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短編集・散文集

夕風

作者: Berthe

 ぱたぱたと風に翻る音がして、()(つき)はやおら立ち上がるより先に向かいあうパソコンに映り込むレースカーテンのふわりふわりゆれうごくさまに心づいて見惚れるともなく見守る折から、ちゅんちゅんと耳元近くさえずる小鳥のひらひらと羽ばたいて隣家の差しのべる細いしなやかな梢の先にきっと羽休めに立ち寄るだろうとふいと想ってはみるものの、すぐに我慢しきれずついと立って部屋着のフードをぬぎながら窓辺へ寄ると折よく褐色の小さい雀らしきがぱたぱたやって来て、菜月は嬉しさのあまり思わず知らず網戸へぴったり額を押しつけたのに気づかれたのでもあろう、枝へ降り立つそばから梢をゆらして再びばさばさ暮れ時の薄明るい涼しい空へと発って行った。


 どうしたの急に、そう問われた先をちらりと見遣るなりしゅんと目をふせて長いまつげに目元を隠しながら頬をぷくりとさせつつまたしてもそっと額を網戸へつけると程なく肌寒い夕風に頬をあおられ髪を巻き上げられ、菜月は吹き乱される髪の毛を両の手櫛におさえつけながらくるりと背を向けしおしおと呼ばれた方へ歩みながら傍へぺったり座ると共にフードに顔をかくした。


 ぐっと膝をかかえて無言のままにそっと隣をみやると、ためらいなく覗き込む葉祐(ようすけ)の大きい黒い真摯な瞳にまじまじと射られ、ふいに胸をきゅっとつかまれながらもここは負けじと射返すうちすっとその瞳がそれてこちらへ近寄るままに鼻先をぐりぐりフードの上からやられる間もなく静まって、そのまましなだれかかるのを華奢な肩に受けとめながら、俄に訪れた甘い静寂を打ち破るものもなきままにしんと冴え渡る夕暮れのひと時にふわりとしかけた折から、遠く近く呼びかわす小鳥の甲高い声。


 菜月はふわふわめくるめくレースカーテンの向こうの梢に今しも小鳥の降り立つ気がして見つめながら待ちわびたのも束の間、早くも目をつむって甘い重みにこちらからも身を寄せかけるうちふいと力がぬけて途端に耐えきれぬままに倒れかけたのをすかさず抱きとめられ、そっと下ろしゆく葉祐の手のぬくみにほだされながら静かに目をひらいて手を差しのべた。

読んでいただきありがとうございました。

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