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火の国姫と必殺銃を持つ男  作者: スリムン
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出会い

 開けた目に飛び込んできたのは太陽が浮かぶ真っ青な空だった。

 耳に響くのはごうごうと砂を巻き上げる風の音。

 大の字で寝転んでいた俺は上半身を起こした。

 見渡す限りの砂漠。そこに赤茶けた奇岩、小さいもので車ほど、大きいもので体育館ほ

どのものがあちこち見える。


「どこだ、ここ?」


 言いながら右手に握られた拳銃を見る。

 そこで断片的な記憶がよみがえった。

 耳をつんざくライフル銃の音。

 重く響いてくる爆発の音。

 戦争に突入して妹と街の中を転々と逃げ回る日々。

 そして――

  

 背後から地鳴りのような音が轟いてきた。

 座り込んだまま後ろを振り向いた俺の目に入ってきたのは、バカ長い棒――いや、あれ

は槍だ――を上に掲げた集団。

 中世ヨーロッパを舞台にした映画でみる槍兵部隊だった。

 考える前に素早く立ち上がった俺は近くにあった車ほどの岩の陰に身を潜めた。

 見たところ数百人はいる槍兵部隊は俺の隠れた岩のすぐ横で立ち止まると一斉に鬨の声

を上げ始めた。

 息遣いまで聞こえる程近くにいる兵の顔を見る。

 土埃にまみれたヘルメットの下に見える目は充血してかなりやべえ感じ。

 槍兵達が見つめる先からドラを鳴らす音が響き渡る。

 

 足を踏み鳴らす地鳴りと共に土煙の中から盾を無数に構えた部隊が現れる。

 その集団はドラの音が鳴りやむと同時に停止した。

 

 風の吹く音だけが聞こえる。

 上に向いてたすげえ数の槍が一斉に斜めになって盾部隊に矛先を向けた。

 それに反応するみたいに盾を構えた部隊が槍部隊に向かって駆け出す。

 怒号、悲鳴、金属のぶつかる音、何かが砕ける音、そんな気分が悪くなる音に加えて土を蹴る足音が聞こえて背後から聞こえてきた。


「わっ!!」


 剣を下に構えた中世の闘士みたいな四人組がこっちに向かって来た。

 とっさに右手の拳銃を四人組に向けて引き金を引く。


「ちょっ、え!?」


 動かない引き金に焦ってる内に血走った目をした四人組が猛然と突撃してくる。

 もはやどうしようもないのでそのまま目を閉じた。

 どすんと鈍い音。

 そして激しい息遣いが聞こえてくる。

 

「よし、行くぞ」

「ちょっと待て、今行くのはまずい。もうちょい様子見てから行こうぜ」

「ここまで来て怖気づいたのか?! 行くぞ」

「怖気づいてなんかねーよ! よし、行こうぜ!(ちくしょう!!)」


 耳に飛び込む四人組のやりとり。

 目を開けると槍兵部隊へ切り込む四つの背中があった。


 何だ、今のは? まったく聞いたことがない外国語だったけど意味がわかったぞ?

 それに最後の一言は言葉じゃなかった。何と言うか“思考”だった。 


 怒号や悲鳴が飛び交う中、自分の手を見る。

 右手が拳銃を握ったまま放さない。

 左手で引っ張ってみてもダメだった。

 不安と戸惑いのあまりその右手を岩に叩きつけた。

 当たる瞬間拳銃を握った右手がスカっと岩をすり抜ける。

 

「え?……」

(よし! 側面を取った! うぉぉー!!)


 背中に風が当たったような感触と共に怒声が耳ではなく頭に流れ込む。

 直後、視界一杯に砂埃だらけの背中が現れる。

 その背中は剣士で凄い勢いで槍兵に切りかかっていった。 


「どうなってんだ?……いま、俺の体を通り抜けなかったか?」

 

 今度は胸から血を吹く兵が俺の足元に転がってきた。

 仰向けに倒れた兵は最早虫の息で青い目は空ろだった。

 かがみ込んで恐る恐る兵の腕に触れた。


(母さん……母さん)


 急激に熱が冷めてゆく感触が頭に上ってくる。

 

「な、何だあ?! いったい何なんだあ?」


 やばい、俺はパニックになりかけてる。でも当然だ! どうなってんだ俺は?

 

 しゃがみ込んで頭を抱える。


 そうだ落ち着かせよう、この草を数えるんだ。

 いち、にい、さん、しい……。

 パニックになりそうな場合、目に映る適当なものを数える。

 高校の担任が教えてくれた方法だ。


 にじゅういち、にじゅうに、にじゅうさん……。


 渦巻くような脳内の混乱が落ち着いてきた。


 ひゃくごじゅうご、ひゃくごじゅうろく、ひゃくごじゅうしち……。



          ◇


 風を切る音で目が覚めた。


 また眠っちまった?

 

 野蛮な殺し合いの音が風に乗って大きくなったり小さくなったりする。

 

 何だ夢じゃなかったか。


 思いきり気が進まなかったがしょうがないので瞼を開けた。

 その目に飛び込んできたのは鳥の視点、つまり空から戦場を見下ろしていた。

 高さはガッコの3階位の高さだろうか。


「うっ……お、ああ……!」


 パニックになりかけたがこの一言、そう「俺は死んだ、今の俺は魂だ」で落ち着いた。

 呼吸をしてないので溜息もつけない事に気づきながら眼下の様子を眺める。

 ちっこい兵達がちょこまか戦いを繰り広げている。

 とはいえ俺が寝ている間に形勢がついたらしい。

 個数の減った盾兵部隊を槍兵部隊がじりじりと取り囲み、モグラ叩きのように上から槍を叩き込んでいる。

 どういう仕掛けかわからないが、槍の先から炎を吹き出している奴もいる。

 

「ここも、戦争か」

 

 空の上で立ち上がった。


「さて、これからどうしたもんか」


 妹である鈴音すずねの顔が頭に浮かぶ、そして『死にたくないよう、お兄ちゃん』と震える姿も。

 仮に鈴音がこの世界へ来ていたらどうだろう。

 恐らく右往左往して途方に暮れているはずだ。

 

 前へ

 

 そんなイメージを頭に思い浮かべると体がすーっと前に移動を始めた。

 

「ゲームみてえ」

 

 まったくて面白くないが笑った。

 そして進撃を続ける槍兵部隊と反対側へ向きを変えると速度を上げた。

 

 槍兵部隊の本陣らしきものが見えてきた。

 大きな盤木の上には戦場を模したと思われるジオラマが置いてある。

 それを囲んで指を差す体格のいい金髪角刈りのおっさんと、それに頷く参謀っぽい連中。

 真上から降下すると会話が聞こえてきた。


「将軍、黒槍部隊が正面右翼を突破、敵部隊を壊走させています」

「よし、ガーフィールドとトンプソンの騎馬隊を突入させろ」


 角刈りおっさんの命令が兵から兵へ伝言ゲームのように騎馬隊まで伝えられてく。

 それは感心するほど素早かった。


 こりゃ、角刈りおっさん軍の勝ちで決まりだな。


 思いながら空へ浮かび上がると騎馬隊が走り出した方向へ高速飛行を開始した。

 何となく守備一辺倒の盾部隊の行く末が気になったからだ。

 しばし飛んだ先にマンション程の大きな奇岩が連なる地帯が見えてきた。

 ほとんどの奇岩はてっぺんが平らで、そこにサボテンみたいな植物が点々と生えていた。


「ん?」


 気になるものを目にしたので速度を落として、ひとつの奇岩の上に降下を始めた。

 白い馬がサボテンみたいな植物に繋がれている。

 そこからちょっと離れたところに甲冑を着た女の子が両膝を抱えて座っていた。


 何やってんだ? こんなところで。


 ふわりと女の子の後ろに着地して、顔を見ようと体を曲げる。


 鈴音!?


 膝を抱えながら手の甲に顎を載せる女の子の横顔はまさに俺の妹だった。

 

 あれ? 違う……か


 間違いなく鈴音に見えた顔がぜんぜん違う顔になっていた。


 川蝉の背のように鮮やかな青い瞳、そよぐ風でうなじを撫でる金髪ショート、小さく上

唇が出たアヒル口。

 白人の女の子だ。

 それも凄く気が強そうな吊り目。

 天然入ったおっとりタレ目がチャームポイントの鈴音とは全然違うタイプ。

鈴音と年齢が同じくらいに見えるとはいえ、どこをどう見間違ったんだろうか。


「チキショウ!!」


 女の子が突如片足で地面の砂を蹴り飛ばした。


「女だと思ってバカにしやがって! 私のが戦い方を知ってるんだ! 私が指揮を取れば絶対勝てるんだ!!」


 今度は両足を使って何度も地面の砂を蹴り飛ばす。

 それでも腹の虫が収まらないのか、更に両手で地面を叩き始めた。

ジタバタな少女に呆れる主人公。

というかそんなに暴れたら下着が見えるだろ、と思う主人公。

次回「ガール・ミーツ・ソウル」に続く



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