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第59話 新たなる門出

 おれたちは、ルークの亡骸を手厚く葬った。


『エターナ』の制服を着せて、仲間として。


 秘密基地の大部屋で行われた葬儀は、様式も整っていなかったが、そんなことはどうでもよかった。


 大切な仲間との別れを、みんなにもさせてやりたかった。


「ルークさん……さようなら……」


「ありがとう、ルーク……」


「楽しかったよ……」


 献花していくクラリスやミラ、アメリア……他の仲間たち。


 ある者は涙を流し、ある者は沈黙し、ある者は別れの挨拶を口にして、それぞれに哀悼を示していく。


 みんな、死には慣れているはずだった。


 Fランク民の収容所では、いつもどこかで、急に誰かが死ぬ。


 その死に、いちいち大きく悲しんではいられなかった。次に死ぬのは、自分かもしれなかったから。


 でも今おれたちを包んでいるのは、大きな悲しみだった。


 自由な生活が、心に余裕を生んだのだと思う。


 親しい誰かの死を悼む心を、取り戻せたのだ。


 そしてそれは、自分たち以外の誰かに手を差し伸べる気持ちも、持てるようになったということなのだろう。


 葬儀の終わりに、おれは仲間たちの前に出て声を上げた。


「おれは、これからもっとたくさんの仲間を集めたいと思っている」


 仲間たちは誰もが注目して傾聴してくれていた。


「Fランク民だけじゃない。ランク制のために苦しんでいる者を、助けたいんだ。これはルークの願いだったが……今は、おれの願いでもある。


 おれたちは今まで守りに徹していたが、これからは積極的に攻めに出たい。収容所なんかを襲ってFランク民を解放したり、志を同じくする者がいるなら協力したり……。そして、ランクだけがすべてではないと……ランクに関係なく、人は自由で、幸せになれるのだと示すんだ。おれたちの活動を、生き様を見せつけて。


 苦しんでいる誰かの、勇気や希望になるんだ……。


 もちろん、楽な道じゃない。活動を阻止しようとする輩は必ず現れるだろう。そいつらは全員、おれたちより高いランクにあるだろう。戦いで倒れる友も出てくるだろう……。


 そのおこないは、国に――世界に、より大きな悪とみなされるだろう。


 けれどおれは、これが正しいことだと信じる。


 同じように、信じてついてきてくれるだろうか?


 無理にとは言わない。隠れ続けて、ささやかな幸せを送るのもいい。そう願う者がいるなら、その手伝いもしよう。


 でも……おれは、これからもみんなと志を同じくする仲間でいられたら、ありがたい……」


 そう結ぶと、残されたのは静寂だった。


 緊張に、胸が高鳴っていく。


 誰にも賛同されないんじゃないか? ひとりよがりなのではないか?


 前世で、悪の総統として振る舞っていたときには、思いもしなかった不安だ。


 たとえひとりきりでも、絶対に実行するつもりではあるが……。


 くすっ。


 誰かが笑った。声をしたほうを見れば、クラリスだった。


「今更なに言ってるのウィル様」


 その隣で、ゲンも頷いていた。


「俺たちは初めから、ウィルの言う悪に忠誠を誓ってるんだ。なにを今更問いかけることがある。ウィルは、ただついてこいって言ってくれればいいんだ」


「そうそう。むしろさ、アタシたちばっかりいい暮らししてて、収容所に残してきた子たちのことが気になってたくらいなんだよね。なんとかできるなら大賛成!」


 エレンも続いて賛同してくれた。それらを皮切りに、「オレも賛成!」「やろう、ウィル様!」「僕も頑張ります!」「私も手伝えるなら」と仲間たちみんなの声が大きくなっていく。


 途中参加組のミラとアメリアも同じだ。


「みんなは家族だ。家族と離れて暮らすなんてありえないぞ!」


「私も救ってもらったんだもん。同じことを誰かにしてあげられるなら、これほど嬉しいことはないよ」


 反対の声はない。


 ひとり残らず、賛同してくれている。


「――ありがとう、みんな。では改めて宣言する。おれたちは『エターナ』! 亡き友がくれたこの名を掲げ、世界の悪しき常識を覆すために活動を開始する!」


 ――おおおぉおおおおお!


 腕を上げ、声を上げ、士気高く応えてくれる。


 高揚感に腕が震える。わずか40人に満たない仲間の声は、前世の数百の部下の声より、ずっと心に響く。満たされていく気持ちになる。


 おれたちの――秘密結社エターナの門出だ!


「それではこれより、組織として、大きな功績を上げた者を讃えたい。名を呼ばれた者は、前に出てきてくれ。まずは――クラリス」


「あ、はい」


 クラリスはおれの正面に立ってくれる。


「その魔法で、基地の建造や戦い、戦力の増強、その他生活において幾度となく貢献してくれた。特に、Bランク騎士ユリシスを単独で撃破したのは特筆に値する。ありがとう。これからも、頼りにさせてもらう」


「う、うん。えへへっ、ウィル様に褒められちゃった……」


 嬉しそうに身をよじるクラリスだ。ついおれも微笑んでしまうが、咳払いして続きを口にする。


「その功績を讃えて、クラリスをエターナの『魔法総監』に任命する!」


「わ、わたしが『魔法総監』?」


『魔法総監』とは、王宮や、貴族の各領地において魔法に関する事柄を総括する、いわば魔法使いの元締めとも言うべき役職だ。


「40人に満たない小さな組織の『魔法総監』ではあるが、おれは他のどの『魔法総監』より、クラリスが優れていると考える。引き受けてくれるか?」


「う、うん……っ。ウィル様が言うなら……!」


 返事が聞けた瞬間、クラリスの体が輝きを放った。


「えっ? えっ?」


 クラリス本人や見ていた者たちは驚くが、おれには納得があった。


 そうか。これが、おれの3つ目のスキル『昇華の叙任(エヴォリューション)』の効果か。

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