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第34話 もうひとりの転生者

「……ルーク、お前の目的がさっぱり分からん。大きなリスクを払っておいて、おれたちになにも望まないどころか、基地や物資を提供するなど」


 ルークはちらりとミラに目を向ける。さらにアメリアが運ばれていった医務室のほうへも。


「お前たちは、苦しんでる誰かを見つけたら助けてるんだろう。オレはそれを続けて欲しいだけなんだ。ランク制のせいで苦しんでいる誰かの助けになってくれたらいいと思ってる。そうしてくれれば、いつかきっと、オレの望みも叶う」


「お前の望みとはなんだ」


「ランクに関係なく、みんなが幸せに生きていける世の中になることさ」


「とてもAランクの上級貴族とは思えん発言だな」


「よく変わり者だと言われるよ」


「異世界転生者なら、まあそうだろうな」


「――ッ!?」


 これまで飄々としていたルークの表情が崩れた。驚きに固まる。


 おれは確信して頷く。


「やはりそうだったか。平等主義の世界で生きた記憶があるなら、下位ランクに同情し、助けたいと思うのも不思議じゃない」


「なんで分かったんだ?」


魔法銃(スペルシューター)に対する反応さ。ゲンがお前に向けたとき、お前はあれを『物騒なもん』と言った」


「そりゃ武器を向けられたら言うだろ」


「そうかな? ダミアンに向けたとき、やつは武器と分からず一瞬だが隙を見せた。この世界には、魔法銃(スペルシューター)と似た形の武器――拳銃は存在しないからな。武器だとひと目で分かるということは、つまり……」


「なるほどな。ということは、お前も……」


「ああ、転生者だ。だが、お前がいくら前世の常識に従おうとしても、王国に反逆するほどのリスクを犯せるとは思えない。それをさせるだけのなにかが、他にあるんだろう?」


「……ああ、ある。妹のためさ」


 ルークは自嘲気味に笑った。


「壮大な企みじゃなくて期待外れだろうが、ちょいと身の上話を聞いてくれよ」


 軽口のように言うが、発せられた声はどこか重たかった。


「あの子は、前世でもオレの妹だったんだ。無能なオレとは大違いで、小さい頃から出来の良い妹だったよ――」


 ――ある事件に巻き込まれて両親が死んで、オレも職場を失って、何もかも嫌になって引きこもりになっちまったけど、妹はずっと支えてくれた。養ってくれてただけじゃない。いつか幸せになれるって励まし続けてくれたんだ。


 そのお陰でオレも立ち直れそうになって、そしたら妹が旅行に誘ってくれた。昔家族で行った思い出の場所にって。嬉しかったよ。でもな、行く途中に事故に遭って、揃って死んじまった。


 あの子は、オレなんかのために死んだも同じだ。


 兄妹揃って転生したのは、神様が今度こそ妹を幸せにするチャンスをくれたんだと思う。


 でもオレは、妹がFランクにされたとき、まだ前世の記憶に目覚めてなかった。オレはあの子を蔑み、口汚く罵ったよ。泣いてすがるあの子を、足蹴にさえした……。


 何年か経って記憶が目覚めたとき、あの子は前世でも妹だったんだと気づいた。オレがどれだけ後悔したと思う? オレのせいで幸せにもなれずに死んだ妹に、どんなに酷い仕打ちをしたんだって――


「――それから妹の行方を探したけど、もう何年も経っちまってて、その足取りも、変えられた名前さえ掴めなくなってたんだ」


「……その子の特徴は?」


「オレと同じ黒い髪に黒い瞳。もう15歳になったはずだ。10歳まではセラフィーナという名前だった。それと解読不能のスキルを持ってる」


「解読不能のスキルだと?」


「それがスキルだと認められなかったせいで、能力値は低くなかったのにFランクにされたんだ。あれは日本語で書かれてただけなのに」


「おれと同じだ。前世で培った能力を、スキルとして継承していたんだ」


「どうりで、あの子にはあってオレにはなかったわけだ。前世で無能な引きこもりだったオレには継承スキルはなくて、空いてた枠に、生まれた家に合った良いスキルが入ったってわけか……」


「スキル名は覚えているか? それらしき者がいたら、判別してやれるが」


「『空間把握』とかそんな感じの4文字だったが……。正直、この広い国で探し出せるとは、もう思えない」


「諦めるのか」


「諦めたくない。見つけられないなら、せめてまともに暮らして欲しい。Fランクでも幸せに暮らせる世の中であって欲しい。だから……」


「それがお前の目的か。おれたちを助け、おれたちに他の誰かを助けて欲しいと願う真意か」


「ああ、そうだ。そのためなら、なんでもする。この基地も、そういう誰かのために用意していたものなんだ。けど――ふふっ」


 と言ったところで、ルークは急に吹き出した。楽しげな笑みだ。


「なぜ笑う?」


「いやだってさ、お前、さっきまでオレのこと疑ってたくせに、話を聞いたらもう協力的になってる。やっぱり、いいやつじゃないか」


 しまった。つい感情移入してしまった。


 この話が真実だという証拠など、どこにもないというのに。


「……単に、話を合わせてやっていただけだ。お前への疑いを晴らしたわけじゃない」


「へー、そーかい」


 からかうような口調に、若干イラッとする。我慢して呑み込む。


「だが……一応、礼儀として言っておいてやる。感謝するぞ、ルーク。仲間を――おれたちを助けてくれて」


「いいってことよ」


 ルークは人懐っこい笑顔を見せる。思わずこちらも頬が緩んでしまう。すぐ顔を引き締める。


 まったく。気に入らないやつだ。


 しかし、なぜだか長い付き合いになってしまいそうな気がする。


 それも悪くない。利用価値はありそうだから。


「さて、と。じゃあ、そろそろ作戦を考えないとな」


 気を取り直したように、ルークは軽く手を叩く。


「なんの作戦だ?」


「もちろん、ダミアンとどう戦うかさ。残念だがこの秘密基地、たぶんすぐ見つかっちまうから」


「なんだと?」

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