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第21話 感謝という名の報酬

「うわぁあん、ありがとう! おうちに帰れるぅう~!!」


「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」


 ゴブリンに囚えられていた女性たちは、泣きながら感謝してくれたのだ。


 おれたちは、戸惑ってしまう。


 収容所では、仲間同士ならともかく、それ以外の者から感謝されることは皆無だった。こんなことは初めてと言っていい。


 前世のあるおれも慣れていない。前世では、なにかをしたら憎まれることのほうが多かった。


 助ければ感謝されるのは予想できたが、これほど激しくされると対応に困ってしまう。


「れ、礼はいい。早くここを出るぞ」


 困惑を抑えて冷静に脱出を促す。しかし、これまた予想と違った反応が返ってくる。


「まあ。とてもクールで謙虚なお方……」


「かっこいい……」


 なぜか女性たちからの評価が上がっている。本当になぜだ。


 とにかく女性たちをゴブリンの巣から連れ出すが、予想外の事態はこれに留まらない。


 外には、町の討伐隊がいた。武装した男が二十数人。


 一度敗走した後、戦力を整えて戻ってきたのだろう。ところがゴブリンの死体が大量に転がっていて戸惑っていたようだ。


 おれたちに警戒の目を向けるが、次の瞬間には喜びの色に染まる。


 捕まっていた女性たちが、嬉しそうに彼らに抱きついたのだ。親類縁者だったのだろう。


「この人たちがゴブリンを倒して、助けてくれたのよ!」


 女性たちの言葉で、討伐隊の空気は完全に友好的なものとなる。


「君たちがゴブリンを……。よくそんな少人数で……。いや、まずはありがとう」


 リーダーと思わしき人物が進み出てくる。おれも前に出て対応する。


「礼には及ばない。おれたちも、自分たちの安全を確保したかった」


「それでもありがとう。大事な家族を取り戻してくれた。いくら感謝しても足りないくらいだ」


「取り戻すと言えば、洞窟の奥には宝もあった。町から略奪された物だろう。あとで回収するといい」


「黙っていれば、持っていったとしても分からなかっただろうに……。君たちはなかなか高潔な者のようだ」


 高潔などと言われて、むず痒い気持ちになる。ただの合理的判断だと言うのに。


「それより、ゴブリンの一匹が魔石を使っていたが、あれは元は町の物だったのかもしれない。知らずに奪って使ってしまった。申し訳ない」


「いいさ、そんなの! ゴブリンを倒すために使ったのだろう? だったら俺たちが使っても同じ――いや、ゴブリンを全滅させてくれたんだ。俺たちよりずっと有効的に使ってくれた。礼をさせて欲しいくらいだ! 君たちは、いったいどこの何者なんだ?」


「おれたちは……そうだな、人間の自由のために戦う者、とだけ言っておく」


 そのとき、討伐隊のひとりがなにかに気づいて、リーダーに駆け寄ってきた。耳打ちする。


 すると、リーダーはおれたちの右手の甲に目を向けた。


 一応、事前に指示して全員の印は隠してある。だが隠していること自体を怪しまれたかもしれない。


 近くの町なら、収容所からFランク民が脱走したという噂も届いているはずだ。おれたちと結びつけるかもしれない。


 だが、リーダーは笑って仲間の背中を叩いた。


「いやいや、Fランク民がゴブリンと戦えるわけないだろう! 俺たちだって一度は負けたやつらを、こんな少人数で討伐したんだ。最低でもC……。もしかしたらBランク。貴族の御子息のお忍びってことも――」


 そこまで言いかけて、リーダーはハッとしてその場でひざまずいた。


「だ、だとしたら、無礼な口を利いてしまい申し訳ありません!」


 印を隠しているのも、高い身分を隠すためだと解釈したらしい。


「よせ、おれたちは、お前たちの考えているような者じゃない」


「わかりました! そういうことにしておきます!」


「だから……」


「とにかくお礼をさせてください! 町で歓迎の宴でも!」


「悪いが遠慮する。そんな時間はない」


「しかし、それではこの御恩にどのように報いれば……」


「ならひとつ頼みを聞いてくれ」


「なんなりと!」


「ゴブリンの群れにいたのとは別に、ダイアウルフの群れがいる。お前たちはゴブリンの仲間だと思って討伐しようとしたようだが、もう手は出さないでくれ」


「はぁ、なぜでしょう?」


「無闇に人を襲ったりはしないからだ。そういった魔物(モンスター)を下手に討伐すれば、人を積極的に襲う他の魔物(モンスター)が入り込む恐れがある。地域の安全のためには、そのままがいい」


 それらしい理由を即興で述べてみたが、討伐隊はそれで納得してくれたようだ。


「かしこまりました! そのようにいたします!」


「では、さらばだ」


「あ、お待ちを!」


「なんだ?」


「俺たちは近くのギルスの町の者です! なにかあればお申し付けください! 町を上げてお力になります!」


「ありがとう、覚えておく」


「こちらこそ、どうもありがとうございました!」


 深々と頭を下げる討伐隊と女性たちに背を向けて、おれたちは立ち去った。


 帰り道で、仲間たちは上機嫌に談笑していた。


「感謝されるって、こっちも嬉しくなるんだなぁ」


「オレたちを貴族様と勘違いしてたな。へへっ、悪い気はしねえなぁ」


「でもウィル様、なんで宴は断ったの? お礼もたんまりもらえたかもしれないのに。もったいない」


「お前たちが貴族のふりをできるか分からなかったからな。もしボロが出たら大変なことになる」


「あ、そっか」


「それに時間がないのも本当だ。おれは急いで行かねばならん。お前たちは先に帰っていろ。クラリス、行くぞ」


 おれはクラリスと共に、ミラの元へ走った。

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