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第60話 スキル『昇華の叙任』

 輝きが収まると、クラリスは目をパチクリさせた。


「ウィル様、今の、なに?」


「おれの3つ目のスキル『昇華の叙任(エヴォリューション)』だ。どうやら、誰かを役職に任命したときに発動するらしい。組織の規模、その者の功績の大きさに応じて、能力を高めたり、スキルを付与したりするようだ」


 おそらくは、前世で部下を幹部に取り立てる際に、改造手術を施してやったり、新兵器を与えてやったりといった経験に由来するスキルだろう。


「じゃあじゃあ、わたし、強くしてもらえたの?」


「発動したということは、そういうことだろう」


慧眼の賢者(ワイズマン)』で、クラリスを解析してみると、能力値に変化はないが、新たにスキルを獲得しているのが分かった。


「『勝者の愉悦(サディスティック)』というスキルが使えるようになったらしいな」


「……? どういう効果?」


「相手より優勢のときに発動し、自分自身の能力を高める……らしい」


「勝ってから強くなっても遅くない?」


「いや、勝利をより確実なものにするという意味では悪くない効果だ。が……」


 おれはふと、クラリスがピグナルドを倒したときの様子を思い出した。


 優勢になった途端、クラリスは嗜虐的な態度でピグナルドを辱めたのだ。嗜虐的な、悪の女幹部を思わせる仕草だった。


 おそらくは、クラリスの《《そういう部分》》がスキルに反映されたのだろう。


「……とにかく、クラリスには『エターナ』の魔法総監として、変わらぬ活躍を期待する。下がっていいぞ」


「うん」


 クラリスは微笑みとともに離れていく。


「続いて、ゲン」


 前に出てきてくれるが、ゲンは腑に落ちない様子だった。


「俺は他のみんなほど活躍してない」


「そうでもない。お前は冷静に指揮を取り、上級兵どもを撃滅した。保安班の誰ひとりにも、怪我ひとつ負わせることなく、な。有利になるよう采配はしたが、だからといって、上位クラスの集団を相手に、落ち着きを保つというのは、誰にでもできることではない」


「俺はただ、ウィルと一緒に戦う機会が多かったから、色々と学ばせてもらっただけだよ」


「学んだ力で戦功を上げたのなら、それは称賛されるべきことだ。その功績を讃えて、正式に『保安班長』に任命する」


「……わかった」


 するとクラリスと同じようにゲンも輝いた。


 身体能力が全体的に底上げされたようだった。


 続いては、ミラ。


「ダイアウルフたちを率いて命懸けで囮をやってくれた。お陰で、B以下の敵を分断することができた。そしてBランク騎士ゾルグも撃破した。その功績を讃えて、エターナ猟兵隊の隊長を任せたい」


「エターナ猟兵隊?」


「言い方は変えたが、やることは以前とあまり変わらない。食料調達の手伝いをしたり、基地の周辺を見回ったり……。食料調達班とミラとダイアウルフたちをひとつの隊にまとめただけだ」


「あたしが隊長でいいの?」


「もちろんだ。ウルフたちはおれたちにも懐いてくれているが、やはりミラの言うことを一番よく聞くようだからな」


「わかった。任せて」


「ああ、頼むぞ『猟兵隊長』」


 ミラの場合は、彼女のスキル『魔闇の絆(イヴルリンク)』の強化だった。


 本来、『魔闇の絆(イヴルリンク)』を用いても、ミラより遥かに強い魔物(モンスター)と仲良くなるのは困難だ。しかし今回の強化によって、そのハードルが下がったのだ。


 新たな魔物(モンスター)を仲間にして、基地の守りを固めてくれるなら、ありがたい。


 次はアメリアだ。


「Sランクの超人ダミアンを、正面から撤退に追い込んだ。それだけで大きすぎる功績だ。これからは保安班の一員として、おれたちエターナの切り札として、その力を振るってもらいたい。ここに『守護天使』の称号を与える」


「……ありがとう。でも、それ自分で名乗るのは、なんか恥ずかしいような……」


「なら『死神』のほうがいいか?」


「……ウィル様のいじわる」


「では『守護天使』で決まりだな?」


「うん、称号に恥じないように頑張ってみる」


 そしてアメリアも、新たなスキルを獲得した。


 その名は『節制の慎み(ウィスパー)』。アメリアが行動する際の、体力や魔力の消費を減らす効果があるようだ。おそらく、使用する魔石の消耗も少なくなり、戦闘強化服(コンバットスーツ)の稼働時間が伸びるだろう。


 軽減率は小さいが、今後、スキルが成長していく可能性も考えれば、アメリアと非常に相性の良いスキルだ。


「最後に、エレン」


「ええっ? あ、アタシ?」


 驚きつつ前に出てくる。


「間違ってない? アタシ、戦ってないよ」


「戦功だけが功績じゃない。お前は、この制服を作ってくれた。お陰でみんなの心がひとつになり、士気も高まった。死んでしまった友に、仲間だと示すこともできている。充分立派な功績だ」


「う、うん……」


「『名誉服飾士』といったところかな。本業の合間に、やってくれたらいい」


「それってただのいつも通りだけど……。うん、なんか、嬉しい……。ありがとう」


 エレンが獲得したのは若干の魔力の向上と、スキル『魔力裁縫(ペネロペ)』。


 魔力で裁縫を補助する能力だろう。成長したら、また違った効果を発揮するかもしれないが、今はそれだけのようだ。


 ひと通りの叙任を終えて、おれは改めて全員に声を上げる。


「見ての通り、功労者にはさらなる力が与えられる! 戦えなくても、それぞれの分野で活躍を見せてくれればいい! みんなの貢献が組織を強くし、お前たち自身も強くする。そしてまた大きくなっていく! みんな、エターナと共に励もう!」


 ――おぉおおおおぉ!


 士気の高まった、大きな声が返ってくる。


 それらの力強さに、おれはエターナがより強く、大きくなっていくことを確信した。

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