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第54話 友

 なぜた? なぜルークは、おれの前世の所業を気にも留めないんだ?


「わからないのか? おれが前世で、どれだけの事件を起こしたか。もしかしたら、お前が巻き込まれて両親や職場を失ったという事件も、おれがやったことかもしれない。お前たち兄妹が死んだのも、転生先で苦しむことになったのも、元はといえばおれのせいかもしれないんだぞ。そうでなくても、たくさんの人の命を、幸せを奪ってきてしまった……!」


 口にしながら、ひどく胸が痛んだ。


 自分のしでかした重さを改めて実感して、心が押しつぶされそうだ。


 目の前の、今にも消えそうな生命が、それを教えてくれている。


 たったひとつの死が、こんなにも苦しい……。


「……だから、おれにヒーローなんて無理だ。そんな資格、ないんだ……」


「でも……もうしてるだろ?」


「……?」


「38人と6匹の仲間……。みんなお前が助けた。お前が希望になった……。クラリスちゃんなんか、誰よりお前に憧れてる。ギルスの町の人たちも、ゴブリン退治に感謝してた。みんながお前を見る目、あれは……ヒーローを見る目だ」


「おれは、ただ放っておけなくて……。それに合理的に判断しただけで……」


「本当にそれだけなら、あんなに慕われないよ。それに……それにさ……後悔してるなら……だからこそ、やってくれよ……。お前自身のためにも……。償いとして……」


「おれに……償い切れるのか……」


「できるさ……。さしあたっては……今もどこかで生きてるオレの妹を救ってやってくれ……。足りなきゃ、もっと、もっとたくさん、誰かを救ってやってくれ……。あの、ダミアンのことも……」


「ダミアンはSランクだ。お前の……仇でもある」


「でも元はEランクの家に生まれだ。それが判定でSランクになったもんだから、家族を捨てさせられ、下位には妬たまれ、上位には蔑まれ……形は違うが、ランク制の犠牲者でもあるんだ……」


「…………」


「頼むよ……」


「……確約は、できない……」


「自信持てよ……きっと、お前には向いてる」


「おれのどこが、ヒーローに向いているというんだ」


「悪、だからさ……。この国――この世界の常識からすりゃ、オレたちは悪いことをしてる。でも……苦しんでる人を助けるのは、きっと正しい。ヒーローのおこないだ……。悪の、ヒーロー……。……な? やれそうだろう……?」


「……ああ。悪なら、おれが適任かもしれん……」


 おれの答えに、ルークは満足したように「よし」と笑った。


「じゃあ、はやく行ってくれ。ダミアンはもうすぐ戻って来る。残り少ない生命だが、燃やし尽くせば、お前たちを逃がすくらいは、できる……」


 ルークは這うように離れようとする。


 おれはそんなルークの腕を掴み、強引に持ち上げた。肩を貸す形に。


「おい……ウィル様……?」


「ルーク……。おれは、もしかしたら償うために生まれ変わったのかもしれない。そのために、誰かを救う悪のヒーローになる……いい案だ……。だから……だからこそ……!」


 ヒーローなら……。


 おれの宿敵として立ち塞がった、あのヒーローどもなら、こんなときどうする?


 そんなの、決まっている。


「まずお前を救う……! お前を見捨てて逃げられるわけがない!」


「オレはいい。どうせ、もう長くない。この生命、最後に有効に使う。それが合理的な判断だろ……?」


「ヒーローが合理性だけで動くものか! たとえもう助からなくても……お前をたったひとりで、おれたちの知らないところで死なせるものか!」


 激情とともに、熱いものが頬を伝った。


 どうにか抑えようとしていたのに。


 からかわれる材料になるから、もうルークには見せまいと思っていたのに。


 どうしても涙が溢れてくる。


 いや……でも、もういい。


 からかわれたっていい。こいつと、またバカみたいなやりとりができるなら。


 それが叶わないと知っている。だから、ますます流れてくる。


「ウィル様……オレのために、泣いてくれてるのか……」


「悪いか……。おれは……おれは……」


 今、やっと分かった。


「おれは、お前が気に入らなかったんじゃない……戸惑っていたんだ。今まで、あんなに気安く接してくるやつはいなかった。からかってくるやつも……。不愉快だったさ。だけどな、おれはそれを、内心では楽しんでいたんだ。お前のそばは、居心地が良かった……。そんな気持ちは初めてで、認められなかった……。でも、でもな……お前は……」


「ようやく、仲間と認めてくれた、か?」


「違う……。仲間以前のものだ……。お前は、おれの……大切な、友達だったんだ」


「友達……。そうだな、ウィル様」


「ウィルでいい」


「……ありがとよ、ウィル」


「礼を言うのは、おれのほうだ」


 おれや仲間を助けてくれたこと。基地や物資を提供してくれたこと。共に戦ってくれたこと。そしてなにより――。


 共に過ごしたかけがえのない日々を、ありがとう――。


「ウィル様! ルークさん!?」


 おれたちの背後で声が上がった。


 クラリスだ。ゲンやミラ、ママウルフ、アメリアもいる。


「良かった。みんな無事だったか」


「ウィル様こそ。なにしてるの、逃げるんでしょっ?」


 どうやらおれを心配して駆けつけてくれたらしい。


「あ、でも、もう巨獣はやっつけた、の?」


「いや……もう1体来る」


 ルークの声に、みんなが上空を見上げる。


 巨竜が飛来してくる。すぐダミアンも戻ってくるだろう。


「ウィル……ありがたいが、やっぱり他に手はない。オレを置いてみんなと逃げるんだ!」


「いや。手ならある」


 おれはルークを近くの木にそっともたれさせた。


「お前の生命が、おれに教えてくれた」

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