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第1話 王子から最下級民へ

「恐れながら国王陛下……御子息は、最低のFランクにございます」


「――ッ」


 ぼくは言われた意味をすぐ理解できませんでした。


 父さまは冷たく見下してきました。ついさっきまで、温かく見守っていてくれたのに、今はまるでゴミを見るような目です。


「そ、そんなッ! なにかの間違いですわ!」


 悲鳴を上げたのは母さまでした。


「ウィリアムはこの歳で数々の魔法を習得している才ある子なのです! Fランクのわけがありません!」


「王妃様、それは王家の一流の教育の賜物でありましょう。御子息の魔力は、質も量も低水準なのです」


 神官さまは一枚の紙を差し出しました。能力値判定儀式の結果です。対象の能力やスキルが儀式によって自動的に書き込まれたものです。


 ぼくたちの国では、10歳になるとこの判定を受けることになっています。10歳時点での身体能力、魔力、所持スキルなどを総合してランクが決定されます。そして一生変わりません。


 母さまは判定結果を確認して、唇を震わせました。


「た、たしかに……。身体能力も、低い……。で、ですがFランクというほどではありません。C……悪くてもDランク程度はあるはずです」


「スキル欄を御覧ください」


 母さまは判定結果の所持スキル欄に目を向けました。父さまも覗き込みます。


「なんだこれは?」


「スキルは3つあるように見えますが、すべて解読不能の言語で記されております。本当にスキルであるかも疑わしい。この場合、所持スキルなしと判定されます。それゆえ総合してFランクと……」


「そうか」


 父さまは短く返事をしただけでした。母さまはその場にへたりこんでしまいます。


 ぼくの右手の甲には、ゆっくりと印が浮かび上がってきました。儀式によって、ランクに応じた印が自動的に刻まれるようになっているのです。


 その印の形は、紛れもなくFランクを示すものでした。


「あああ、あぁあ~っ!」


 それを見て、母さまはいよいよ泣き出してしまいました。


 ぼくもその印を見つめて震えていました。


 各ランクには、相応しい身分が定められています。たとえば最上位のSランクなら王族や、王族と結婚できる権利を持つ上級貴族であったりします。Bランクまでが貴族で、C以下は庶民です。


 Fランクは例外です。庶民ですらない、いわば賤民なのです。


 その命はひどく軽く、よく魔物(モンスター)討伐の囮となって死ぬ役目を与えられています。その他、命の危険の伴う過酷な労働作業を強制されています。


 そのFランクに、ぼくが……?


 愕然とする中、ぼくの手は不意に弾かれました。


 付き添いに来てくれていたカタリーナです。繋いでいた手を強引に振りほどいたのです。


「なんてこと。(けが)らわしい!」


 名門貴族ウィンターズ家の末娘で、きれいな金髪をツインテールに結んだかわいい女の子です。


 彼女が去年の能力値判定でS判定を出したあとから、母さまの紹介で親しくなりました。今日ぼくがS判定を出したら、正式に婚約することになっていたのですが……。


 カタリーナはぼくを見下ろし、ぶるりと背中を震わせました。ハンカチでごしごしと手を拭います。害虫にでも触ってしまったかのように。


「最下級の賤民ごときが、高貴なるわたくしの手に触れていたなど虫唾が走りますわ!」


 それからハンカチを、汚物とばかりにその場に捨てたのです。


「連れて行け」


 低くそう告げたのは、父さまの声でした。


 すぐ兵士さんたちがぼくを捕まえました。


「そ、そんな、父さま……!」


「お前はもはや我が子ではない。同じ空気を吸うことさえ耐え難い。さっさと放り出せ」


「痛いっ! やだ! 放して! いやだよぉ! 誰か助けて――!」


 乱暴に連れ出されるぼくを助けてくれる人はいませんでした。


 母さまさえ、ただ泣いて見送るだけだったのです。


 この瞬間から、ぼくの最下級民としての日々が始まったのです。

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