第十九話 幽霊騎士
植物園の案内を受けた後、俺たち観光客は各々自由行動となった。
多くの観光客は、植物園の近くにある店におみやげを買いに行った。
俺たちを含むほんの少しの観光客は植物園に残り、時間の都合で案内されなかったエリアへ行ったり、庭をのぞいてみたりしていた。
俺たちは園内にある、大庭園が見えるテラスでまったりとしていた。
「あのさー……俺ここを落とすとか言ったけど今のところ悪いところはなくないか? 噂は結局都市伝説みたいなもんだったのか?」
「……いいかドラン。こういうのはな、外装を取り繕って中ではすんごい悪いことしてるんだぜ」
「そうかなぁ?」
「そうに決まってる。とりあえず多少強引でもいいからこの大庭園に入るぞ」
「どうやって?」
「どうやってって……」
結局、俺たちは何も解決策が思いつかず、その日はぼーっとしてすごした。
ー
次の日、俺たちは植物園にはいかず、宿で1日を過ごすことにした。
俺はほぼ一日中剣の腕を磨き、アウラはそれを眺めながら本を読んでいた。
本当に、とても暇で、なんというか無駄な時間が流れていた。
リグレットから来てルプラカミーに残ったのは、俺とアウラだけだ。
つまり、植物園を落とすとなっても、2人で実行するしかない。
なぜだろう、リグレットにいる時はできると思っていた。
事の大きさを理解していなかった。
己の小ささを、理解していなかった。
俺は剣を振って、考えを断ち切る。
これからどうするか。
俺は旅人だ。
別に、リグレットを救うために奮闘する必要なんてない。
一応、名義上では騎士になったんだ。
有意義に使って、のんびり旅をしてもーーー、
「ーーー騎士だ!!」
「うおっ、急にどうした」
俺はいきなり剣を振る手を止めて、大声を出した。
アウラは目を見開き、その手に持っている本を取り落とした。
そう、騎士なんだ。
名義上でも、騎士になったんだ。
ならばこの名前を存分に使い、植物園を落とす意思のあるものを集めればいい。
正直、これを大々的に公表したら、まず命はないだろう。
ならば、どうするか。
そう、暗躍するしかない。
騎士である以上、俺たちには権力がある。
多少時間はかかるかもしれないが、秘密裏に勇士を集うしかない。
「……なるほど、そういうことか」
「そう、まあ騎士の名義を悪用するんだ。別にいいだろ」
「まあー……ほとんど博打になるけどな」
楽観的、側から見ればそう見えるだろう。
だが実はこの策、そこまで愚かな策ではない。
というのも、まずこの北の国の騎士は、結構高い確率で厄介者が多数含まれている。
騎士に登用した内、一年以内に解雇されるものは8割にも上るそうだ。
つまり、このままいくと俺たちもそうなるだろう。
だがここで、便利な法律がある。
そう、一度騎士のなった者から騎士の称号は取られることはないのだ。
騎士団にいることはできない。だが騎士である続けられる。
騎士の面倒な仕事から解放されて、さらにその後の人生を楽に過ごせる。
そんな法律だ。
これは百年ほど変わらない法律らしく、これが残っているせいで騎士は一握りの者しか、優秀になることはできない。
出世はできなくなるが、後の人生を楽に過ごせる。
こうなった場合の騎士を、騎士ではあるが騎士団にはいられない騎士、『幽霊騎士』と呼ぶ。
俺たちもこうなるわけだ。
だがしかし、こうならない可能性もある。
王立植物園ルプラカミーが、本当に人体実験施設だった場合だ。
その場合俺たちは英雄になり、出世することはまず間違い無いだろう。
どちらに転んでも問題はないのだ。
「……悪いこと考えるじゃないか、ドラン」
「ああ、こういうのは得意だからな」
俺は口を歪めて、怪しく微笑んだ。