第75話 ジェニファー自身の身体能力への理解
「あらぁ~♡ ジェニファー様、こちら側に来て下さったんですのね? ……と言う事は、アビチェラ王国の方が勢いは強いんですの?」
レイチェルさんは私が姿を現すと同時に駆け寄り、ハグしながらも冷静に分析したであろう戦局を話してくる。
「いやまぁ、確かにストレイフ王国に比べるとアビチェラ王国の方が勢いは強いですけど… それを考慮して、どうして私が勢いの勝っているアビチェラ王国より、勢いの弱いストレイフ王国側に参戦すると思ったんですか?」
私が疑問を呈すると、レイチェルさんは笑いながら答える。
「あら♪ そんな事、普段のジェニファー様の考えを聞いていれば、容易に想像出来ますわ♪ 詳しく話すと長くなりますので、簡単に話しますけど… 勢いの勝ってる側を殲滅させるのに刻を掛けるより、弱い方を一気に殲滅させて、勢いの勝ってる側の士気を下げる方が効果が高いと思われたのではありませんこと? 勿論ですが、その考えには私も賛成ですわ♡」
私の考え、読んでるなぁ…
ま、それ自体に問題は無いし、私はレイチェルさんの軍と共にストレイフ王国を攻略に掛かったのだった。
────────────────
ハッキリ言って、ストレイフ王国の兵士は雑魚だった。
更に言えば、私やレイチェルさん以外の兵士にとっても雑魚でしかなかった……
とにかく統率が取れておらず、闇雲に攻めて来るだけ。
そんな攻め方で、統率の取れたアンドレア帝国の軍を蹴散らした私達の軍とマトモに対峙出来ると思ってたのか?
しかも、この私が前線に立ち、刀(私自身が特注で造らせた特別製)を振るってるんだぞ?
そんな私の前に立って、五体満足でいられると思ってるのか?
私は視界に入ったストレイフ王国兵士を次々に斬り倒し(戦闘不能にするだけで、殺してはいない)、戦闘終了(夕刻)と共に意気揚々と自軍の陣に引き揚げるのだった。
ただ、何故かドン引きした兵士達の視線を感じるのは解せなかったが……
────────────────
「そりゃ、あれだけの敵兵を戦闘不能にしてたら、誰でもジェニファー様の戦闘能力には驚きますわよ……」
レイチェルさんが呆れた様に言うと、後ろに居た兵士達がウンウンと頷く。
ど~ゆ~意味だ、テメー等……
「私は普通に戦ってただけですよ? 特に変わった事はしていない筈ですけど…?」
私が言うと、レイチェルさん(後ろの兵士達を含む)は更に呆れた表情になる。
「まぁ、ジェニファー様は、ご自身の戦い方を客観的に見られませんものね…… ハッキリ言いますけど、私から見て…… いや、ランディやジュリア様から見ても、ジェニファー様の動きは常軌を逸してるとしか言えませんわよ? 簡潔に言えば、早過ぎるし正確過ぎるんですの」
はっ?
早過ぎる?
正確過ぎる?
「幼少の頃より、ジェニファー様とは鍛練を共にしてきましたわよね? 様々な鍛練を伝授して貰いましたし…… けど、私もジュリア様もランディも…… いえ、それ以外の誰もがジェニファー様には付いて行けませんでしたわよね?」
言われてみれば確かに……
私が軽く熟している鍛練も、レイチェルさん達は私の半分も熟なさない内に息が上がっていたっけな……
「そして、今回の…… いえ、以前からの戦闘でもですけれど、先程も申しました様にジェニファー様の戦い方は早過ぎるし正確過ぎるんですの。私は勿論ですが、私より戦闘能力の高い兵達から見ても、ジェニファー様の〝速さ〟と〝正確さ〟は理解不能なレベルだと確信しましたの」
えぇ~っとぉ……
それって…?
「一言で言えば、ジェニファーの戦い方は〝常軌を逸してる〟って事よ」
ジュリア姉様が呆れた様に言うと、レイチェルさん、ランディさんは勿論、周りで話を聞いていた兵達も納得顔でウンウンと頷く。
「ちょっ! ジュリア姉様!? 私は普通に戦っただけですよ!? それが何で〝常軌を逸してる〟なんて言われなきゃならないんですかっ!?」
すると、ジュリア姉様はレイチェルさんとランディさんを引き寄せ(ランディさんに対しては、然り気無く腕を絡ませているが……)、私に問い掛ける。
「なら、私達3人を相手に模擬戦してみる? そうすれば、身体能力に関して鈍いジェニファーにも解ると思うわよ?」
言ってジュリア姉様は訓練用の木剣を構える。
「良いでしょう…… 手加減しませんよ…?」
────────────────
数分後、その場に立っていたのは私だけ。
ジュリア姉様、ランディさん、レイチェルさんの3人は、全身を痣だらけにして地面に倒れていた。
「……で? これで私に何が解るんですか…? 単にジュリア姉様達3人が束になって掛かっても、私1人に太刀打ち出来ないって事が──」
「その事…… 自体が…… 異常だって…… 未だ……解らない?」
地面に仰向けになり、途切れ途切れに言葉を発するジュリア姉様。
ちなみにランディさんとレイチェルさんは、私の一撃を頭部に受けて気絶している。
勿論、ヘルメット越しなので、脳震盪を起こしているだけ。
何の心配もない。
「ど~ゆ~意味です?」
「私、ランディ、レイチェル…… 幼少時代からジェニファーと共に鍛練を繰り返し、ジェニファーを除いて『元ベルムート王国の三英傑』と呼ばれてるのよ? 私達……」
未だ地面に仰向けに寝転がっているが、息が調ったのか普通に話すジュリア姉様。
「その事と今の模擬戦の結果と何の関係が…?」
すると、ジュリア姉様は大きく溜め息を吐き……
「はぁ~~~~~~…… まだ解んない? 英傑と呼ばれてるって事は、少なくとも私達は〝この軍のトップ3〟って事よ? その3人を何の苦も無く軽く倒しただけでも、ジェニファーの身体能力は常軌を逸してるって事よ!? これだけ言えば解るでしょ!?」
ゴメン、解らん。
私が首を傾げると、模擬戦を見ていた連中の中から隊長格と思しき数名が歩み出て私に詰め寄る。
「ジェニファー様! ジュリア様、ランディ隊長、レイチェル隊長の3名は、各々が我々100名を相手にしても軽く勝てる実力を持っております!」
「1人で100人を相手にしても勝てる実力者を、貴女様3は人纏めて相手にした上、僅か数分で戦闘不能にしてしまったんですよ!? その意味が解らないと!?」
「そりゃ、100人が一斉に襲い掛かる事は出来ません。精々5~6人、多くて7~8人で襲い掛かるのが限界でしょう。実際、その状態での訓練を行い、ジュリア様達はギリギリでしたが100人を倒しました。ですが……」
「仮に1人ずつ襲い掛かったとしても、休憩を取る事も出来ずに次々と100人が襲い掛かるのです。そんな過酷極まりない訓練を熟した3人を同時に相手にし、ジェニファー様は軽く去なしてしまった……」
「「「「「これが如何に人知を越えた所業なのか、ジェニファー様には解らないのですか!?」」」」」
ハモるな、頼むから。
てか、私が3人を(軽く)叩きのめしたのが、そんなに驚愕する様な事だったってのか?
その後、意識を取り戻したランディさんとレイチェルさんを加え、延々と説教……
では無いが、話を聞かされた私は、ようやく自分の身体能力が常人では有り得ないレベルにまで高まっている事を理解したのだった。




