表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/36

9、イジメ

 翌日貴族学院に行くと、学院は殿下の告白の話で持ちきりだった。


(サリー様、学院中すごい噂になっていますよ)

(どんな噂?)


 誰も来ないチャペルの裏庭で、サリーはエルシーと念話で話をしていた。話の内容は、エルシーが、姿を消して学院中を飛び回って得た情報だ。


(ランドブル殿下は一途な愛を求めて、国王陛下に直訴したとか)

(他には?)

(公の場で愛を語った殿下は、素敵だとか)

(ふーん)

(殿下を信じてる、カローナローレン嬢は素晴らしい女性だとか)

(それから)

(殿下とカローナローレン嬢の恋を引き裂く、サリー様は酷い女だとか)

(えっ?)

(殿下の告白を聞いてもも、身を引かないサリー様は、権力が欲しいだけの悪女とか)

(なにそれ、他は知らないけど、わたくしの話は勝手な妄想じゃない)


 噂とは、本人には関係なく流れていくもので、噂を聞いた人が少しずつ少しずつ手を加えられ、さながら誰かの小説のように作られていく。


 作ってる側は楽しくてしょうがないけど、作られてる側は運が悪ければ地獄に落ちる。ただ、誰もが少しだけ手心を加えるだけだから、誰一人悪気なく誰一人真剣に考えることもない。


(それで、サリー様はどうするの?)

(どうしようか?)

(何も考えてないの?)

(考えても仕方ないのよ、流れが変わらない限りわね)

(流れって………… )

「この人、こんな所にいたわよ」


 突然二人の間に入ってきた女性達四人を、サリーは思い出せなかった。最近まで学院に来ることのなかった彼女は、貴族同士の繋がりが少なく、友達も数える程しかいないので、思い出せなくても仕方がない。


「貴女、こんな所で何しているの? 学院中が貴女の噂で持ちきりですのよ」

「そうそう。図々しい女だって噂になってますの」

「あら、わたくしは人の恋人に手を出す、最低の悪女だって聞いたわ」

「悪女、わたくしもそれ聞きました」

(サリー様、彼女達は貴族派の令嬢です)


 サリーは、エルシーの言葉で貴族派の令嬢だと分かったが、さっぱり思いだせなかった。ただ、エルシーも爵位までは良く覚えてないので、その程度の付き合いだと思う。


「貴女なんかを、殿下は相手にしないわよ、この泥棒猫」

(サリー様、切れないでくださいね)

「殿下とカローナ様の恋を邪魔しないでよ、人でなし!」

(呪ったらダメですよ)

「さっさと、殿下に婚約破棄しますって言いなさいよ」

(寄生魔使ったら、ダメですからね)

「そうよ、カローナ様にも誤って」

(あぁー、四人の命の危機!)

(エルシー、貴女、いったいわたくしのことを、どう思っているのよ!)


 彼女らの言葉よりも、エルシーの言葉に傷つくサリーだが、貴族の令嬢らしく彼女らの言い掛かりには、ひたすら笑顔で聞き流していた。


「貴女、聞いてるの!」


 行き成り、四人の内の一人がサリーの肩を押そうとする。彼女は軽く横に交わしたが、女性は勢い余って前のめりに倒れてしまう。


「酷ーい、サリーローレンス様が、チェリーナ様を押し倒したわ」

「えっ、わたくし何もしてませんけど」

「押し倒したのに、そんな嘘もつくのね! 酷いわ」

「大丈夫? チェリーナ様に謝ってください」

「そうよ、そうよ、誤ってよ」

(小説に出てきそうなセリフですね、サリー様)


 誰もがサリーの話を聞かず、ただ謝れと連呼する。最初からサリーを嵌めるのが目的なので、身勝手な言い分も彼女らに取っては最高の武器だ。


 イジメのルールは、人数の多いほうが勝つ。


「わたくし、見ました。チェリーナ様は勝手に倒れましたわ」


 突然の声に皆が振り返ると、震えながらも勇気を振り絞ったジルがいた。彼女は両手を握りしめると、サリーに近寄り小声ながらもきちんと弁護を始める。


「なに、勝手に話してるのよ! わたくし達が嘘ついたと言うの?」

「だって、チェリーナ様は勝手に倒れたじゃない。わたくし、ちゃんと見ましたわ」

「わたくし達だって、ちゃんと見てるわよ」

「そうよ、そうよ」

「サリー様は何もしてないのに、勝手なことばかり言わないでください」

「貴女こそ、勝手なことを言わないでよ」

「そうよ、チェリーナ様が正しいわ」


 今度はジルがターゲットになるが、彼女は震えながらも必死に抗議する。だが、貴族派の女性は興奮して今にも暴力に発展しそうだった。


(常世之闇に身を置きし人外の者よ、吾の傀儡(くぐつ)となる闇なる者よ、臨兵闘者(りんぴょうとうしゃ)皆陣列在前(かいじんれつざいぜん)、吾の招きに応え吾の願いを叶え、急々如律(きゅうきゅうにょりつ)令奉導誓(りょうほうどうせい)何不成(がんかふじょう)就乎(じゅあ)鎌鼬(かまいたち)薩婆訶(そわか)

 サリーは、心の中で呪文を唱える。


 鎌鼬(かまいたち)、鋭い刃物の様な爪で風に乗り切りかかる。その姿は、誰にも見えない。


「キャッ、なに、この風」

「ウッ! 前が見えないわ」

「いやぁー、スカートが」

「やめてぇー、目に埃が…… 」 


 貴族派の四人を中心に、急に発生したつむじ風が砂埃を舞い上げ、その場にいるサリー以外の誰もが思わず目を瞑る。


「「「「キャァアアーーー」」」」

(サリー様、やりすぎです)

(下着は残してるんだから、優しいほうよ)


 風が収まり、ジルが瞼を持ち上げたら、貴族派の女性四人の服がボロボロになってずり落ちていた。悲鳴を上げた彼女らは、大事な部分を隠しながら、全速力で走って行った。


「なんだったのかしら、今の風?」

「さぁー、わたくしにも…… 」

(やっぱり、やってしまいましたね)


 何事もなかったように、さらりと嘘をつくサリーに、エルシーは呆れた眼差しを向けるが、サリーが気にすることはない。


「きっと天罰が下ったのです。そう思いませんか、ジル?」

「そうですね。きっと、そうです」


 二人は、堪らず笑い声を上げた。


「さっきは、ありがとう御座います」

「いいえ、あの人達酷いですね。わたくし弱いですけど、曲がったことを言う人嫌いなんです」

「でも、ジルは、勇気ありますのね」

「だって、サリー様だったから…… あっ、わたくし用事を思い出しました。失礼いたします」

「………… 」


 何故か意味深な言葉を残して走り去るジルを、宝物を見つけたような笑顔でサリーは見ていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ