第26話 魔法銃の改造と課題
ミラたちは、メンバーに温かく迎え入れられた。
ダイアウルフたちが馴染めるかは不安だったが、ママウルフを助けたことはよく分かっているらしく、すんなりとおれたちに懐いてくれた。
あるいはミラのスキル『魔闇の絆』の効果の一端だったのかもしれない。
懐いてくる様子と、もふもふの毛並みは、みんなの癒しだ。ママウルフが喋れるので意思の疎通も楽だ。
彼女たちには、食料調達班の手伝いや、採掘した魔石の運搬、秘密基地周辺の見回りなどをしてもらっている。
魔石の採掘は始めているが、人手が少ないため採掘量も少ない。今は使用用途が限られているため大した問題ではない。
ともあれ魔法銃の弾数に心配はなくなった。魔力が切れてもすぐ魔石を交換できるよう改造もしたが、それだけでは物足りない。
そこで、さらなる機能を加えてみたところ――。
「すごい! やっぱりウィル様は天才だ!」
「これでオレたちも魔法使いかよ! 考えてもみなかったぜ!」
試し撃ちした保安班員から大絶賛である。
「さすがに魔法使いは言いすぎじゃない?」
「でもよお、火も雷も出せるんだぜ。ちょっとした魔法使いには違いねえじゃん」
追加改造で、撃てる弾を変えられるようにしたのだ。
本物の拳銃で言えば弾倉が挿入される部分に、魔法札を挿入できるようにしてある。魔法札次第で、火炎や電撃、冷気など違う魔法が撃てるようになるわけだ。
「ありがとう、ウィル。これでどんな敵が出てきても、なんとかなりそうだ」
ゲンも魔法銃の改造に満足しているようだ。おれは首を横に振る。
「いや。これでもまだ足りん。採掘した魔石の質は、それほど高くない。最初の物より威力は落ちてる。撃てる魔法の種類など、それを補う手段に過ぎん」
「そうは言うけど、ゴブリンやそこらの魔物相手なら充分過ぎるだろう? ウィルは、なにと戦うつもりなんだ?」
「おれたちは脱走者だ。いつこの秘密基地が見つかって襲撃を受けるか分からん」
「でもBランク相手なら、ウィルやクラリスが倒せる。それに、この魔法銃があれば、俺たちでもやれるんじゃないか」
「いや。ピグナルドには、やつが魔法に頼りすぎていたから勝てたんだ。実戦経験豊富な騎士が相手なら勝てたか怪しい」
「そんなのが来ても、全員でやれば……」
「ああ、勝てるだろう。だがBランク騎士を倒したとなれば、次はその集団か、あるいはその上のAランクが出てくる。おれたちの自由を守り続けるには、より強い力が必要なんだ」
「……キリがないのか」
「そうだ。食料や資源を外に求めている現状、ずっと隠れていられると考えるのは楽天的過ぎるだろう」
いずれは秘密基地内で自給自足することが理想だが……今の技術レベルでは無理だ。
「……さすがウィルだな。俺なんかよりずっと先を見てる。やっぱり、お前がリーダーで良かったよ」
「ああ。ところでゲン、お前にはもうひとつ試して欲しい物がある」
おれはゲンに魔法銃を手渡す。
「これは? 他のと変わらないように見えるが」
「例の鉱脈で、ひと欠片だけ質のいい魔石が採れたんだ。それを装填した。威力を確かめてくれ」
「分かった。とりあえず撃ってみればいいんだな?」
ゲンは訓練用の的に魔法銃を向ける。
「反動が大きいはずだ。しっかり構えておけ」
「ああ。よし、撃つぞ」
深く腰を落とし、両手で構える。そして引き金を引いた瞬間――。
バゴンッ!
「――うがっ!?」
爆発音と共にゲンは吹っ飛んだ。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、なんとか。痛てて」
すぐ助け起こす。反動で両手を痛めたようだが、大怪我ではない。ひとまず安心。
発射された魔法は、並んでいた的をまとめて吹き飛ばし、訓練所の壁に大穴を開けるほどの威力。訓練所を新設しておいて良かった。一歩間違えば、仲間に被害が出ていたところだ。
一方、魔法銃は、発射口から破裂して、持ち手以外は粉々になってしまっていた。
「改良の必要あり、か」
「改良したところで、こんな反動があったんじゃ使えないよ。その分、威力はとんでもないけど」
メンバーでもトップクラスに優れた身体能力のゲンでこれだ。実質、誰にも扱えないことになる。
そして、この高出力でも壊れない素材は、今はない。
壊れた魔法銃から、高出力の魔石を取り出す。
「こいつをどうやって活かすか。少し考える必要がありそうだ」
ゲンは両手をぷらぷらと振りながら、不思議そうにこちらを見つめる。
「なんで楽しそうな顔してるんだ?」
「これだけの物なら、有効な使い道はいくらでもある。課題をどうやって克服し、実現させるか。それが楽しみでな」
生物兵器や戦闘強化服の動力源にもできる。あるいは秘密基地の動力源として様々な施設を作るのも面白い。もしくは壊れる前提の兵器として、爆弾にしてしまうのもいいかもしれない。
「ふふ。開発では、ここが一番面白いところだ」
「俺にはよく分からないから、ウィルにお任せするよ」
「ああ、見ていろ。最高の物を作ってやる」
おれは不敵に笑って、魔石を懐にしまった。
そのとき。
「ウィル~! 助けてくれ~!」
ミラが助けを求めて駆け込んできた。