第七話 仲間
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「おあぁぁ……」
俺は誰もいない真っ暗な空の下で転げ回っていた。と言うのも、俺が街を出発したあの日、俺は旅というものを舐めていた。まあ三日もあれば次の街に着くだろう、方角なんてわからなくてもどうにかなるか、と思っていた。
もちろん、実際は全然そんなことなかった。食料ももらっていたはずなのに、大きな木に生えていた赤い果実を腹が減っていたので口にしてしまった。
結果、腹を下し、誰の助けもないまま、ただ腹痛に耐えるしかないのである。
だが一方で、俺には死なない自信があった。俺がナイフで刺されたにも関わらず、ミーシャからもらった魔力の影響で傷がすっかり治ってしまった。ならば木の実にあたった程度で死にはしない! と言う自信だ。
俺はその夜、腹痛で一睡も出来なかったが、夜が明けてしばらくすると腹痛が治り、やっと眠ることができた。これも魔力で強化されたおかげだとありがたく思い、同時に今度から果物を食うときは気をつけようと心に誓った。
次に起きたときは、もう夜になっていた。木の実を食べたせいで、昼夜逆転生活になってしまった。仕方ないので、剣を右手に、ランプを左手に持って俺は進むことにした。
食料にも水にも余裕があり、計画的に動けば今度こそ危険はないはずだ。だが俺は、生命の危険よりももっと恐れていることがあった。
「1人はやっぱり辛いなあ……」
二ヶ月間、ミーシャからはたくさんのものをもらった。大事な人と生活する嬉しさや、教えることの楽しさ、2人で生活する上での娯楽もそうだ。俺は1人でいる方が圧倒的に長かったはずなのに、ミーシャとの思い出の方が俺に大きな影響を与えている。
ミーシャのような存在、要するに仲間が欲しいと思ったのである。
「リグレットに着いたらまず仲間を探そう」
俺は1人で呟いて、退屈な夜を過ごした。
黙々と歩き続けたおかげで、夜が明ける頃には街に着いた。安堵するのも束の間に、俺は街の関所で止められた。
「君は旅のものか?」
強そうな衛兵に囲まれて、俺は動揺を隠しきれない。俺は何かミスをしたのだろうか。ここで反抗してもどうにもならないから、俺は衛兵の質問に素直に答えることにした。
「そうだ」
「……よし、わかった。では君はパスポートを持っていないんだな?」
「身分証なら」
俺は身分証を衛兵に見せた。衛兵がそれをとってよく確認したが、裏向きにして顔を顰めた。
「これはダメだ。リグレットのものではない。こっちに来なさい」
「リグレット。着いたのならまあよかったけど……」
俺がそう言ってる間に、衛兵たちは俺を担ぎ上げて街に入るための大きな門、その横にある小さな小屋の中に入れられた。何組かの金属製の机と椅子、そして窓があるだけの、なんとも殺風景な空間だった。俺の他にも1人、誰かいるようだった。俺はそいつに目を向ける間も無く、机に向かって座らされた。向かい側には、一番大柄で、怪しい仮面で顔の見えない衛兵が座った。そのあとは一対一でいくつか質問された。
「年齢は?」
「数えてないけど……たぶん12」
「どこの街から来た?」
「カルガリアから来た」
「リグレットにはなんの目的で来た?」
「なんとなく一番近いから来た。金を稼いだり、物資を買ったりしたら出ていこうと思う。あと1人だと寂しいから仲間も探そうと思ってる」
そんな感じで、俺は衛兵と会話をした。腹が減ってるのを我慢していたから、最後の方は早く終わらせようと思って適当に答えてしまった。
俺が衛兵と会話をしているとき、近くの椅子に座っているやつはじっとこっちを見てにやにやしていた。見た感じは俺と同い年ぐらいで、ラフな格好をしている。青色の髪と寝癖がとても良く目立つ少年だ。
「質問は以上だ。賊ではないらしいな。パスポートを作ってくるからここで待つように」
質問が終わると、衛兵はさっさと出て行って、室内は俺と青髪の少年だけになった。俺はリュックからパンを取り出して、少年の方を向いた。
「今から朝飯なんだけど、お前食う?」
「お、いいね。俺も朝からここに連れ込まれて何も食べてないんだよ」
誘ったらすぐに少年は寄って来て、さっきまで衛兵が座っていた椅子に座った。
彼は大きなあくびをしながら頭をガシガシと掻くと、俺からパンを受け取った。
「俺の名前はアウラ=シュー。お前は?」
「ドランだ」
「おお、いい名前だなー。俺もそんなかっこいい名前が良かったよ。アウラって女の名前なんだぜ? ひどいよなあ」
青髪の少年、アウラはよく喋るやつだった。俺は他人と話す経験があんまりないから、どうしても無愛想になってしまう。それはミーシャの時にも自覚があった。でも、ミーシャもアウラも、悪い顔一つせずに楽しそうに喋ってくれた。
俺はそのとき、他の人間と話すのがこんなに楽しいことなんだと、心底感動した。
「そうだドラン! 俺今一文無しなんだ。仲間を探してるんなら俺を連れてってくれないか? でないと野垂れ死ぬかもしれないんだ」
「……そうだな。アウラからは悪い印象を受けない。いいぜ、一緒に旅をしよう」
「やった! これで当分大丈夫そうだ」
アウラは嬉しそうにガッツポーズをとった。そのポーズがおかしくて、俺は吹き出してしまった。アウラも一緒に笑った。
とにかくこれで、一緒に旅をする仲間に出会えた。だけど、楽しいだけじゃ旅は続けられない。俺もアウラも、おそらく先のことを考えて行動することができないだろう。そこに危機は感じるが、考えても仕方ない。
俺はこの時も楽観的に考えて、パスポートができるまでの時間、アウラと一緒に談笑していた。