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12、格の違い

 妖魔惨、名刀正宗の一振り、人も魔も関係無く惨殺し、(あやかし)に変怪した異形の者。


「おい、あの女、いつの間にか剣をもってるぞ」

「ほんとだ」

「なんだ、あの剣」

「黙ってろ。ーーーあれは魔導具の一種だ。どうせ、伸縮する魔導具だろう」


 再びドーゴンの一言で静かになり、サリーの日本刀が魔導具の一種で片付けられる。魔導具とは、魔石に魔法を付与した道具のことで、有名な物だとランプの魔導具がある。


(…………其の者ら力、吾に貸し与え給え、急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう音遮界(おんしゃかい)薩婆訶(そわか)


 心で呪文を唱え、サリーは闘技場全体に音を遮断する結界を張る。


 彼女は完全に怒っていた。


 自分の都合で人を不幸にすることを躊躇しないチェリーナたちに、そして中途半端に彼らと接する自分自身に怒っていた。


 ジルが巻き込まれてしまったことは仕方ないとしても、何も対策を取らなかった事が悔やまれ、今後どのような対策が必要なのか考えてみたが、だんだん面倒になってくる。


 どんな対策を取っても全てを防ぐ事はできないうえ、手段を講じるにも手数は少ない。


 なら、どうする。


 結論、徹底的に痛めつけ、二度と逆らうことができないほどの、恐怖を植え付けてやると!


「当然、武器を使っても良いですよね」


 ドーゴンら大勢を前にしても臆することなく、サリーは首をこてっと傾け、そっと薄ら笑いを浮かべる。


「あぁ、貴族の決闘とはそういうものだ。俺達も武器や魔法を使うから、気にするな」

「それなら、さっさと戦いましょうか」

「余裕だな、聖女一人で何かできるわけでもないのに、良い度胸だ。俺の女になるなら、手加減してやっても良いぞ。ギャハハハハハ」

「口での決闘が望みなら別にいいけど、貴族の決闘が望みなら、その臭い口を閉じて、実力を示してください」

「なにを偉そうに、ドーゴンさんに対して失礼だろ、喰らえ!」


 怒りに任せて一人の男が右手に持った剣を、斜め上から振り下ろすように飛び込んでくる。彼女は「フッ」と笑うと、男とのすれ違いざまに目にも止まらぬ速さで、男の右腕を切り落とす。


 少し遅れて男の右腕からは大量の血液が飛び散り、地面には剣を握ったままの右腕が落ちていた。


 男は無慈悲にも落とされた自分の右手を見た後、発狂したかのような悲鳴を上げ、地面を転げ回るが、まだ終わりではない。


 彼女は、転げ回る男の右足も無言で切り落とした。


 聖女であるはずのサリーのまさかの反撃に、誰もが騙されたかのような気分になが、当のサリーは落ち着いた様子で、自らが斬りつけた男に近寄って行く。


治療(トゥリメン)』 


 サリーは、聖魔法を発動して男の右腕と右足を治す。無論、切り落とした部位を繋いだりはしない、出血を止めただけの治療なので痛みは残っている。


 再び薄ら笑いを浮かべたサリーが、妖魔惨を肩に担ぐとチェリーナの顔を見ながら一言声をかける。


「次は、どなたかしら?」


 瞬間、世界の音が全て消えてしまったかのように、誰もがサリーに釘付けになっていく。


「な、な、な何してるのよ! ちゃんとしなさいよ」 


 時が動き出したのは、チェリーナの悲鳴に似た金切り声の後だ。


「お前ら、戦闘態勢を取れ! あれはヤバい! 魔物相手だと思って戦わねば死ぬぞ!」


 慌てた貴族の面々は急いで戦闘態勢を取るが、その間もサリーは妖魔斬を肩に担いだまま微動だにしない。ただ、その顔からは笑顔が消え去り、既に怒りの形相へと変わっていた。


(サリー、やり過ぎですよ。絶対、殺したらダメですよ)

(さぁ、相手次第だけどね)

(サリー…… )


 エルシーは、サリーの事が心配でたまらなかった。サリーがエルシーの復讐のために協力したとき、彼女は自分の手を汚すことを躊躇(ためら)わなかった。


 彼女は友人と言うが、エルシーには同じ聖女候補の顔見知りの一人で、別に特別大事な友人というわけでもなかった。それなのに彼女はエルシーと共に怒り、平気で殺人まで犯しているのだ。


 常識で考えれば、彼女の行為は常軌を逸脱している。


 サリーは、サリーの正義のために動いている。その考え方はエルシーには理解できないが、自身のために怒ってくれた事は何よりも嬉しく、何よりも代えがたい存在になっていた。


 不安定にも思えるサリーの行動にエルシーは、何があっても寄り添い、彼女の味方であろうと強い思いで、黄泉の国に帰らなかった。


「「「ファイアーボール✕5」」」


 三人の貴族令嬢によるファイアーボールの連発は、全てサリーに命中し、爆発する炎に何度も包まれ、彼女の身体は激しく燃やされていく。


 だが、炎が消え去ると何事もなかったかの様に、サリーは妖魔斬を肩に担いだまま立っていた。


「知ってる? わたくしは聖女なのよ『自動・完全回復オート・パーフェクトリカバリ』『自動・完全なる癒やしオート・パーフェクトヒール』この二つの魔法が、わたくしの腕が千切れても、燃え盛る炎が身を焦がしても、恐ろしい速さで治してくれるの」


 驚愕のあまり動けない貴族達を前に、追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。


「貴方達が、幾ら切り裂こうが幾ら焼こうが、わたくしの身体は勝手に治る。だから、わたくしが貴方達をこの妖魔惨で切り裂くまで、上手に逃げてくださいね」


 常識では計り知れない事実に、誰もが更なる恐怖に包まれていく。


「化け物めぇえええ! みんな攻撃しろぉおおおおお!」

「「「ファイアボール✕5」」」

「アァハハハハハハハ!」


 彼女は狂ったように笑いながら、ファイアボールを避けると、一瞬で後衛の貴族令嬢三人の前に現れ、両足を片っ端から切り落としていく。


「簡単には殺さないよ!『治療(トゥリメン)』ーーーアァハハハハハ」


 一言呟くと三人の治療を終え、再び笑いながら髪の毛を振り乱し、残り七人に男に飛び込んでいく。


 サリーの斬撃に慌てて剣で受け止めようとする男の、剣ごと肩から斜めに腕を切り飛ばす。その勢いのまま回転するように二人目、三人目と男たちの両足を太ももから切り落としていく。


「『治療(トゥリメン)』残る四人、頑張ってくださいね。アァアハハハハハハハ」

「やめろぉおお!」

「やめてくれぇえええ!」

「助けてくれぇええ!」


 貴族三人の、救いを求める悲鳴にも似た声を、完全に無視したサリーは、腕や脚を目についた場所から切り刻んでいく。激しく回転を加えたサリーの斬撃に、両手両足を切り落とされた者までがあらわれる。


 だが、それでも彼女が『治療(トゥリメン)』を発動すれば、怪我した部分の皮膚を塞ぐので、大量出血により死ぬことはない。

 

「…………其の者ら力、吾に貸し与え給え、急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう、金縛り、薩婆訶(そわか)


 目の前の惨劇に恐れを感じたチェリーナが逃げようとするが、サリーの金縛りによって身動きが取れなくなる。


「チェリーナ。逃さないよ、貴女は最後だからね」


 逃げられなくなったチェリーナが、恐怖のあまりに失禁するが、サリーはそれさえも笑って睨みつける。

 

「さてと、次は貴方ですね、ゴードンさん」


 声をかけられたゴードンに、もはや戦う意志も気力もなく、只々恐怖で立ち竦んでいたが、サリーは遠慮なく動かないゴードンの両足を切り落とした。


治療(トゥリメン)


 ゴードンの嗚咽混じりの悲鳴が響くなか、サリーは笑顔でチェリーナに近寄っていく。





明日は都合により、20時過ぎの投稿になります。


楽しみにしてる方には申し訳御座いませんが、よろしくお願いします

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