第19話 ゴブリン殲滅作戦
ミラと別れてからすぐ、おれとクラリスはゴブリンの巣を探した。
見つけるのは、難しくなかった。足跡があったのだ。ゴブリンのものではなく、おそらく討伐隊のもの。
辿り着いたのは洞窟だ。その入口付近では、見張りと思わしきゴブリンがうろついている。地面には争った形跡がある。乱れた足跡の様子から、討伐隊が敗走したのが分かる。
武装したC~Dランクの者なら問題なく戦えるはずだ。それが敗走したということは、よほど数に差があったのだろう。
そこでおれたちは一旦、秘密基地に引き返した。
戦える者を集めて、宣言する。
「今後の安全、および資源の確保のためゴブリンの巣を殲滅する」
「殲滅? お、オレたちが?」
「ゴブリンなんて、私たちには荷が重いよ……」
「怖い……」
「守ってるだけじゃ、ダメなのかな?」
反応は芳しくない。
まともな戦闘経験がないばかりか、収容所にいた頃に魔物討伐の囮に駆り出されて死にかけた者もいる。魔物に対して、強い恐怖感があるのは当然だろう。
だが――。
「お前たち、本当にそれでいいのか?」
おれは、あえて強く言い放つ。
「おれたちはFランクと言われた。取り柄のない能無しだとな。だがそれは違う。それぞれに個性があり、能力がある。おれが見出してやったとき、お前たちは喜び、誇りとしたはずだ。生きることが楽しくなっただろう?」
おれを注視するみんなをゆっくりと見渡す。否定する色はない。
「なのに、ここで出来ないと言って逃げては、その取り柄を自ら否定してしまう。自分で自分に無能のレッテルを貼るのと同じだ。本当にそれでいいのか? いいや、いいわけがない。今こそ勇気を持て。人に言われただけじゃない。これこそが自分の取り柄だと、自分自身に証明してみせろ!」
幾人もが息を呑む。震えていた手を握りしめる者もいる。弱気な顔のまま、しかし自分に言い聞かせるように何度も頷く者もいる。
やがて決意の目を見せる者が現れ始める。
「わかったよ、ウィル様。やってみる。オレは、やれる……」
「わ、私も……。ウィル様が言ってくれたもん。私は、無能じゃない。私は、戦える……」
「僕も……。でも……僕たちの力でゴブリンを倒せるのかな」
安心させるべく、おれは不敵に笑ってみせる。
「問題ない。お前たちには魔法銃がある。おれも、クラリスも付いてる。ゴブリン如きに遅れは取らん! 皆殺しにして、初めての勝利を心に刻みつけろ!」
おれが握り拳を掲げてみせると、すかさず、ゲンが「おお!」と同じように拳を上げてくれる。クラリスも、小さく「おーっ」と上げる。
それに同調して、他の仲間たちも声を上げ始める。連鎖的に声は高まり、同時に士気も高まる。
「よし、ゴブリン殲滅作戦開始だ!」
おれたちは最低限の守りを基地に残し、ゴブリンの巣へ向かった。
見張りのゴブリンは、おれたちの姿を見つけてすぐ巣から仲間を呼び寄せる。
十数匹はいる。中にはもっといるだろう。対し、こちらは10人もいない。ゴブリンどもは、醜くニタニタと笑い始めた。
「ウケケケ、ニンゲンども、コりずにまたキやがった!」
「オンナ、オンナもいる。ありがてぇ、またナカマをフやせるぜぇ」
「ケケケ。ミろ、アイツら、ヨワいシルシつけてる。バカだ。シににキたのかな、ケケッ」
一方、こちらの仲間たちはゴブリンの集団を目の当たりにして、怖れ、緊張している。
「全員、構えろ。よく狙え」
落ち着き払ったおれの声に、仲間たちは安心したようだった。指示通り、魔法銃を構える。
「ナンだナンだ、ナンかしてるぞ」
「オマジナイ? コウサンのポーズ?」
「ケケケ、バカ、アイツらバカ」
ゴブリンどもは相変わらず舐めた顔で笑っている。
だが次の瞬間には、その顔は一変するだろう。
「撃て」
魔法銃の掃射が、ゴブリンどもに向かって放たれた。