第39話 守る決意
結論から言うと、ルークの提案を採用することになった。
ルークのゴーレムは、サイズや強さを調整可能らしい。作り出された等身大サイズのゴーレムは、Fランク民と同等の能力・強度が与えられた。これなら戦闘強化服のテストに充分使える。
「しかしゴーレム……これは興味深いな」
人型とはいえ、石や土の塊が、筋肉も駆動機構も無しになぜ動ける? どういう仕組みなのかぜひ知りたい。知るべきだ。
さっそく『慧眼の賢者』で解析する。
「なるほど……ほう、面白い……」
「……? なんだよ、ウィル様、なにがそんな面白んだ……?」
ルークが引いているが、気にはしない。
どうやらゴーレムは、魔力によって体内にエネルギーの流れを作っているらしい。
クラリスの『大地潮流』で大地を操るのに似ている。魔力によって大地を動かせるなら、大地を素材に作られたゴーレムの手足を動かせるのも道理だ。
使用者の意志がゴーレムと魔力でリンクされ、操作を可能としているらしい。
その魔力はもちろん使用者であるルークから発せられているが、どうやら最初から魔力だったわけではなく、別のエネルギーを魔力に変換しているらしい。
それも道理ではある。Aランクとはいえ個人の魔力で、人間の10倍はあろうかという巨人の動力をすべて賄えるわけがない。
ではその変換前のエネルギーは何なのか? 同様のサンプルを観測したことがないので今は分からない。
それは今後の研究課題としよう。今はこのゴーレム原理だ。
「使えるな、これは」
「さっき聞いたよ。テストに使えるんだろ」
「いや、今言ったのはゴーレムが動く原理のほうだ」
「それが気になってジロジロ見てたのかよ。なにに使えるんだ?」
「戦闘強化服に応用できる」
先ほどまでは機械的な機構を考えていた。魔法によってサーボモーターの機能を再現し、それによって着用者の力を増幅するやり方だ。
だが、それよりゴーレムの原理を使ったほうが遥かに効率がいい。
テストが必要なのは変わらないが、設計にかかる時間や製造に必要な素材量も少なくできそうだ。
それどころか、戦闘強化服以外の兵器にも応用できるかもしれない。
さすが魔法やスキルといった神秘の力に溢れる世界だ。面白い。前世の機械文明的な考えに囚われていては出てこない発想だったろう。
「よし、見込みが出てきた。おれは戦闘強化服の開発に入る。クラリスには助手を頼みたいが、いいか?」
「うん、もちろん!」
「戦闘強化服は完成次第、アメリアに着てもらう。ダミアンに対抗できるのは、これしかない」
「……わかった。やってみるよ」
アメリアは神妙に頷くのだった。
「これで巨獣とダミアンの対処はできるとして、残りはBランクの騎士やCの上級兵どもだな」
すぐゲンが提案してくれる。
「まとめてこられたんじゃ、たまらない。分散させて倒していこう。ルークさん、この基地には敵を分散させられるような仕掛けはないだろうか?」
「仕掛けはないけど、実は出入口は複数あるんだ。本当なら緊急用に隠しておくべきなんだが、敵を分散させるのにも使えるかもしれない」
「しかし誘導には、囮が必要になってしまうな……」
ゲンは顔を曇らせる。
魔物討伐のために囮になった経験のあるおれたちだ。どれだけ危険かよく知っている。囮になって帰ってこなかった者は数え切れない。
だがおれたちの懸念を余所に、元気に手を上げる者がいた。
「あたしたちに任せろ! 軽くちょっかいかけて、別々の入口に逃げてくればいいんだろ? あたしとウルフたちなら簡単だよ」
ミラの提案には、ゲンもクラリスも首を横に振る。おれも賛同できない。
「ミラ、敵は相当な手練れだと聞いただろう。そんな簡単じゃない。危険なんだ。お前や、お前の家族が死ぬかもしれないんだぞ」
「でも必要なんだろ? だいたい家族なら……ウィルたちもそうじゃないか! 誰かがやらなきゃダメなんだろ? だったら、魔法も戦いもろくにできない――でもウルフたちに上手く指示は出せるあたしがやる。でなきゃあたし、こんな大事なときに役に立てない」
ぐっ、と両の拳を握りしめて訴えてくる。
「戦うときは一緒って言ったじゃないか。それとも、他に得意なこともないあたしは、ただ守られてろって言うのか? あたしは、そんなの嫌だぞ!」
「……ミラ」
答えに窮してしまう。その気持ちは嬉しいのだが……。
ママウルフが顔を上げる。
「ウィル様、ワタシをもっと強くしてくれないだろうか。ワタシはもうサイボーグだから、もっと改造されても構わない」
「……ママもか」
「お願いだ。ワタシは我が子を――群れを、守らなければならない」
「そこまで言うなら分かった。そのほうが生き残る確率は上がるからな」
「ありがとう」
「囮ならオレもやるよ」
ルークも手を上げた。
「どうせ巨獣の相手をするのに外に出るしな。それにたぶん、ダミアンを釣るにはオレが適任だ。なんせ裏切り者だ」
「ゴーレムを操りながら囮をやれるのか?」
「アメリアちゃんに引き継ぐまでなら、なんとかなるだろ」
「それなら、頼む。ミラたちを守ってやってくれ」
「もちろんだ」
ルークが頷くのと同時に、ミラも瞳を輝かせる。
「じゃあ、あたしたちが囮でいいんだな!」
「ウィル様!」
「ウィル!」
クラリスとゲンに言外に責められるが、おれは片手を出して制する。
「他の戦える者は防衛に回さねばならないんだ。やってもらうしかない」
苦渋の決断とはこのことか。
前世では、こんな思いで采配したことはなかった。それだけ、今の仲間たちがおれにとって重いのだ。
「できる限りの装備は用意する……。誰も、死なせるものか」