第51話 Sランクの切り札
ダミアンの言う通り、ルークのゴーレムでは巨獣2体は危うい。
片一方でも巨獣がゴーレムを突破したら、この基地は炎を吹き込まれて焼き尽くされてしまう。
「その前に貴様を倒せばいい!」
撤退しようとするダミアンに、おれとアメリアは魔法と強化魔法銃を連射する。
だが防御と回避に集中するダミアンには命中しない。
「逃さない!」
アメリアは武器を切り替え、一足飛びにダミアンを追撃。光震剣を発動させ、勝負をかける。
対し、ダミアンは反撃に出た。魔法攻撃の連射。アメリアは避けながら接近するが、すべては回避しきれない。命中弾に対しては、防御姿勢を取って『解除魔法装甲』を発動させなければならない。距離を詰めきれない。
「くっ、逃げるな、卑怯者!」
「誰が最下級民相手に逃げるものか! 貴様らを効率的に倒すためにやっている!」
憎々しげな捨て台詞を最後に、ダミアンは出口への通路に入ってしまった。一本道の長い通路だ。撤退を阻めるものはなにもない。
基地の外に出してしまったら、姿を隠してしまうだろう。そうなれば、もう巨獣を阻止する方法はない。
「追うぞ、アメリア!」
「うん――うっ!?」
追いかけようとするが、その途中でアメリアが転んでしまった。なにか様子がおかしい。
「どうしたアメリア!?」
「体が、重い……。強化が、切れて、る?」
「しまった……。魔石が……!」
戦闘強化服の魔石の魔力が尽きてしまったのだ。
アメリアの戦いぶりに、魔力を無駄遣いしているところはなかった。ダミアンとの戦いが、予想以上に激しく長くなってしまったがためだろう。
「くそ、こんなタイミングで……!」
ダミアンの目の前で魔力切れになるよりは、はるかにマシだが……。
これでは、ダミアンの速度に追いつくのは不可能だ。
「仕方ない……。アメリア、すぐ予備の魔石に付け替えてやる。強化率はかなり落ちる。戦うことは考えなくていい。他のみんなに基地を放棄して脱出するよう伝えてくれ。この基地は、焼かれる……!」
「わ、わかった……! でもウィル様は?」
「まだ手があるかもしれん。やつを追う!」
アメリアを置いて、おれはダミアンを追った。
焦りと緊張感で手が震える。
作戦失敗に備えて、仲間たちにはいつでも脱出できるよう準備させていた。だが、どの出口からでも地上に出るまでには、Fランクの足では最低でも10分はかかる。
10分間も……。
どうしのぐ? どうダミアンに追いつく? どうやってダミアンを止める?
手段を考えながら、全力で走る。魔法で追い風を吹かせ、少しでも速く。
しかしいくら考えても、この状況を覆せる手段は見つからない。
その代わりに、強く存在を意識してしまう者がいる。
ルークだ。
今、外で戦っているルークが耐えしのいでくれれば……!
――バカが! 頼ってどうする!?
ルークは頼れる――いや利用価値のある男だが、巨獣2体相手は無茶がすぎる。
それはやつにも分かるはずだ。もうダメだと悟ったら、おれたちを見捨てて逃げる可能性だってある。やつは妹と再会するためにも、おれたちと共に滅びるわけにはいかないはずなのだから。
だから、おれが、なんとかしなければならない!
だが現実として、おれはダミアンに追いつけない。
巨獣どころか、ダミアンを止める方法も、まだ見つからない。
手段を探していたはずの思考は、否が応でも、祈りに塗り替えられてしまう。
頼む、ルーク。なんとか、しのいでくれ……!
みんなを、守ってくれ……!
◇
ルークは2体目の巨獣の出現に戦慄していた。
おそらくダミアンの切り札。ルークたちにも隠していた、彼のスキル能力の一端なのだろう。
そして、これはダミアンからルークへのメッセージでもあるのだと感じた。
――巨獣2体相手ではどうしようもあるまい。負けを認めて降伏しろ。せめて逃げてくれれば、殺さずに済む……。
もしダミアンが目の前にいたら、そんな感じのことを言うだろう。
想像のダミアンに対し、ルークは「ふっ」と笑ってやった。
「諦めないぜ、オレは。降伏はしないし、逃げもしない……」
誰にともなく、ルークは強がりを口にした。
「ここには、オレの希望があるんだ」