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第14話 番外編② 殲滅指令

 ゴールドリーフ王国、ハロルド王は家族と小さな茶会を開いていた。宝石のように輝く最上の紅茶と、彩り豊かな菓子類。ささやかな休息の時だった。


 他の参加者は、王妃のイザベラ、13歳になる息子のアーサー、そしてアーサーの許嫁であるウィンターズ家の末娘カタリーナである。


 美しく成長し、立派な淑女という佇まいのカタリーナだが、分かる者には分かる傲慢さが表情から滲み出ている。


 そのカタリーナが、思い出したように軽く口にした。


「陛下の耳にはもう届いておりますでしょうか。ビリオン家の管理する収容施設から、Fランク民37人が消えたそうですわ。脱走したところで生きていく術もないでしょうに、なんて愚かなことをするのでしょう」


 するとハロルドは、鋭くカタリーナを睨んだ。


「初耳だ。たしかなのか、カタリーナ?」


 カタリーナは、その反応に意外そうに目を丸くする。ちょっとした世間話のつもりだったのだろう。


「は、はい。ビリオン領は我が家の領地に近いので、情報の精度は高いかと……」


「当主のピグナルド・ビリオンはなにをしていた?」


「行方不明だと聞いております」


「消えた37人について、他に情報は?」


「大したものはありませんが……ピグナルド監督官長と争いがあり、その首謀者はウィルという名前だったとか――」


 その名を出した瞬間、イザベラ王妃は弾かれたように顔を上げた。


「ウィル? ビリオン収容所のウィルですか!? まさか、そんな……」


「知っているのか」


 ハロルドが問うと、イザベラは唇を震えさせた。


「あの子です……。ウィルと名を変えられ、ビリオン収容所に送られた、ウィリアムです」


 本来、Fランクとなった者の新たな名や行方を調べることは禁じられているのだが、ハロルドはあえて非難しなかった。


「ウィリアムなどという者、余は知らぬ」


「あ……そ、そうです……。私たちには関わりない者、でしたわ……」


 王家からFランクが出たことなど公にできない醜聞だ。


 よって、初めからウィリアムなどという王子はいなかったことにしている。


 Fランクを産んでしまったことでイザベラには不貞の疑いも生じたが、それに言及するとウィリアムの存在を認めることになってしまうため、不問としている。


 もっともハロルドは、その名を聞くまで本当に存在を忘れていたが。


 アーサーやカタリーナも、知らないふりをする。


「……ダミアンを呼べ。ルークもだ。今すぐ」


 侍従に命じて小一時間もしないうちに、ふたりの青年が部屋に現れた。


 ダミアンは、珍しく庶民の家から生まれたSランクだ。生家を出て、名門貴族シンクレア家の養子となっている。


 もう一方のルークは、生粋のAランク貴族でありながら、庶民的な視点を持ち合わせた柔軟な発想の持ち主である。


 ハロルドはふたりにFランク民脱走の件を伝え、すぐ次のように命じた。


「やつらの行方を追い、ひとり残らず抹殺せよ」


「はっ、仰せのままに」


 恭しく頭を下げるダミアンだが、その傍らで、1ランク低いはずのルークはどこか気安くハロルドに意見する。


「しかし陛下、たかがFランクの脱走者に、Sランクのダミアン殿を呼び出すのは過剰ではありませんかね? この程度の仕事、オレ――じゃなかった、私ひとりで十分かと」


 その言には、ダミアンも口にはしないが同意の目を向けていた。イザベラ王妃やアーサー王子、カタリーナも同様だった。


 ハロルドは小さく首を振る。


「お前たちは、(こと)の重大さが分かっていないようだ」


「と、申しますと?」


「やつらは、どうやったのかは知らんが、Bランクのピグナルドを倒し、脱走を果たしてしまった。その噂が広がり、上位ランクには決して敵わぬという認識が崩れてしまえばどうなる? 己の待遇に不満を持つ下級民どもが、次々に反乱を起こすかもしれぬ。ゆえに、芽は小さいうちに確実に刈らねばならぬ」


「なるほど、それは一大事」


「はっ。我らの支配体制が崩されるとは思えませぬが、国内が乱れるのは由々しき事態。陛下の慧眼に感服し、私の浅薄なる認識を心から恥じ入る次第にございます」


 一言で軽く済ませるルークと、重々しく頭を下げるダミアン。


「うむ。徹底的に叩き潰せ。そして逆らう発想さえ生まれぬほど、ランクの差を世に知らしめるのだ」


「御意」


 ダミアンとルークは連れ立って部屋を出ていく。


 イザベラはその背中を、なにか言いたげに見つめていたが、ハロルドは無視した。

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