアが顔見知りなのは、マーチライトを除けば豪勢なカウチソファで堂々と寛いでいるノックバーだけだ。
電子戦のエキスパートとして名を馳せるノックバーには、以前に協力を仰いだことがある。
"覗き魔"の異名で世界中の諜報機関から恐れられるノックバーの腕前は、情報管理局に務めていた頃に、サイバー犯罪対策課の同僚からうんざりするほど聞かされていた。
その正体があまりにも緊張感のない様子で、
「すごいね!きみたちが誰だか知らないけれど、とんでもない畜生なんだろう?僕と同じように。それが六人も必要になるなんて、どれだけぶっ飛んだ仕事をするのさ?」
なんて呑気に口を開く、だらしない格好の青年だと知った日には愕然とするだろう。
「そう焦らないで下さい、ノックバーさん。順を追って説明させて頂きますから。今回皆様に依頼するのは、先程もお伝えした通り、ロマンス詐欺になりますが、少々特殊な案件になりますので、どうか慎重に聞いて下さい?それと、先にお伝えしますが、報酬は全員に前金で六五○万ドル、成功でさらにその倍を約束しましょう」
マーチライトの言葉に、ノックバーが口笛を鳴らした。
「そりゃあまた随分と気前が良いね。それだけやばい案件ってことでもあるんだろうけどさ。ターゲットは?」
マーチライトはポケットからソーサーに似た白い円盤状の機器を取り出し、部屋の中央にあるローテーブルに置いた。
ホログラム投影機だ。
単調な電子音が起動を告げ、本体の側面に光の筋が灯る。
宙に青白い立体アニメーションが形成され、欧風でハンサムな顔立ちをした男の等身大バストアップ像を映し出した。
「標的はレイル・ターウィンズ、一等地の不動産売買で大儲けしている資産家です。表向きは、ですが」
マーチライトは歯切れ悪く区切った。
「裏でせこく儲けているわけだ。他の香水臭い富裕層たちと同じように。今のファレーデ州で明瞭な商売だけで上流階級に食い込むなんて絵空事さ」
「仰る通りですね」
「それで、僕たちは何を盗むんだい?」
ノックバーが興味津々といった様子で目を輝かせた。
マーチライトは改めて全員の目を見た後で、告げた。
「記憶ですよ」
最初にリアクションを唱えたのは、やはりというべきか、落ち着かない様子のノックバーだ。
「記憶……を盗む?どうやって?きみの口調から考えると、誘拐して尋問するって感じではなさそうだけれど」
眉間を狭めて不思議そうに訊いた。
「ターウィンズは記憶の売買という商売をしているんです。正気の沙汰とは思えない完全犯罪ですが、皆様にはそこを突いて頂きます」
「記憶の売買?なんだそりゃ」
「字面の通りですよ。人間の脳から記憶を抽出して、専用の記憶媒体に移したモノを商品として売り捌いているんです」
「ブルーレイを焼いて海賊版を売るみたいに?」
「的確な喩えですね。過去の体験を映画に変えているようなものですから、概ね正解です」
「素晴らしいイカれ野郎だ」
「火星着陸に成功した宇宙飛行士や、大手カジノのジャックポットを引き当てた客など、希少な経験をした人物を目星にして、記憶を奪い、殺害しています」
「……希少な経験?」
「チープで平凡は映画は売れないでしょう?」
「希少性と……独創性か」
「良質な記憶は天然ダイヤモンドよりも高価──なにしろ、体験したときのアドレナリンやらドーパミンやら、脳内物質の分泌まで完全に追体験できるそうですので」
「それはすごい、過去を買うなんて、情けないヤツらだ」
「言葉は選んで下さい?ノックバーさん?私たちの依頼主も莫大な財力で記憶を買い叩いている立場なのですから」
「おっ……と、クライアントを悪く言うつもりはなかった……んだが、ついでだ、どうしてターウィンズの記憶を求めてる?身柄じゃあダメな理由は?」
マーチライトは困り果てたように頬を掻き、
「詮索をしない、これは裏稼業の暗黙にして絶対のルールかと思いますが……?私は直々に少し説明を受けていますが、基本的に依頼主に関しては伏せさせて頂きます」
「黙秘ならそれでオッケーさ。……それにしても、記憶の売人と記憶の売人の記憶が欲しい富裕層、面白くなりそうだ」
ぞっとするような話が淡々と語られた。
マーチライトの声に感情の起伏は感じられなかった。
「……技術的に可能なの?」
咄嗟にレファリアが口を挟んだ。
「できると思うよ?倫理的に禁忌なだけで。人間の脳も基本的にはコンピュータと同様に電気信号のやりとりで動いているからね。信号の解読と書き起こしができるなら、理論上は記憶の外部保存も可能になる。脳内物質のなんたらかんたらも同じさ。人間の脳は簡単に騙せる。"右手を触られた"という情報の信号さえ送れば、右手を触られていなくても触られたように感じるんだ。これ自体はまだガソリン車と電気自動車しかなかった時代から確立されていた技術さ」
レファリアは絶句したが、世界でも有数の天才ハッカーにそう言われては、納得するしかなかった。
情報管理局でも、勾留した被告人が吐いた証言の真偽を見抜く目的で、脳波の観測を用いたウソ発見機のような機器は使われているが、それだって脳内を覗けるわけではない。
だというのに、今回の標的はそれができるというのだ。
「ノックバーさんの仰る通りです。皆様には記憶の商売人から記憶を盗んで頂きます」
「珈琲ショップから珈琲をテイクアウトするみたいにかい?そうなると、この中に闇医者の脳外科医がいて、誘拐したターウィンズの脳を摘出するわけだ」
ノックバーは可笑しそうに笑い、他の面々を見た。
反応はなかった。
「そうではありませんよ、ノックバーさん。誘拐するつもりはありません。ターウィンズの記憶が保存された記憶媒体を盗むんです。颯爽と、怪盗のように」
「盗むってことはつまり、ターウィンズ自身も自分の記憶を書き起こして記憶媒体に移し替えてるってわけか?」
「良い質問です。ノックバーさん、先程あなたは人間の脳をコンピュータに喩えましたが、コンピュータに大量の動画ファイルをインストールし続けた場合にはどうなりますか?」
「容量の圧迫……そうか、脳が飽和するわけだ」
「その通りです。人間の脳の記憶容量は数値に換算して約十七テラバイト、決して無限ではありません。新しい記憶を入れるには、古い記憶を取り出して容量を確保する必要があります。別の記憶媒体に移して保存するという形で」
ノックバーは納得したようにうんうんと頷いた。
「ターウィンズ自身の記憶が保存されたUSBみたいなモノがあって、僕らはそれを狙う、そういうことだね?」
マーチライトは静かに頷いた。
「ターウィンズが記憶を破棄している可能性は?誰にだって忘れたい過去はある。もしかしたら、保存してないかも」
そのとき初めて、のっぺりとしたマーチライトの表情が、覇気を放った。
「過去が消滅する恐怖に耐えられると思いますか?」
炎だ。
虚げな瞳の奥に、蒼炎が灯されていた。
しかし、次の瞬間にはふっと消え、再びひんやりとしたピエロの仮面らしき冷笑に戻った。
「どこにあるか、検討はついているのかい?」
「残念ですが、現時点では不明です。ですからこうも遠回りな計画が必要になりました。皆様には記憶の所在を突き止めるところからお願いすることになります」
「僕らは金庫の場所を知らない銀行強盗ってわけだ」
「これだけの面子が必要かね?一杯の珈琲を頂戴するのに、六人というのはどうにも多いような気がするが?」
マーチライトの言葉に異議を唱えたのは、レファリアと同様に壁際で腕を組んで静かに耳を傾けていたヴェリオルト・シャンディだ。
潔白さと権威を誇示するように、かっちりとした三つ揃いの紺色スーツを着ているが、いかにも壮年の紳士といった面貌には、どことなく胡散臭さが馴染み出ている。
それが過去に手を染めてきた数々の汚職と収賄の色に違いないと、襟に縫われた弁護士バッジを見た全員が察した。
検察側に有利な証言者を事故死させてきた悪辣な経歴までもが、うっすらと態度に浮き出ている。
"誰からも信頼される異常者"
この狡猾極まりない悪徳弁護士が、裏でどのように呼ばれているか、レファリアは知っていた。
甚だしいまでの守銭奴で、賄賂に靡いて寝返ることも。
「あまりターウィンズを甘く見ないほうがよろしいですよ、ミスター・シャンディ?彼は厄介なボディガードを侍らせています。私は万全な計画と最高のメンバーを用意したつもりですが、油断は禁物です。最悪の場合には、この中から犠牲者が出る結果になるかもしれません」
マーチライトは警告するように言った。
「安心したまえ、私はいつだって真剣さ。無実の人に罪を着せているときも。けれども、そちらのお喋りな坊やはどうかな?私には少し真面目さが欠けているように見えるがね?」
シャンディがちらりとノックバーを見て、露骨に挑発している口調で釘を刺した。
ノックバーは気に留める素振りもなく、飄々としている。
「おっと、僕のことかい?大丈夫、僕も真剣さ──大好きなゲームに関してはね。高い報酬を貰っている以上は、それなりに働くつもりだ。無能のレッテルを貼られない程度に」
「煽るのは程々でお願いしますよ、ミスター・シャンディ?私たちはチームなのですから。それに、ご安心下さい。彼のハッカーとしての能力は折り紙つきです。あなたが人を貶めることに関してそうであるように」
「だそうだ?弁護士先生?ムードメーカーだからといって、評定が低いとは限らないわけさ」
ノックバーが誇らしげに言った。
シャンディはそれ以上なにも言わなかった。
マーチライトが空咳で再度注目を集め、
「計画の詳細について説明を始めてもよろしいですか?」
壮大なシナリオを描き始めた。