表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/36

13、二者択一

 先程まで歓喜に包まれていたはずなのに、気がつけば恐怖に包まれている。チェリーナには、サリーの笑顔が化け物か何かの、恐怖の対象にしか見えなかった。


 仲間は既に滅多切りにされ、今もなを激痛に苦しみ悲鳴を上げ続けている。これら全ての元凶が、笑顔で自身に近付いて来るが、彼女は既に立ち向かう意志などなく、ただ恐怖と後悔で涙が溢れ出していた。


 サリーは、金縛りで動けないチェリーナに近寄り髪の毛を鷲掴みにすると、彼女の顔に自身の顔を近づける。


「今の気持ちは、どう?」

「た、助けて、ください。おねがい、します…… 」


 もはや高圧的な態度のチェリーナの姿はなく、懸命に救いを懇願する悲壮な顔をした女がいるだけだが、サリーは笑ったままチェリーナの両足を妖魔惨で切り落とした。


治療(トゥリメン)』 


 両足を無くしたチェリーナの全体重は、髪の毛を握りしめたサリーの右手にのしかかるが、彼女はチェリーナの治療を終えると、力いっぱい放り投げる。


 体が何回も地面にバウンドしながら転がっていくチェリーナは、死の恐怖を身近に感じながら悲鳴を上げていた。


「ビックリさせて、ごめんねジル。もう少しで終わるから、少しだけ待っていてください」


 今更だと思いながらも極力優しい声でジルに声をかけ、チェリーナのほうに振り返り歩き始める。


「ま、まっ、待って、サリー様。け、決闘だから、戦ってるサリー様に、相手の命を奪う権利はあります。ですけど、元々はわたくしの決闘でした。だから、だから、お願いです。チェリーナ様達を、許してください。どうか、それ以上傷つけないでください」


 日常では有り得ない壮絶な世界を生み出したサリーに、猛烈な恐怖を感じていたジルだが、サリーの言葉を聞いたとき不思議と声が溢れ出す。


 怖いのは変わらない、だけどサリーは誰一人殺していない。サリーは殺したいわけではなく、二度と関わらないように恐怖を刻み込んだだけなんだと。その証拠に、傷つけた人を全て治療している。ジルは、自分に言い聞かせていた。


「良いの?」

「はい」

「分かった」


 一旦立ち止まったサリーは、ジルに近寄ると優しい顔で「ごめんね」と囁く。


「…………其の者ら力、吾に貸し与え給え、急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう睡魔(ヒュプノス)薩婆訶(そわか)


 呪文を唱え、ジルを眠らせる。必死に耐えているが、恐怖で震えてる彼女にこれより先を、見せる事はできなかった。


(やっぱり、やり過ぎましたね)

(しょうがないです。相手は、わたくしを殺す目的で襲ってくるのですから)

(でも、サリー様なら上手くあしらえたのでは?)

(今回は偶々わたくしが来るまでジルに手を出さなかったけど、次はわたくしのいない所でジルに手を出すかもしれない。そうならないためにも、徹底的に痛めつけました)

(ーーーそうだね。それで、この後どうするの?)

(いつもの、あれを使うのよ)

(あれか…… )


 エルシーと念話で話しながらサリーは、這ってでも逃げようとするチェリーナに、ゆっくり近寄っていく。


「や、やめて、来ないで。お願い、殺さないで」

「あの方とは誰ですか?」

「そ、それは…… 」

「言わなくても良いですよ、殺すだけだから」

「ーヒッ! 言います、言います。カローナ様です。ただ、今回の決闘はわたくしの判断です。カローナ様には、少しでも貴女の悪い噂を広めるようにと、言われただけです」


 カローナローレンには目目連が付いているので、チェリーナの話に嘘はない。あの方が誰かなんて、彼女に聞かなくても最初から知っている。ただ、彼女が嘘を吐かないのか試してみただけだ。


「チェリーナ、貴女の両足を治しても良いですよ」

「な、治してくれるのですか?」

「えぇ、その代わり。これを受け入れてください」

「ーヒッ! なんですかそれは…… 」


 サリーの指の間でうねうねと動くいつもの寄生魔を、怯えるチェリーナに近づける。


「これは、寄生魔と言うの。見た目はあれだけど、体には害は無いから安心して受け入れてくださるかしら」


 安心してと言われても、見た目は完全にヒルだから安心はできない。チェリーナは首を左右に何度も振りながら、止めてと懇願する。


「諦めてください。これを受け入れてくれない場合は、貴女を殺します。わたくしもできれば殺したくないので、是非受け入れてください」

「う、受け入れたら、どうなるのですか?」

「簡単です。今後二度とわたくしとジルに手を出さなくなります。それと今日の事を誰にも言えなくなります」

「えっ、そ、それは、どういう意味ですか?」

「言った通りです。今後わたくしとジルに手を出したり、今日の事を誰かに言うと、寄生魔に脳髄を破壊され貴女は死にます。ですが、約束さえ守っていただければ、体には一切の害はありません」


 チェリーナにとっては、人生で一番最悪な二択なのかもしれない。ヒルに似た得体のしれないものを体に取り込むか、それとも殺されるか。自業自得とはいえ、最悪の決断を迫られている彼女に、エルシーは同情の眼差しを向けていた。


「殺してください! そんなの受け入れるくらいなら、いっそ殺してください」

「分かりました。それでは寄生魔を貴女の頭の中に入れますね」

「ち、違う! 殺してと言ってるじゃない」

「だから、寄生魔を頭の中に入れて、寄生魔に殺してもらうのです」

「………… 」


 決して言葉遊びではなく、サリーは真面目に答えている。彼女は最初からチェリーナに答えを選ばせるつもりなどない。


 寄生魔を受け入れることは、決定事項なのだ。


「どうしますか?」

「わ、分かった…… 受け入れます」

「そうですか。受け入れてくださり、嬉しい限りです」


 ニコッと笑うと、サリーは寄生魔をチェリーナの耳に近づける。寄生魔はいつもの通り、スルスルと耳の中から入っていく。


 勿論(もちろん)、チェリーナが悲鳴を上げるのも、いつも通りだ。


「寄生魔を受け入れても、何も問題ないでしょ。ただ、気をつけてくださいね、先の約束を破ると死にますから」

「えぇ、必ず守ります。だから、お願いします。両足を治してください」


 寄生魔を体に受け入れても、何も問題がないことを確認した彼女は、切断された両足を見つめながらサリーに願った。


完全回復パーフェクトリカバリー


「これで、治ったでしょ。全員が治るまで、動かないでください。動いたら、わかりますよね」

「えぇ、勿論。何でも言うとおりにしますから、助けてください」

「理解が早くて、助かります」


 チェリーナから離れたサリーは、同じ説明を全員にすると寄生魔を受け入れさせ、開放した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ