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8、面倒くさい

 浮気現場を見てしまったというジルの話を聞いて、サリーが最初に思ったことは「完全に開き直っている」だった。


 誰でも婚約者がいて浮気をするなら隠れてするものだ。それなのに堂々と三百人以上が集る王族の誕生祭で、堂々と浮気相手と抱き合ってキスをする。これが事実なら、ただのバカか開き直っているかのどちらかだ。


(サリー様という婚約者がいるのに、許せないですねバカ王子)

(仕方ない王子様ですね)

(サリー様、婚約破棄は早いほうが宜しいですよ)

(今の段階では、わたくしだけの力では無理です)

(そうですよね…… )


 王族との婚約破棄は簡単にはできない。ましてや教会が関わっている場合、侯爵家といえど流石に無理がある。生前貴族だったエルシーは、政略結婚の重要性を良く知っているので言葉が出てこなかった。


「抱き合って、キスですか?」

「えぇ、わたくしも最初見たときは信じられませんでした」

「教えていただき、ありがとうございます。後ほど、それとなく伺っておきます」


 婚約破棄が簡単ではないと理解してるサリーは、徹底的に無視を決め込むことにする。相手が開き直っているなら、何を話したところで意味を成さないからだ。


「カローナローラン様も、何考えているのかしら」

「悲しいけど、ランドブル殿下が好きなら、しょうがないです」

「それは、ダメです。それではサリー様が、悲しすぎます」

「良いのです、わたくしは…… 」

「サリー様…… 」


 サリーとリズが友情を深めてる最中、王族が姿を現し上位貴族の者から挨拶に伺う。サリーも順番を待ってから、ローレンドール侯爵夫妻と共に王族に挨拶に伺う。


「国王陛下と王妃陛下につきましては、ご機嫌麗しゅう存じます。此度はフランシスク殿下の御誕生祭にお招きいただき誠に有り難く存じます………… 」


 長々と続く父の挨拶を横目にサリーは、壇上にランドブル王子がいないことに胸を撫で下ろしていた。反面、陛下が居られるのに、浮気相手と逢引を重ねているのかと思ったら、婚約者としてほとほと呆れてしまった。


「陛下、お話があります」


 挨拶が終わり、そろそろ次の貴族に場所を譲ろうかとしたとき、ランドブル殿下が姿を現す。


「行き成り現れて、無礼だぞランドブル」

「申し訳御座いません。ですが、この場で申し上げたいことがございます。わたくしランドブルは、ルンベルク伯爵が娘、カローナローラン嬢を妃に迎えたいと存じます」

「何を申している、この場をどう思っておる下がれ!」

「ですが、わたくしは………… 」

「ならん! 下がれ」


 ランドブル殿下の余りにも無礼な進言に、場は戦々恐々となり、ローレンドール侯爵は怒りに震えながら拳を握りしめていた。


 国王陛下の御前であるため侯爵は大人しくしていたが、内心堪忍袋の緒が切れかかり、今にでもランドブル殿下に飛び掛かる寸前だった。それ故、すぐに(きびす)を返し帰路に着いた。


「物事には順序がある、あの物言いは我が公爵家を侮辱してるのに等しい!」

「ローレン、冷静になってください。あのような話、国王陛下がお許しになるはずがありません」


 父親の怒りは最もで、それを抑える母親は苦労をしていた。


「だが、それでは気が収まらん! 娘を(ないがし)ろにされて、黙っておれるか! サリー、私が良いと言うまでランドブル殿下には近づくな!」

「畏まりました。でも、何故ランドブル殿下は、あの場で進言したのでしょう?」


 サリーは、ランドブル殿下の行動が不思議だった。常識的に考えて婚約者のいる公の場で、別の人と結婚したいというのは幾らなんでも有り得ない。


 話をしてるうちに冷静さを取り戻した侯爵も、サリーの疑問の深い意味に気づき、時折考える素振りを交えながら話し始める。


「おそらく、貴族派の連中に何か吹き込まれたのだろう」

「貴族派?」

「あぁ、元々第一王子は王族派が支えていたが、最近の殿下は問題があり過ぎて、王族派の中には第一王子を容認できないと話す者も多い。そういう者から、第三王子に鞍替えするべきだと声が上がっている」

「それって、王族派が分裂するかもしれないってこと?」


 サリーは、自身の婚約者が最悪だったことに気づき、今更ながら何とも言えない気持ちになる。


「その可能性があったからこそ、王妃様はサリーを婚約者にしたいと申し入れたのだ。聖女の肩書をもつサリーと、第一王子が結婚したら、第三王子に付く王族派も、考えを改めてくれると王妃様は思ったわけだ」

「それって、わたくしは人身御供と、同じではないですか」

「政略結婚とは、そういうものだ」


 分かってはいたけど父親にハッキリ言われたら、やはりショックだった。


「お父様、大っ嫌いです」

「そう言わないでおくれよ。ーーー私自身、殿下に婚約者ができたら女遊びなど考えなくなり、サリーも王妃になって、幸せになれると思ったから受け入れたんだ。そうでなければ、断っている」


 慌てて取り繕う父に、うまく丸め込まれた気もするが、元々政略結婚に夢も希望も存在しないと考えていた彼女は、貴族らしい父を許すことにする。


「それで、どうしてわたくしと殿下の婚約に、貴族派が口を出してくるのですか」

「王妃様は、長子としてのランドブル殿下を思いのほか溺愛していて、是が非でも次期国王にしたい考えだ。それは、分かるな」

「はい」


 王妃の長子に対する寵愛は有名で、サリーもその事は知っていた。


「殿下と貴族派のカローナローラン嬢が婚約すれば、王族派のほとんどが第三王子に付くだろう。だが、王妃様に逆らう事のできない王族派は、当然第一王子を支持するはずだ。そうなると分裂した王族派では、数の上で貴族派に勝てない」

「つまり次期国王は貴族派の支持を受けた、カローナローレン嬢と結婚するランドブル殿下がなるわけね」

「そうだ、そして次期王妃にはサリーではなく、貴族派のカローナローレン嬢がなり、貴族派の時代がくると考えているのだ」

「なるほど」

「感心してどうする」

「だって、どうすれば良いのですか?」

「カローナローレン嬢に、サリーが負けなければ済む話だ」


 公の場で第一王子は、カローナローレン嬢と結婚したいと国王陛下に進言した。つまり、第一王子が結婚したいカローナローレン嬢よりも、サリーが愛されなければならない。


 幾ら考えても完全に詰んでいた。


「無理でしょ!」

「無理でも、やるしかないだろ」

「だったら、わたくしの好きにしても宜しいですか?」

「なんだ、怖いなぁ。もしかして体…… いやこの際何でも良い、兎に角カローナローレン嬢を王妃にするな」


 言質を取った、とサリーは心の中で笑った。






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