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第12話 愚かな前世と無自覚な優しさ

「異世界転生って、なんだ?」


「生まれ変わりのことさ。おれは別の世界で死んで、この世界で生まれ変わっていたんだ。前世で培った知識や能力を、スキルとして引き継いで……な。もっとも、前世の記憶もなく、スキルも使えない状態だったからFランクにされてしまったが」


「それが、ピグナルドと戦ってるときに目覚めた?」


「そうだ。冗談のように聞こえるかもしれないがな」


「たしかに。……でも信じるよ。むしろ、納得できる。実際ピグナルドを倒したわけだし、なにより、前と雰囲気が変わってる。まるで別人だもんな」


「そうかもしれんな。だが、おれは間違いなくウィルだ。記憶は統合されているし、お前たちへの仲間意識も変わらないつもりだ」


 むしろ前世のおれの人格が、ウィルの影響を受けて、少々甘い性格になっているかもしれないくらいだ。


「前世では、どんなことをしていたんだ?」


「今と似たようなことさ。規模は違うが、己の望みのために組織を運営していた」


「なら、ますます俺たちのリーダーに相応しいじゃないか」


 そこに、聞いていたクラリスが話に入ってきた。


「じゃあウィル様は、前世でも優しかったんだね」


「なにを言ってる。今も前世でも、おれは優しくはない」


 組織を動かし暴れさせていた頃を思い出す。


 天才である自分自身こそがあらゆる人々の頂点に立つべきだと考え、優れた発明品による破壊と暴虐で世界を屈服させようとしていた日々だ。


 今思えば、愚かだった。


 能力こそがすべてと考え、他者を下等と見下し支配することは、今まさに、おれたちFランク民が受けている不当な支配そのものだ。


 未発見の才能の開花や、努力による成長といった未来の可能性を無視している。


 自分がされて苦しんだ不当な扱いを、他者に強いていたのだ。あまりに愚かで、身勝手なおこないだったろう。


 おれの前に立ち塞がったヒーローどもとの戦いがなければ、その愚かさに気づくこともなかった。


 そんなおれが、優しいわけがない。


「いや、ウィルは優しいよね?」


 エレンが反論してくる。


「だって脱走のとき、小さい子もできるだけ連れ出せって指示してたじゃん? 足手まといになりそうって考えもしないでさ」


 確かに指示したが、べつに優しさからではない。


「あくまで合理的判断だ。子どもは、どんな才能を眠らせているかも分からない貴重な存在だ。それが開花の機会を奪われ、あんな場所で使い潰されていくなんて世界の損失だ。許せるわけがない」


 するとエレンは、なぜか苦笑した。


「照れ隠しで言ってるわけじゃないんだよね?」


「当たり前だ」


 今度はクラリスがにっこりと笑う。


「そういうこと、自然にやったり言えたりするのが、ウィル様のいいところだと思う」


 そしてゲンにも上機嫌に肩を叩かれる。


「さすがおれたちのリーダー。頼りにしてるよ」


「なんだお前たち、変な目で見るんじゃない」


 にやにや、にこにこ、とした顔を向けられるのには慣れていない。だんだん、居心地が悪いような、でも嫌な気はしないような、不思議な気持ちになってくる。


 おれは3人をその場から押しのける。


「も、もういいだろう。適性検査の続きがあるんだ。ほら、次のやつ、前に来い!」


 その後、残りの33人も順番に見てやった。


 ひとりひとりの取り柄を見つけてやると、みんなもクラリスたちのように、嬉しそうな顔をするのだった。


 それらの結果を元に、おれは適材適所に仕事を割り振ったのである。

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