第7話 解放への説得
「クラリス」
「……ッ!?」
おれが声をかけると、クラリスはびくりと震え上がった。
「お前も来ないか」
「え……でも、わたし、は……」
ちらりと他の者たちを見やる。ピグナルドの命令で傷つけてきたことを気にしているのだろう。
「……昨日、おれたちのことを密告したのはお前じゃないんだろう?」
「うん。見回りの監督官が、たまたま遅れて、それで聞こえたって」
「ジョウを殺したのもお前じゃないな?」
「……うん。最初はわたしがやらされてたけど……途中から、わたしじゃ手ぬるいからって監督官が……」
「そうか。なら、お前はなにも気にしなくていい。そうだよな、お前たち! クラリスのしたことは、すべて命令してきた監督官どもの責任だな!?」
ゲンやエレン、他の仲間たちに向けて声を上げれば、すぐにいくつも返事が返ってくる。
「そうだ、全部やつらが悪い!」
「恨みはしたけどよぉ、あんなひどい扱いをされてきたんじゃ、しょうがねえよな!」
「いつもあのブタ監督官長のそばにいさせられたら、そりゃつれえでしょ」
「これからはその魔法、みんなのために使ってくれるんだろ? だったらむしろありがてえよ!」
おれは頷き、微笑みかける。
「だそうだ。誰もお前を責めやしない。一緒に来ていいんだ」
クラリスは瞳をうるうると潤ませた。すんすん、と鼻を鳴らし、唇を震わせる。
「あ、ありがとう……。でも……」
今度はピグナルドを見やる。怯えた目で、身をすくませる。
「報復が怖いか。だが、ここにいても、どうせひどい目に遭わされる。わかっているだろう?」
「……うん」
「だったら逃げて、自由と希望を手にしたいとは思わないか」
「自由、希望……?」
「そうだ。お前には、能力値判定では見つけられんような素晴らしい才能がある。そんなお前がここにいるなんておれには信じられん。他のみんなだってそうだ。人は、数値化された能力がすべてじゃない。正しく活かせる未来を、自由に作るんだ。一緒に」
言いつつ、内心では自嘲してしまう。
前世では、能力こそがすべてと考え、己の力を認めさせるために世界を敵に回したというのに……。これではまるでヒーロー側の言い分だ。
ヒーローどもとの戦いで、おれも変わったということか。
「…………」
クラリスはまだ迷っている。だがこれ以上は強く言えない。強要してしまっては、ピグナルドたちと同じだ。
やがてクラリスは、瞳を空に向けた。自由な空に。
「あなたは、敵になったわたしでも傷つけなかった……。わたしが顔を蹴られそうになところを、助けてくれた。それに……命令しないで……優しい目で、答えを待っててくれてる」
言われて少し驚く。このおれが、優しい目をしている? 前世では悪の総統とも呼ばれたおれが……?
「だから……。うん……。ついて行って、いい?」
弱いながらも決意の瞳で、クラリスはおれを見つめる。
「ああ。よろしくな、クラリス」
おれが手を差し伸べると、その手を迷いなく取ってくれた。
「うん……。ウィル、様って呼んだほうがいい?」
「それは好きにしろ」
「うん。よろしくお願いします、ウィル様」