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第29話 Sランクの襲撃者

「生かしておいてやる、だと? てめえ、どの立場から抜かしてやがる」


「お前らはおれたちの秘密基地の位置を知ってしまった。本当なら口封じに皆殺しにするところだが、利用価値はある。取引に応じ、秘密を守るなら生かしておいてやる」


「ぶあっはっはっはっ! Fランクの分際でよくも見栄を切ったもんだなぁ! てめえらに、んなことできるわきゃねえだろ! こっちのランクがいくつで、何人いるのか分かってて言ってんのかよ!」


 盗賊ボスは大声で喚き散らす。稚拙な威嚇だ。おれは微動だにせず、鋭く睨み返す。


「ランクも人数も関係ない。おれはやると言ったらやる」


「なるほど、クソガキにしちゃ凄みがある……」


「取引内容はこうだ。おれたちは魔石を渡す。お前たちはその魔石を、近くの町や村で正当な取引で物資に変えて、おれたちに渡す。手数料として渡した魔石の1割はくれてやる」


「まどろっこしいな。お前らFランク民が町で買い物できねえのは分かるが、だったら俺たちから直接買えばいいだろう」


「盗品はいらん」


「てめえらを散々苦しめてる連中から盗ってきたもんだぜ。気にするこたぁねえだろう」


「そいつらとお前らと、どれだけ違いがある?」


「ああ?」


「取引はもうひとつ。ここにいるFランク民を全員よこせ」


「あいつらを買うってのか? なんでお前が」


「食事も服も扱いも、ひどい様子だ。こんなところに置いておけるか」


「なに言ってやがる。あいつらにゃ、収容所よりずっといい暮らしをさせてやってんだぞ」


「程度の問題じゃない。他人の決めたランクにこだわり、下だと決めつけて不当に扱うなど許せん」


「脱走して死にかけてたのを、わざわざ助けてやってたんだ。その分、こき使ってなにが悪い。誰も嫌がってねえぞ。今まで脱走したやつなんかいねえ」


「他に行くアテもなく、収容所よりはマシで、恩も売られてる。これでは嫌でも嫌とは言えまい。だが、そういう状況にしてこき使うのは、搾取というものだ。下衆(げす)のおこないだ」


「チッ、優しく話してやってりゃあ付け上がりやがって。身の程ってのを教育してやったほうが良さそうだなぁ!」


 盗賊のボスは勢いよく立ち上がった。そばに転がっていた斧を拾い上げる。周囲の取り巻きも、それぞれ武器を取る。


 こちらも構える。クラリスは両手に魔力をチャージ。ゲンは魔法銃(スペルシューター)を二丁、両手で左右の敵に向ける。


「交渉決裂か。まあいい。どうせ盗賊など、いないほうが世の中のためだ」


「ほざけ! ガキども八つ裂きにして、Fランクどもの夕飯(メシ)にしちまえ!」


 盗賊ボスを狙撃しようとしたその瞬間だった。


「か、(かしら)ぁ~! 大変だ、助けてくれぇ! 敵だ、襲撃だぁ!」


 駆け込んできた下っ端の声に気勢が削がれる。すぐボスが問いかける。


「こんなときにかよ! ギルスの町の討伐隊か!? 数は!?」


「か、数はわかんねえ。ふたりか、3人か、とにかく少ねえ。でも討伐隊じゃねえ、ありゃあ騎士か、勇者か、わ、わかんねえ!」


「チィッ、ガキどもは後回しだ! てめえら行くぞ! どこのどいつか知らねえが、いつも通り囲んでぶっ潰してやる!」


 ボスは部下を引き連れて駆けていく。


 おれは今の問答で察していた。騎士か、勇者か。だったらBランク以上。おれたちに向けられた追っ手かもしれない。


「クラリス、ゲン、分かってるな?」


「うん、ウィル様。もちろん」


「Fランクをできるだけ助けて脱出だな? やってみる」


 おれたちは、いくつも部屋を経由しながら出口を目指す。


 だが防衛に駆り出されているのか、どの部屋ももぬけの殻だ。


 誰にも会えないまま訓練所に辿り着く。そこは戦場となっていた。


 軽装ながら最高品質の装備に身を固めた男がひとり。それを取り囲む盗賊たち。訓練所の複数ある出入口から、さらにぞろぞろと集まってくる。


 多数の部下の後ろから、盗賊ボスが笑う。


「上手く誘い込めたぜ。これだけの数に囲まれりゃあ、ひとたまりもねえだろ! かかれ!」


 先頭に立たされているのはFランクの者たちばかりだ。果敢に挑む者もいれば、怯える背中を蹴られて向かっていく者もいる。


 止める間はなかった。


 次の瞬間、侵入者の剣がそのすべてを切り裂いていたのだ。


 盗賊たちはそれも織り込み済みだったのだろう。倒れゆくFランク民の影から、武器を振るって襲いかかる。


 やつら、Fランク民を囮にしたのだ。


 四方八方から迫る盗賊に対し、侵入者は剣を振らなかった。瞬間的に魔力が高まり、魔法が発動した。


 侵入者を中心に、爆風が発生。襲いかかった盗賊たちは吹き飛び、ある者は壁に叩きつけられて潰れ、別の者は爆風をモロに浴びて空中でバラバラに。襲いかかった者は全員、瞬時に肉塊となったのだった。


 残った盗賊たちは戦慄する。


 おれも息を呑む。その身体能力。その魔力。そして、右手の甲にあるランクの印。


 ――Sランク。


 その襲撃者は、おれたちの予想を遥かに超える超人だった。

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