第70話 最終決戦開始 → 解せぬ…
私達に依って王都に食料が運び込まれなくなって3ヶ月が経過。
王都の住民の不満は、いよいよ限界に達しようとしていた。
「もう、いつ暴動が起こっても不思議じゃないですね。街のあちこちで不満の声が聞こえますし、警備兵も同じ気持ちなのか咎めようともしません。見て見ぬフリならぬ、聞いて聞かぬフリってトコですよ」
「子供達は皆元気がありません。まぁ、1日1食… それも満足な量が食べられないんだから当然でしょうね…」
ミハエルさんとミーナさんが街の様子を報告すると、話を聞いた者達は然もありなんと頷く。
「食いたくても食えないんじゃ、元気が無いのも当然だよなぁ… でも、スラムの子供や浮浪児なんかは慣れてるだろうから、それなりに元気なんじゃないか?」
「飽くまでも〝普通の状態〟なら、じゃありませんこと? 今の平民は食べる物にも事欠く状態。なら、食べられる物はとことん食べてるでしょうね。そうなると、残飯を漁ろうにも食べ尽くされていて無いかも知れませんわよ?」
ランディの言葉にレイチェルが冷静に返す。
すると、ミハエルとミーナは苦笑しつつ頷く。
「レイチェル様の仰る通りですね。例えば、魚なんかは猫でもそっぽを向く程に食べ尽くしていますよ」
「野菜も同じ様な感じで、根っこまで食べてますからねぇ… スープやシチューなんか、1滴残らず飲んでますよ?」
平民の食生活、思ってた以上に悲惨みたいだな…
「そこまで生活が逼迫してるなら、ちょっと煽ってやれば簡単に暴動に発展しそうですねぇ…♪ 扇動が上手い人を王都に潜入させて、暴動を起こさせましょう♪ 暴動まで行かなくても、王都のあちこちで〝食料寄越せデモ〟が起きる様に仕向ければ、近い内に暴動に発展するでしょうね♪」
「楽しそうに言わないでよ… まぁ、王都を落とせばアンドレア帝国はおしまい。私達の悲願であるベルムート王国の再興は、成したも同然かも知れないけどね♪」
ジュリア姉様が少し安堵した表情で言う。
が…
「そう簡単に再興出来るとは思えませんけどね…」
私はジュリア姉様の言をアッサリ否定する。
すると、ジュリア姉様は怪訝な表情になり、私に問い質す。
「それって、ど~ゆ~意味!? 多くの国が協力してアンドレア帝国を弱体化させて、今まさに私達が王都を落とそうとしてるのよ!? これでベルムート王国が再興出来ないですって? 納得出来る説明しなさいよ!」
その多くの国が協力してってのが問題なんだけどな…
「確かにアンドレア帝国は弱体化しましたし、残ってるのは王都のアドルだけ。王都を陥落させれば私達の勝利と言っても良いでしょう。ですが、それでアンドレア帝国がそのまま私達の手に入ると思いますか?」
ジュリア姉様は宙を仰いで考え、やがて私の考えが解ったのか顔を蒼くしながら聞いてくる。
「ま… まさかと思うけど… 私達に協力した国が、領土の割譲を迫ってくるって事…?」
私は黙って頷く。
「当然と言えば当然でしょうね。そもそも協力を要請したのは私達ですし、それなりの領土を寄越せと言うのは想定内ですよ。でも…」
「でも… 何?」
「明らかに働き以上の領土を寄越せって言われたら突っ撥ねますけどね。そもそもメインで戦ったのは私達なんですから。勿論、私達の中には元・ベルムート王国以外の国出身の兵が居るのも承知してますよ? ですが、それでも私やジュリア姉様、ランディさんやレイチェルさんが中心となって鍛えた軍です。純粋な元・ベルムート王国軍とは言えないでしょうけど、少なくともベルムヘルム軍と言っても良いとは思いますよ? そして、メインで戦った私達ベルムヘルム軍が、領土の大部分を接収するのは当然の権利です。勿論、各国の働きに応じた領土の割譲には応えますが…」
「分を弁えない要請には、頑として応じない… 毅然とした態度で応じるって事ね…?」
私は再度、黙って頷く。
今回の戦…
アンドレア帝国に対する〝私達の反乱〟って形でスタートしたが、実質的には〝各国が連合しての反乱〟だ。
一緒に戦った国が領土を欲するのは当然の権利だろう。
だが、好き放題に切り取られると、私達の領土が小さくなり過ぎる懸念が在る。
そこは各国の首脳との話し合いが必要だろう。
互いが納得出来ないならば、最悪の場合…
「考えたくはありませんけど、今度は協力してくれた国との争いになる可能性も否定出来ないって事ね…?」
またも私は黙って頷く。
そんな私とジュリア姉様のやり取りを、ランディさんやレイチェルさん達は緊張した面持ちで聞いていた。
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更に2ヶ月が経過した頃…
王都の民衆の不満が頂点に達したと見た私達は、東西南北全ての門に攻撃を仕掛けた。
しかし…
「思っていたより抵抗が少ないな… こりゃ、王都を守る兵達も、真剣に守る気が無いんじゃないか…?」
ランディさんは不満気に言うと、ジュリア姉様が呆れた様に答える。
「ランディの言うのも通りかもね? 食料事情が厳しくて、下級貴族や平民は食べるのに苦労していた… 逆に王族や上級貴族は普通… より多少は減らしたでしょうけど、腹八分目は食べてたんでしょ? そんな連中の為に、真剣に戦う兵士がどの程度居るか… そもそも王都を守る兵の殆どは平民出身… それを考えると──」
「怪我しない程度に適当に守り、勝てば『しっかり守りました』と言う。負けても『食料不足で力が入らず、実力を発揮出来ませんでした』と言う… って感じですか?」
ランディさんの回答に、ジュリア姉様は満足気に頷く。
「そんな感じでしょうね。平民や下級貴族の食料事情が悪いのは上級貴族や大臣連中も知ってるワケだから、『食べ物が無くて力が入りませんでした』『力が入らなくて、敵を押し返す事が出来ませんでした』って言われたら責められないわよね。まぁ、国王は現実を見てないみたいだから、兵達を責めるでしょうけどね」
「責める余裕があれば、ですけどね…」
ジュリア姉様の意見に、私は横から口を挟む。
「ジェニファー様、ど~ゆ~意味ですの? あの国王の事ですから、まず間違い無く兵達を責めると思いますわよ?」
私の意見を聞いていたレイチェルさんが疑問を口にする。
それに私は肩を竦めて言う。
「この戦、最終的にはカールを捕えるんですよ? 私達の策略に嵌まったとは言え、王都の民を蔑ろにした事は事実ですしね。私達が勝った暁には、無能な王を断罪する声が帝国中から挙がるでしょうね♪」
「ジェニファー… 楽しそうに言わないでよね… まるで悪魔だわ…」
ジュリア姉様はゲンナリした様子で言い、何故かランディさんやレイチェルさんも納得した様に頷いたのだった。
解せぬ…




