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第36話 39人目の仲間

 おれたちは作戦会議を一時中断して、医務室に移動した。


 アメリアはもう目が覚めていた。


「あ……君たちはさっきの……。うっ」


 上半身を起こそうとしたが、傷の痛みでまたベッドに横になってしまう。


「無理はするな。かなりの重傷だったが、応急処置しかできてない」


 アメリアは包帯の巻かれた自分の体を見て、大人しく頷く。


「……私の仲間は?」


「残念だが全滅だ。助けられたのはお前だけだ」


「やっぱり、そうなんだ……」


 アメリアは悲しそうに呟いた。


 金髪のショートヘアをかき乱して、ぐっと目をつむる。


 それから数秒、アメリアが再びまぶたを上げると、諦めの瞳があった。寂しく潤むグリーンの瞳だった。


「助けてくれて、ありがとう。私はすぐ出ていくよ。この恩はいつか必ず返すから」


「行くアテがあるのか?」


「ないけど出ていく」


「恩を返してくれると言うなら、ここに残ればいい」


「私に仲間になれって言うの?」


「そうだ」


「ダメだよ!」


 アメリアは食い気味に拒絶の声を上げた。


「私なんかを仲間にしたらみんな死んでしまうんだ。だって私は、し、死神なんだから」


「死神……。アジトでもそう呼ばれていたが、なぜ死神なんだ」


「だって私と一緒にいた人は、全員死んでしまったから……。収容所から一緒に逃げた友達も……拾って匿ってくれた猟師さんも……仲間にしてくれた盗賊もみんな……追っ手とか魔物(モンスター)とか、なにかに襲われて死んでしまった……。なのに、いつも私だけ生き延びてる……。きっと私が死を撒き散らしてるんだ。私のそばにいたら、きっと君たちもなにかに襲われて死んでしまう」


「おれたちは、もう襲われることが決まってる。盗賊のアジトを襲った、あのSランクの男、ダミアンにな」


「ほらやっぱり。私なんかを助けるから」


「だからといってお前を放り出せば、おれたちは全滅して、お前はひとり生き延びるだろう。また死神だと自分を責めることになるぞ」


 アメリアは返答に困って目を細めるのみだった。


「だがお前の助けがあれば、おれたちはダミアンを――あのSランクの超人を撃退できるかもしれない。お前の力を貸してくれないか」


 アメリアは首を横に振る。


「私はFランクだ。弱いんだ。貸せる力なんてない」


「おれたちだって全員Fランクだが、それぞれに取り柄がある。強みがある。お前はまだ、自分の本当の力を分かっていないだけなんだ」


「私にそんなのあるわけない……ッ」


 両の拳を握りしめる。瞳がますます潤み、涙がこぼれてくる。


「あったなら、みんなを死なせずに済んでた……。ちゃんと守れてたはずなんだ……ッ。つらくても、いじめられても、私にとっては大事な居場所だったのに……ッ!」


「おれの言葉が信じられないなら、教えてやるよ」


 おれは指先から圧縮魔力を撃った。早撃ちだ。頭に2発、両腕に1発ずつ。


「うっ、ぐあ、あ……っ」


 アメリアは痛みに悶える。


「ウィル様!? なんてことするの!?」


 クラリスが抱きついてきて、おれの手を下ろさせる。


「なんで怪我人を撃つんだ」


 ゲンも顔を引きつらせていた。


 ミラやママウルフも、目を丸くして声を無くしている。


 唯一、ルークだけは冷静に見守っていた。


 おれはアメリアを視線で示す。


「よく見ろ。おれはアメリアに当てていない。いや、《《当てられなかった》》」


「えっ」


 と、揃ってアメリアのほうを向く。


 アメリアは首や両手を逸らして、ぎりぎりで回避していたのだ。アメリアが悶えているのは、急に動いて傷が痛んだためだろう。


「アメリアには、おれが撃つのが視えていたんだ。同じように視えていたやつはいるか?」


 みんな一様に首を振る。


「そうだ。これがアメリアの強みだ。急に撃って悪かったな、アメリア。だが、これで自分の力が分かっただろう?」


「私の、力……?」


「とてつもなく眼が良いんだ。瞬時に最適な動きを選ぶセンスもある。これがどういうことか、分かるかアメリア?」


「……分からない」


「お前は死神なんかじゃないということだ」


「死神じゃ、ない……?」


「本当なら全滅しそうな絶望的な状況でも、お前だけは生死の境目を見切ることができていたんだ。じゃなきゃ、あのSクラスの超人ダミアンに正面から立ち向かって生きていられるわけがない。他の連中は、不意打ちしてさえ瞬殺だったろう」


「本当に、そうなの……? だけど……だからって、私は役に立たない。弱いのは本当だから」


「そうだな。不幸なことに、お前の眼やセンスに、身体能力が追いついていない。だがそれはおれたちが補ってやれる。死神とは真逆の、守護天使にしてやる。その力で、おれたちと一緒に戦ってくれないか」


「……だけど、私にできるのか、不安だよ……。わ、私が足を引っ張って、そのせいで全滅しちゃうかもしれないし……」


 アメリアは自信なさげに瞳を泳がせる。


「構わない。おれは一緒に生きようと言っているんだ。だったら死ぬときも一緒で当たり前だろう。ここにいる者はみんな、そのつもりで助け合っているんだ」


「――うっ」


 すると、先にも増して大粒の涙が溢れ出てきた。


「ご、ごめん。そんな風に言ってくれた人は、は、初めてで……。頼りにしてくれるのも、初めてで、不安だけど……う、嬉しくて……」


 おれはそっと手を差し伸べた。


「ここが、お前にとって居心地の良い場所になることを願うよ」


 アメリアはおれの手を握った。


「――よろしく、お願いします」


 おれはその手を優しく握り返してやる。できるだけ心地よく感じてくれるように。


「ああ。これで仲間は39人だ。こちらこそよろしく頼むぞ」

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