表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/67

第8話 身体能力向上へのトレーニングは、淑女教育への苛烈さを招きました…

 朝、私は7時に起きる。

 7時半から家族(そろ)って朝食。

 8時に兄様達と姉様は学園へ向かい、私は部屋に戻る。

 9時から昼まで、私はグラント侯爵夫人の指導で魔法の勉強と実践。

 12時に、お父様お母様と一緒に昼食。

 食休みの(あと)、13時からレイチェルさんとランディさんを(まじ)えて稽古前のトレーニング。

 腕立て伏せと腹筋を百五十回、中庭を百五十周ランニングしてから素振り千五百回。

 その後、14時半から二人と共に剣術と体術の鍛練。

 17時になると二人は帰宅するので、私は稽古前のトレーニングを再度こなす。

 19時に家族(そろ)って夕食。

 20時から入浴時間──だいたい21時──まで、ジュリア姉様から(しゅく)(じょ)教育を受ける。

 入浴後は柔軟体操をして、23時頃に就寝。

 それが私の毎日のスケジュールだ。

 本来なら剣術と体術の鍛練の後は、シャワーを浴びて汗を流しながら休憩なんだけど…

 ジュリア姉様が淑女教育を()じ込んできたからなぁ…

 姉様が言うには、私にとっては学園に入る前の予習であり、自身にとっては学んだ事の復習になるからとの事。

 そんな事を言われちゃ、断るに断れないじゃないか!


「ジェニファー様…? なんだか… 最近… 疲れて… らっしゃい… ません事?」


「だよなぁ… 動きに… いつもの… キレが無いって… 言うか… 剣の鍛練でも… 何回か棒に… 当たってるぜ? ますよ…?」


 新たに私が考案した──って言うか、前世で(おこな)ってた──トレーニングをしながら二人が言う。


「ジュリア姉様から淑女教育を受けてるんですよ… これが意外に疲れるんです…」


 私は木の(えだ)から下げられた5(メートル)(ほど)のロープを、腕の力だけでグイグイ登りながら答える。


「淑女教育か… 面倒臭そう… だな… ですね…!」


「私も… 家庭… 教師から… 受けて… ますけど… 確かに… 疲れ… ますわ!」


 身体(からだ)はともかく、精神面で疲れるんだよなぁ…


「ただ、歩き方の練習は剣術や体術に()かせますね♪ 頭に乗せた本を落とさない様に歩くのは、バランスの訓練に最適です♪」


「はぁ… はぁ… どこまで… 剣術や… 体術に… 結び… 付けますの…?」


 ロープを降りたレイチェルさんは、息を切らせながらも(あき)(がお)


「まったく… なんで… ジェニファー様は… 平気なんだ… ですか…?」


 さっきから、いちいち言い直すランディさん。


「あの~、ランディさん…? 使い慣れてないなら、無理に敬語は使わなくて構いませんよ?」


「えっ? ()いのか? だったら最初から言ってくれよ♪ いちいち言い直すの、面倒だったんだよ♪」


 急にフランクになるランディさん。

 (きょく)(たん)過ぎるだろ…


「だったらさ、名前も呼び捨てで構わない…」


「この、おバカ!」


 べしぃっ!


(いて)ぇっ!」


 レイチェルさんの平手打ちがランディさんの後頭部に(さく)(れつ)する。

 不意打(ふいう)ちで食らったランディさんは、後頭部を押さえてその場に(うずくま)る。

 結構、痛そうだな…

 肩がプルプル震えてるぞ…


「いくらジェニファー様が敬語は不要と(おっしゃ)ったからって、王族である方を(しん)()である貴方(あなた)が呼び捨てて()いワケありませんでしょ!?」


 レイチェルさんは手を腰に、(うずくま)るランディさんを()()ろしながら言う。


「だからって(なぐ)るなよぉ… ったく、(いて)ぇなぁ…」


「言葉(づか)いに(かん)しては、ジェニファー様が(おっしゃ)るのですから私も認めますが、呼び捨てだけは(かん)()できませんからね! 心に()()いて下さいませ!」


「わ… (わか)ったよぉ…」


「あははは…」


 二人のやり取りに、私は苦笑いしながらロープ登りを終えた。


皆様(みなさま)、お茶の用意ができました♪ ご休憩なさって下さいませ♪」


 シンシアさんに休憩を(うなが)されると、二人はパァッと明るい表情になる。

 我先(われさき)にとテーブルに向かって席に着き、お茶の入ったティーカップを持ち…


「う… 腕が…っ」


(ふる)えて… 上手(うま)く持てませんわ…っ」


 持ち上げようとしても腕が震え、ティーカップがソーサーに当たってカチャカチャ音を立てるばかり。


「な… なんでだよ…! 普段は普通に飲めるのに…!」


「わ… 私もですわ…! 何故、こんなに腕が震えるんですの…!?」


 私は腕を曲げ、軽く(ちから)コブを作って指差す。


「今日のトレーニングで(きた)えられるのは、この筋肉なんです。腕を曲げる筋肉ですね。逆に腕立て伏せで鍛えられるのは、腕を伸ばす筋肉です。だから…」


「だからティーカップを持ち上げようとすると、腕が震えるんですのね…?」


「こんなに震えるんじゃ、晩メシが食えないかも…?」


 それは大丈夫だろう。

 今すぐ食べるのは無理かも知れないけど、自宅に帰り着く頃には震えは(おさ)まってる(はず)だ。

 まぁ、明日は筋肉痛に悩まされるだろうけどな。


「ですから今夜はお風呂に入った時か、お風呂上がりにマッサージしておいた方が()いでしょうね♪ それも、できるだけ(にゅう)(ねん)に♪」


「そう… ですわね…」


「確かに、これだけ震えるんだからな… マッサージしとかないと、明日は痛みでのたうち回りそうだな…」


 のたうち回る事は無いと思うけど、痛くて何も持てない可能性は高いかな?


「お父様に頼んで、マッサージ師を手配して貰いますわ…」


「俺も… 自分でやるより良さそうな気がする…」


 私は柔軟体操がマッサージ代わりになってるから要らないかな?


「柔軟体操がマッサージ代わりって…」


「本当に身体(からだ)を動かすのが好きなんですのね…」


 二人は(あき)()てた様に私をジト目で見つめ、シンシアさんは苦笑いしながら私のティーカップにお代わりのお茶を(そそ)ぐのだった。





 ─────────────────





「そんなに私の行動って、(あき)れる様な事なんでしょうか?」


 シンシアさんに柔軟体操を手伝って貰いながら、感じた疑問を口にする。


「ジェニファー様の身体能力は、ジェニファー様が思っているより(とっ)(しゅつ)しているのではありませんか? 素人(しろうと)の意見で(きょう)(しゅく)ですが… 私から見てもジェニファー様は、とてもレイチェル様やランドルフ様と(おな)(どし)とは思えませんから…」


 そ… そうなのか?

 ちょっと(きた)え過ぎたんだろうか?

 いやいや!

 最強の剣士を目指してるんだから、鍛えて鍛え過ぎるなんて事は無い!

 と、思いたい…


「まぁ、それだけの身体能力を持ってるんだから、私の淑女教育なんか余裕でしょう? 学園に入るまで、私の復習を兼ねた予習をタップリさせてあげるからね♪」


 私の柔軟体操を見物していたジュリア姉様は、(なか)(あき)れた様に言う。

 私としては遠慮したいけど…


「それにしても、ジェニファーの身体(からだ)って凄く(じゅう)(なん)なのね… まるで骨が無いみたい…」


 言われてみれば…

 最近は180度開脚も(なん)なくこなしてるし、前世より身体(からだ)(やわら)らかくなってる気がする。


「だからってワケじゃないけど、学園に入ったら教わるより教える立場になりそうね♪ いえ、むしろ教える立場になれる様に、これまで以上に(きび)しく教えてあげるわね♪」


「ね… 姉様!? そこまでされては剣術や体術の稽古に影響が…!」


 私は全力で拒否するが、頑固さには定評のあるジュリア姉様が退()(はず)もなく…

 以後、姉様の私への淑女教育は()(れつ)(きわ)める事になったのだった…

 へるぷみぃいいいいいいっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ