14、決闘の後
全員を解放した後の問題は、ジルのことだ。サリーは、寄生魔を受け入れさせることなくジルに納得して欲しいと思っていた。
(どうするのサリー、ジルにも寄生魔を使うの?)
(わからない。なるべくなら使いたくないけど…… )
(兎に角、起こしたほうが宜しいのではなくて)
(そうね、起こしましょうか)
サリーがジルに寄生魔を使いたくない理由は、既にジルが彼女にとって大事な友人になっていたからだ。友人には普通でいてほしい、それが全てでジルに恐れられたくないのだ。だが、残念なことに既に恐れられている。
「ジル、起きて。ジル、ほら、起きて」
「うぅーん、誰?」
「サリーだけど、ジル、分かる?」
「あっ、サリー様! わ、わたくし…… 」
ジルは慌ててサリーから離れると、自身を守ろうと身構える。サリーにその気はなくても、やはり簡単に受け入れるには無理がある。
誰だって目の前で人がバサバサと切り捨てられ、辺りに夥しいく散らばる血をみれば、恐怖を感じ不安にもなる。
「ジル。ごめんね、怖い思いをさせて」
「サリー様。あれは決闘ですので、サリー様の行為も理解してます。ただ、どうして無抵抗の方まで傷つけたのですか?」
ジルの疑問も当然だと言える。サリーは、途中から無抵抗の人を遠慮なく切り捨てているからだ。
特にゴードンやチェリーナは、一切抵抗をしなかった。なのに、彼女は二人を躊躇う素振りも見せずに、切り捨てた。ジルには、サリーの行動が理解不能で、納得できる理由があるなら知りたかった。
「あの方達は、わたくし達が聖女だから決闘を仕向けたのです。聖女は、聖魔法以外の魔法は使えません。それに武器も使える人は、ほとんどいません。彼らは、わたくし達が自分達より弱いと知ったうえで、しかも大勢で決闘を仕向けたのです。きっと彼らは、わたくし達以外にも似たような事をしてるのだと思います」
「そ、そう言われたら、そうですね」
兎に角、サリーは勢い良く話す。自身の気持ちをジルに知ってほしいから、誠実に一生懸命に話す。決して、言葉を多く語り誤魔化そうとしてるわけではない。
「そして、わたくし達が負ければ、今後も似たような事は続くと思います。また、わたくし達が勝ったとしても、中途半端に許してしまえば、彼らは負けても大したことないと勘違いをし、更に似たような決闘を繰り返すと思います。そうなったら、数多くの人が犠牲になる可能性があります。そうなってからでは遅いのです。そうなってからでは、遅いと思いませんか?」
「は、はい」
寝起きで座った状態のジルに、言葉だけではなく体もどんどん近づけながら、勢い良く話す。彼女の勢いに押されて、ジルはどんどん後退りしている。
「それにわたくしは、聖女です。聖魔法には絶対の自信がありますから、彼らを切り裂こうとも完全に治療する自信があります。もし、ここで中途半端に彼らを許し、彼らがわたくしと同じ様な強さを持つ相手と出会った場合、必ず殺されているでしょう。なぜなら、わたくしのように聖魔法を使って、助けてくれる人がいるとは思えないからです。そうですよね、ジルさん」
「そ、そうですね…… 」
「ですから、わたくしが彼らの将来を助けたとも言えます。そうでしょ、ジルさん」
「うーん、そうですね。サリー様の言う通りです。」
「そうでしょ!」
「はい。サリー様は、先のことを考えてたんですね。ジルは、サリー様を尊敬します」
彼女が心の中で、ガッツポーズを取ったのは言うまでもない。これでジルに寄生魔を使わなくて済むうえ、友人として付き合っていける確信を持てたからだ。
友達の少ない彼女にとって、ジルは失いたくない存在なのだ。
(良かったですね、サリー様)
(えぇ、これで寄生魔を使わなくて済むわ)
(違いますよ、大事な友だちに嫌われなくて、良かったですね)
(ーーーそうだね、その通りだね。良かった)
エルシーの言う通りで、結局サリーはジルに嫌われたくなかったのだ。寄生魔を使うことが嫌だったのも、これだけべらべら喋るのも、ジルに嫌われたくなかったからだ。本心を知ることができて、ちょっと照れくさかった。
「サリー様、先程の戦いを見ましたが、どうしたら、あんなに速く動けるのですか?」
(そうです、そうです。サリー様、あのスピードは身体強化の魔法でも、出せませんよ)
「あれは、わたくしの先天性の疾患のせいです。元来人間は30%の力しか出せないのですが、わたくしは疾患のせいで100%の力がだせるのです」
「それは、凄いですよ。最強ではないですか」
(本当です。羨ましいです)
「だけど、デメリットもあるのです」
サリーは真剣な顔をすると、自身の身体の秘密を二人に話した。
「デメリットとは?」
(デメリット?)
「なぜ、人間が30%しか力が出せないかと言うと、100%の力を出すと筋肉の力に骨や筋が耐えられないからです」
「それだと、サリー様の身体が壊れているはずです」
(言われてみれば、でも、サリー様の身体が壊れてない)
「だから、わたくしは身体が壊れないように、全力で戦う時には『自動・完全回復』『自動・完全なる癒やし』を使い、身体を守ります。わたくしが聖女だからこそ、使える裏技です」
先天性の疾患にかかるメリットだけを最大限に活かし、デメリットは聖魔法でクリアする。肉体と魔法素質の偶然が生んだ産物と、彼女は得意げに説明する。
「凄い偶然ですね、サリー様」
「えぇ、たまたまですけどね」
(本当に、凄いです。良かったですね、サリー様)
(何言ってるのですか? 嘘に決まってるでしょ!)
(えぇ! どういうことですか?)
(いつものあれを、使ったのです)
(いつものあれを? もしかして、寄生魔ですか)
全てが嘘でなく、先天性の疾患の話だけが嘘である。サリーは30%しか使えない肉体のリミッターを、寄生魔を使うことにより100%使える事に成功したのだ。後は、身体を壊さないように聖魔法を使っているだけだ。
サリーは、エルシーにだけ念話で本当のことを教えた。
(あの寄生魔を、自分にですか…… )
(自分自身に使ってるから、身体に害がないとハッキリ言えるのです)
「サリーさま、もう一つ宜しいのですか?」
「勿論、宜しいですよ」
「サリー様の、魔力量はいったい…… 」
(わたくしも知りたいです)
「魔力量ですか?」
「はい、魔力量は、どれくらいありますか?」
「今まで測ったことは無いですけど、逆に今まで魔力切れになったこともないです」
サリーの一言で、二人とも言葉をなくしてしまった。