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第5話 監督官長成敗

「その子は……クラリスはお前の命令に従っただけだ。なのにその仕打ちは、あまりに不当だ」


「この程度の命令も遂行できん無能には当然の報いだ」


「ふん。言って分からんなら、体で思い知らせてやる」


 おれはゆっくりと近づいてく。ピグナルドは不遜な態度を崩さない。


「おい! お前たち! 誰でもいい、こいつに罰を与えてやれ! 褒美をくれてやるぞ!」


 この期に及んで周囲のFランク民たちに呼びかけている。だが、おれの実力とクラリスへの仕打ちを見たばかりだ。手を上げる者はいない。


「ちっ、やはり使えん連中だ。あとで教育が必要だな」


 ピグナルドは手に持っていた短い杖で、足に絡みつく土を叩いた。次の瞬間、砕けて拘束が解ける。魔法が解除されたらしい。


「まずは貴様から八つ裂きだ!」


 魔力をこめた杖をこちらに振るう。強風が発生した。


 おれはとっさに防御魔法を展開するが、体のあちこちが切られ、血が弾ける。強風の中で発生した真空波だ。おれの防御魔法を貫いてくるあたり、さすがに魔力の質に差がある。


 守りに入れば不利だ。おれは火炎魔法を放射する。


 目くらましも兼ねていたのだが、放った魔法はまたかき消されてしまう。そして再び真空の刃が襲ってくる。魔法を使った直後で、防御魔法が間に合わない。


「くっ」


 咄嗟に身をかわす。運良く軽傷で済んだ。次はないだろう。


 ピグナルドはニンマリと勝ち誇る。


「驚いたか? くっくっくっ、私のスキル『解除魔法(ディスペル)』は一定範囲内のあらゆる魔法を無効化するのだ。そしてぇ……」


 左手には魔力のこもった杖、右手には収束した魔力。


「ふたつ同時に! 貴様らにこんなことできまい! 私は魔法をふたつ同時に操るスキル『二重魔法(デュアルキャスト)』も持っているのだ! 『解除魔法(ディスペル)』で防ぎつつ、攻撃魔法が使えるということだ。これが貴様ら最下級のFランクと貴族たるBランクの違いだ!」


 なるほど。魔力の基礎能力で上回り、さらに相性の良いふたつのスキルを所持。たしかにFランクでは勝ち目がない。スペック差がありすぎる。


 だがおれは前世で見た。大きくスペックを上回るこちらの戦力を、次々に撃破した宿敵たるヒーローたちの姿を。


 戦いは、スペックだけで決するものではなかったのだ。


 そしてそれは、このおれも、他のFランク民も――いやすべての人間でも同じだ。


 スキル『慧眼の賢者(ワイズマン)』が、ピグナルドのスキルを解析完了。


 『解除魔法(ディスペル)』は、おれの魔力の質では使用不可能。しかし『二重魔法(デュアルキャスト)』なら可能だ。


 おれは両手に、それぞれ魔力を集中してみせる。


「なに!? 貴様も『二重魔法(デュアルキャスト)』を? 最下級民ごときがなぜ……? いや、しかしそんな貧弱な魔力で猿真似したところで結果は変わらん!」


 ピグナルドが再び真空波を放つ。


 対し、おれは左手で防御魔法を展開しつつ前進。同時に右手で爆発魔法を放つ。


 爆発といってもおれが使えるのは基礎中の基礎で、殺傷能力はほとんどない威力だ。


 それでもピグナルドは『解除魔法(ディスペル)』で防御しようとする。が、おれの狙いはピグナルドじゃない。


 『解除魔法(ディスペル)』の範囲外の地面で爆発。砂埃を舞い上げる。


「こしゃくな!」


 ピグナルドはすぐ魔法で風を操って目くらましを吹き飛ばす。そのときにはすでに、おれは間近に接近していた。


「うおっ!?」


 『解除魔法(ディスペル)』で防御しようとするが無意味だ。


 おれが振るうのは魔法ではなく、ただの拳なのだから。


「うぐぇっ!」


 全力の鉄拳が、ピグナルドの顔面に炸裂した。


 さらに連続で、容赦なく拳を振るう。


 ピグナルドの抵抗はない。できやしない。


 ピグナルドの魔力は、かなりのものだ。有用なスキルをふたつ持っている。だが、それでBランクだということが、弱点を露呈していたのだ。


 あれほどの魔力とスキルを備えていて、さらに身体能力も高かったのなら、Aランクにも届いていたはずだ。だが実際にはBランク止まり。必然的に身体能力は並以下ということになる。


 ならば肉弾戦なら、鉱山で5年間鍛えられたおれに分がある。


 トドメとばかりに腹へ強烈な一撃を喰らわせる。


「がっ、げぶぅ……っ」


 ピグナルドはその場で腹を押さえてひざまずいた。そのまま嘔吐する。


 その髪を乱暴に引っ掴み、顔面を吐瀉物の上から地面に叩きつけてやった。


「地面を汚すな」


 そして顔を持ち上げてやる。


「が、はぁ、はぁ……な、なんなのだお前は……この強さで、Fランクのわけが……」


「Fランクさ。少なくとも儀式じゃそうだった。単にお前が、F以下なだけじゃないか?」


「う、ぐぅ……」


 ピグナルドは苦痛と屈辱に顔を歪ませる。しかし、おれがさらに拳を振り上げると、恐怖の色に染まった。


「わ、私は貴様らの監督官、その長なんだぞ。こんなことが他所に知れたら、貴様らただでは済ま――べぶっ」


 すでにアザだらけの顔をぶん殴る。


「おれより先に、お前がただじゃ済まん」


「ひぃっ、わ、わかった。今なら不問にしてや――いえ、不問にいたします! だからもう殴らないで。やめ――!」


「クソブタが」


 最後に顎を殴り上げる。仰向けに倒れて、ピグナルドは気を失った。


 次の瞬間、周囲から「うおおおお!」と歓声が上がった。ゲンやエレンが勢いよく抱きついてくる。


「ウィル、やったな!」


「すごいよ、ウィル! 格好良かった!」


「本当に……すごい……」


 近くで見ていたクラリスも、ただ目を丸くして呟く。


 他のFランク民も喜びの声を上げつつ駆け寄ってくる。


 称賛の声を浴びるのは気分がいい。おれに相応しい。

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