第四話 悪魔
二話三話と夢中になりすぎてギチギチに書いてしまいました…。
※追記です。
半年以上全く進めていなかったこの小説、今後は不定期にリメイクしていき、終わり次第進めていこうと思います。
目を開けたら、見慣れない天井があって、全開になった窓から気持ちのいい風が吹き込んでいた。
カーテンが風に呼応してはためいて、その隙間から雲ひとつなく晴れた綺麗な空が見えた。
俺はかなり大きめなベッドに寝かされており、服も一新、灰色っぽい寝巻きになっていた。
「え…あれ?」
俺は状態を起こし、前髪を掻き分けて考えた。
俺は体のいろんなところを刺されたはずだ。
なのに、俺は生きてる。
瞼の上から目に触ってみた。潰れていない。
両手を見てみる。傷ついていない。
服をめくってみた。なんの傷跡もない。
俺は理解が及ばなくて、頭が真っ白になった。
「おはよう、ドラン」
「……ミーシャ」
ベッドの近くのドアが開いて、ミーシャが入って来た。
二人で繕ったドレスではなくて、貴族の女みたいな服を着ている。
ミーシャは俺の近くまで寄って来て、ベッドの端に座った。
俺はそれをただじっと見てるだけで、言葉が出てこなかった。
「ドラン、不思議に思ってるよね」
「……あ、おう」
「あのね、あれから1日経ったんだ。君の傷は全部治ってるから。だからこれからも健康に生きていけるんだ。君はこれから…」
「ちょっとまて」
俺は右手を前に突き出して、ミーシャの話を遮った。
ミーシャの話から、俺が怪我をしたことは事実だ。
だけど、それがあとかたもなく治っている。
それは確かに喜ばしいことだが、それよりも確認しないといけないことがある。
「もしかして、俺が言ったこと全部覚えてるのか? 覚えてたら、その、俺は…」
「……覚えてるよ」
ミーシャは俺から顔を背けず、ただまっすぐに見据えて微笑んだ。
その笑顔を直視できなくて、俺は途端に恥ずかしくなって下を向いた。
下を向いたまま頭を抱えて、俺はその場にうずくまった。
心臓が高鳴り、俺の体にうるさく響いた。
「ああああぁぁ……」
「ああ! 別に気にしてないよ、全然! ほら、これからも一緒に上手くやってこうよ!」
ミーシャは俺の肩を優しく叩いて、困ったように笑った。
恥ずかしすぎて顔を上げられない。
あの時は、自分は死ぬと思ったから覚悟を決めて言ったのに、生き残ってしまったから全然意味がなくない。
こんなの、生き恥を晒すようなものじゃないか。
だがもう仕方がない。考えてもどうにもならない。
起こってしまったことは受け止めていくしかない。俺はもう割り切ることにした。
一回頭を整理すると、今度は疑問が湧いてくる。
当然と言えば当然の、俺が助かったことに対する疑問だ。
「なあ……俺はどうやって助かったんだ?」
「えーとね、それは、ちょっと信じてもらえないかもしれないけど……」
「言ってくれ。ほら、俺がお前に対して思ってたこと言ったんだから。言わないと平等じゃないぞ」
「それはドランが勝手に言ったんじゃないか……」
ミーシャは呆れたように肩を落とした。
俺はそれでも諦めずにミーシャをじっと見つめた。
彼女は若干躊躇った後、話を切り出した。
「……私、実は悪魔なんだ」
ミーシャは、真面目な顔でいきなりおかしなことを言い出した。
俺は一瞬ミーシャがふざけてるのかと思って、呆れてため息をついた。
「いや、はぐらかすなよ。いいからそう言うの。嘘つくな」
「嘘じゃない! ほんとなんだ!」
俺の言葉に被せるようにして、ミーシャは声を荒げた。
ミーシャの突然の反応に俺は驚き、俺は咄嗟に言葉が出なかった。
こんなミーシャの様子を見るのは初めてだ
ミーシャはそんな俺の反応に気づいて、すぐ悲しそうな顔をした。
「ごめん、いきなり大きい声出しちゃって」
「いや、俺が悪かった。まあ、いろんなことがあるもんな。別に、もう疑わない。それで、お前が悪魔なのと、俺が助かったのと、何が関係してるんだ?」
「えっと、私たち悪魔の体にはね、血液の他に魔力が流れているんだ」
「魔力…聞いたことないな」
「でしょ? 魔力は悪魔しか持ってないからね」
「なるほど?」
俺は今、今まで生きて来た中で一番面白い話を聞いているかもしれない。
悪魔、それに魔力。この世界には、俺の知らないことがまだまだたくさんあるようだ。
「それでね、魔力には肉体を強化する力があるんだ。もともと人間の体には魔力がないから、傷の治りが遅いんだけど、その、私がドランと唇を、あの……」
「ちゅーした時か」
「……うん。その時ね、君の体に私の魔力が入ったんだ。そのまま君の体の回復力が強化されて、傷が治ったってこと」
「……へぇー」
原理はよくわからない。
でも、その不思議な力で俺は助かったんだ。
あの時終わったと思っていた俺の人生、それがまだまだ続くんだ。
「ありがとう、ミーシャ」
俺はミーシャをまっすぐ見つめて、礼を言った。
ミーシャは照れくさそうに笑った。