表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/61

第46話 弱肉強食の末路

「死ね死ね死ねぇ!」


 ゾルグはママを集中的に狙う。弱いミラは放置しても問題ないと判断されたのだ。


 再改造で能力が向上したママだけれど、力も速さもゾルグには敵わない。ランクによる戦闘力の差を、ミラは初めて目の当たりにしている。


「このやろー!」


 ミラは槍を振り回してゾルグに仕掛けるが、冷静に回避されてしまう。最初の戸惑いは完全に消え、余裕に表情でにやにやと笑みを浮かべているくらいだ。


「かわいいもんだなぁ、へへっ!」


 かわされて体勢を崩したミラは、その腕を掴まれてしまう。


「すべすべして気持ちいい~っ」


「やっ、離せよぉ!」


 ――ぐるるる!


 嫌悪の叫びに呼応して、ママが側面からゾルグに襲いかかる。


 ゾルグはそれを一瞥もせず、剣で薙ぎ払った。ママは短い悲鳴を上げて地面に転がった。


「ママ!?」


「ワンパターンなんだよクソが、邪魔すんな! さあミラちゃん、楽しいことしましょうねぇ~」


「やめろ、離せってばぁ!」


 ミラはゾルグに押し倒されてしまった。ゾルグは剣を手放し、空いた両腕でミラの両手を抑え込む。ミラは両足を暴れさせて脱出を試みるが、その上に腰を下ろされ、身動きを封じられてしまった。


 ゾルグの股間で、なにかよくわからないものが膨らんでいくのが見えた。


「はぁはぁ、たまんねえ。たまんねえ」


 ベロベロとミラの首筋を舐め回してくる。


「やめろぉ! うぅっ、ママ、ママぁ!」


 ミラは身をよじって逃れようとするが出来ない。むしろその動き、その声に、ゾルグはますます興奮したようだった。


「もうママは来ねえよぉ!」


 ゾルグは今度はミラの胸に鼻先を突っ込み、匂いを嗅ぎ始める。なにがしたいのか、ミラには理解できない。ただおぞましい。


「ママ……ママ!」


「ぎひひひっ! さすがにうるせえな、そろそろ塞いじまうか」


 ゾルグは目を血走らせて、ミラの唇に迫ってくる。


 もはやミラしか目に入っていないゾルグの様子に、ミラは力を抜いた。そして、にやりと笑ってやった。


「ママ、今だよ」


「あん――? うがっ!?」


 放たれた圧縮魔力が、背後からゾルグを貫いた。


 思わずゾルグは振り返る。ママは倒れたまま。しかし見開かれた瞳は、確かにゾルグを映している。


 その義足の先端が折れて、内側の砲身が露わになっていた。再改造によって追加された武装だ。魔法銃(スペルシューター)と同じ機構。引き金はなく、ママの意志で発射される。


「なんだ、そりゃ……。なんで、まだ生きて……」


 確かにママは直撃を受けた。本当なら死んでいただろう。だが魔法銃(スペルシューター)と同じく、防御魔法を展開する機構も装備されている。


 ゾルグは一瞥もせず斬り捨てたが、もしきちんと目を向けていたのなら、その発動が見えていたはずだった。


「もうどけよ。気持ち悪い」


「なに持ってやがる……?」


 ゾルグはミラに向き直り、怪訝な表情を浮かべた。


 ミラの手には魔法銃(スペルシューター)がある。


 先ほど狙撃を受けて、ゾルグはミラから手を放していた。その隙に、隠し持っていた魔法銃(スペルシューター)を取り出したのである。


 ミラは躊躇なく引き金を引く。灼熱の炎がゾルグを呑み込んだ。


「あぎゃああ!?」


 飛ぶようにミラから離れ、地面を転がり回る。


 ずっと、このチャンスを待っていたのだ。


 まともにやれば、ミラとママの2対1でも勝てないことは、ウィルやルークから教えられていた。だがしかし油断を誘えば、確実に勝てるとも言っていた。


 Bランクの騎士は、初めからミラたちを舐めている。


 さらに、ろくな武装もないことを印象付けてきた。最初は弓矢を使い、次は煙幕玉、最後は骨で作った槍。


 そうして相手が完全に優位に立ったと油断した瞬間、最高の武器を解禁したのだ。


 その結果は、ご覧のとおり。


「ちきしょおぉお! クソ最下級民が、この俺に――Bランク様に舐めた真似しやがってぇ!」


 なんとか消火して起き上がるゾルグ。ミラに向かってくるが、もはや先ほどまでの勢いはない。腹に穴が開いている上に全身火傷だ。まだ動けるだけ、さすがBランクだと感心する。


 でも、もうこちらの勝ちだ。ミラは挑発的な笑みを浮かべる。


「ぶっ殺したてめえのケツを犯し――なにっ!?」


 その瞬間、ハッとしてゾルグは立ち止まった。足音が複数、奥の通路から近づいてくる。


「みんな、待ってたよ」


 5頭のダイアウルフだ。上級兵たちの誘導を終え、基地内を経由してミラたちの元へ駆けつけてくれたのだ。


「くそ、まだこんな……っ、ぐあっ、あぐ!?」


 ゾルグを包囲したダイアウルフ(兄弟)たちは、一撃を加えては離脱するといった戦法で痛めつけていく。


 やがてゾルグは倒れ込んだ。ミラの指示を受けたママや兄弟たちが、ゾルグの脚や腕の腱を切り裂いたのだ。もう身動きはできない。


 そんなゾルグを、ミラは見下した。


「お前、あたしのお母さんを、食ったんだったな……」


「ひっ、ひっ、だ、だったらどうだってんだよ」


 ミラはゾルグには答えない。ママや兄弟たちに、頷いてみせる。


「いいよ、みんな」


 すると兄弟たちは、よだれを垂らしながらゾルグに歩み寄っていく。


「あ、ま、待て……やめろ、来るな……や、やめさせろぉ! あああ、来るんじゃねえぇ! 俺はうまくなんかねぇよぉお!」


 恐怖で早口に叫ぶ声は、やがて牙を突き立てられ、意味のない悲鳴へと変わっていった。


 ふん、とママが鼻を鳴らす。


「お前の言っていた、弱肉強食、だ」


「…………」


 生きながら食われるゾルグを横目に、ミラは10歳以前の記憶に思いを馳せる。


 優しかったおかあさん、楽しかったおとうさん……。


 仇は、取ったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ