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第11話 適材適所

 秘密基地に潜伏して数日。


 追っ手の気配は何度か感じたが、無事にやり過ごすことができた。


 ひとまずの安堵を得たおれたちは、本格的に生活基盤を整えるべく動き始めている。


 持ち出してきた食料は、もともと量も少なかったのもあって、もう尽きかけている。


 追っ手はやり過ごせたが、野生動物や魔物(モンスター)が侵入してくる可能性もある。


 食料と安全の確保が、現在の最優先事項だ。


 とはいえ、全員で闇雲に取り掛かればいいというものでもない。


 人には得手不得手がある。適した者に適した仕事を与えなければ、その者の素質を無駄にしてしまう。


「というわけでお前たち、なにが得意で、なにが不得意か、ひとりずつ調べさせてもらうぞ」


 すると、みんな揃ってキョトンと目を丸くした。


 首を傾げつつ、エレンが尋ねてくる。


「えぇと、アタシたちみんな、なんの取り柄もないからFランクなんじゃないの?」


「あの能力値判定には欠陥がある。アテにしなくていい」


「欠陥?」


「そうでないなら、FランクのおれがどうしてBランクのピグナルドを叩きのめせた? 少し助言してやっただけで、クラリスがひとりでピグナルドに勝てたのはなぜだ? 所詮、あの能力値判定はその者の一部しか見ていなかったということだ。これを欠陥と言わずなんと言う?」


「そう言われてみれば、そう、なの? かも……?」


 ずっとランクを絶対として、上位には決して敵わないと刷り込まれてきたのだ。おれの勝利でその意識は薄まりつつあるようだが、完全に払拭するにはまだ足りないのだろう。


「まあ、おれの言う通りにすれば、すぐ自分の取り柄にも気づけるさ。さっそく始めるぞ。せっかくだ、エレンからやろう」


「あ、うん」


 まずはおれの『慧眼の賢者(ワイズマン)』で解析して、能力を把握する。それからいくつか質問をし、その結果と能力を踏まえて結論を出す。


「ふむ……。エレンは教育者に向いているかもしれんな」


「ええ!? アタシ、勉強わかんないよ!? 向いてるわけないって」


「そうでもない。お前は、相手の事情を察して(いたわ)ってやれるやつだ。その優しさは、誰かを教え導くのに役立つだろう。勉強に関しても、お前には教育を受ける機会がなかっただけだ。おれが教えてやれば、すぐできるようになるくらいには頭が良いと思うがな」


「そ、そうかなぁ? あれ? でも、なんか、そう言われると嬉しい……かも」


 エレンがほのかに笑みを浮かべたところに、クラリスが割って入ってくる。


「ウィル様、次、わたし。わたしは?」


 なぜか、ちらちらとエレンを視線で牽制している。おれには上目遣い。


「クラリスは、もう分かっているだろう? 身体能力も魔力の質も量も低いが、それを補って余りあるだけの魔法技術がある。あれは、どこかで習ったものなのか?」


「うぅん、いつの間にかできるようになってた」


「いつの間にか?」


「Fランクになる前に、少しだけ魔法は習ったんだけど、その頃は上手くできなくて……。収容所に来てからは鉱山で働かされて、つらくて、苦しくて、楽になりたいなって思ってて……。魔法でどうにかできないかなって、魔力を動かしたりしてたら、できるようになってたんだよ」


「それは凄いな……。やはり天性の素質か」


 おれも教育を受けていたから分かるが、魔法は数学に近いところがある。難解な問題も公式を学べば解けるように、難しい魔法も術式を学べば使えるようになる。


 ところがクラリスは、術式も学んでいないのに、魔法を使えている。望む結果を生み出す魔法を、術式から編み出したのだ。数学で言えば、難解な問題を解くのに、その場で公式を導き出しているようなものだ。


 天才としか言いようがない。


 まあ、おれほどではないが。


「クラリスには、いざというときには魔法で戦闘も頼むかもしれんが、基本的には魔法の研究を任せよう。戦力、生活を向上させるために有用な魔法を編み出していってもらいたい」


「……前みたいな仕事じゃなくていいの?」


「おれは、Fランクはみんな同じだと思い込んで適材適所を考えないバカどもとは違う。向いてないお前に肉体労働などさせん。お前には、その技術で役に立ってもらうさ」


「うん、わかった! 任せて、ウィル様!」


 続いて、ゲンを解析して能力を把握する。


 魔力の質、量は最低だが、身体能力はかなり高めだ。スキルをひとつも所持していないのがFランクの理由だろう。


「これなら秘密基地の保安を任せられるな。いつも落ち着いているし、なにか起きても慌てずに対処できるだろう。指揮を取ってもらうのもいいかもしれん」


「そう、なのか。そんなことを言われたのは初めてだ」


「正当な評価を得られん環境だったからな」


「でも、どうしてウィルには俺たちのことがそんなに分かるんだ? 能力値判定の儀式もしてないのに」


「おれのスキルで調べている」


「スキル? 能力値を測れるスキルか? そんなのを持ってるなら、Fランクになっているはずがないだろう?」


「このスキルを使えるようになったのは、ついこの間、ピグナルドとやり合ったときさ」


「そんなバカな。どんな人間でも10歳までにスキルが発現して、それ以降の発現は100%ないはずだろう……?」


「特殊な条件が揃うと違うらしい」


「どんな条件なんだ?」


 ふむ、とおれは一瞬だけ思案した。すぐ問題ないと結論を出し、正直に答える。


「異世界転生だ」

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