第69話 ジュリア姉様の意外な技術…?
私達の活躍(?)に由り作物の収穫時期になっても王都には食料が運び込まれず、王都に住む人々の食生活は困窮。
各家庭毎に蓄えていた食料で、細々と食い繋いでいた。
が、それでも限界がある。
王都住民は、1日1食食べられれば良い方で、半数以上の家庭では2日に1食しか食べられないのだとか…
貴族達も似た様な状況だが、1日1食しか食べられないのは男爵や子爵といった下級貴族で、伯爵や侯爵といった上級貴族は朝夕の1日2食。
とは言え、満足な量は食べられないらしい。
公爵は満足な量には程遠いものの、一応は1日3食なんだとか。
もっとも、1食の量は平民の1食より僅かに多い程度で、それは他の貴族達も同じらしい。
ところが国王達王族は、満腹とは言えないものの、毎食腹八分目まで食べているんだとか。
王宮の食料庫に備蓄されていた食料ほ焼いた筈だけど、何処から調達してるんだろ…?
「ジェニファー様の焼いた食料庫は、王宮の一番大きな食料庫だった様ですが、他にも小規模ながら食料庫は複数在ったみたいですね」
ミハエルさんが言う。
そうか…
あそこだけが食料庫じゃなかったって事か…
「もっとも、恐らくですが今の調子で消費していたら半年も保たないでしょうし、食料の備蓄が少ない平民なんかは早くて1ヶ月、遅くとも2ヶ月もすれば『食料寄越せデモ』が起きるんじゃないかなぁ?」
ミーナさんが、半ば戯けた様に言う。
「なら、そのデモを煽って暴動に発展させるのが手っ取り早いですかね? で、暴動の混乱に乗じて王宮を襲撃。国王達王族を捕縛して民衆の前に引き摺り出し、衆人環視の中で断罪するってのが─」
「ジェニファー、ちょっと待ちなさい! その断罪って具体的に何をするつもりなワケ? もしかしたらと思うけど…」
ジュリア姉様が訝しげな表情で私に聞くが、私はあっけらかんと言ってのける。
「公開処刑… それも、斬首一択─」
「殺すんかぁああああいっ!!!!」
ジュリア姉様は反対なのか?
「私達は王族だったのに殺されなかったじゃない! なのに、あんたは殺すワケ!? 恩を仇で返すつもりなの!?」
「ジュリア姉様、落ち着いて下さいよ。私達を殺さなかったのは前国王でしょう? 後から聞いた話ですけど、私達王族を殺さない事に反対してたのは現国王だけだったそうですよ?」
言って私はマニエルさんを見る。
するとマニエルさんは大きく頷く。
「まぁ、僕も直接聞いたワケではありませんが、そんな話は王都中で聞かれましたね。現国王は『禍根を断つ為にも、戦争に負けた国の王族と王族の血を引く者共は1人残らず処刑すべきだ!』と、戦争に勝つ度に会議の席で捲し立てていたとか… 勿論、前国王の『その様な事をすれば、負けた国の貴族や民は我等を恨む。そしてそれは、内乱を引き起こす火種になりかねん!』と、一蹴してたとか…」
話を聞いたジュリア姉様は少し考え…
「だったら、現国王を処刑して新たな国を興したとしても、今度は私達の興した国で内乱が起きるんじゃない?」
と、不安そうにしている。
しかし…
「その心配は皆無… とまでは言えませんが、現国王の発言は多くの民の知るところですし、現状多くの民が現国王の圧政に苦しんでいる事を考えると…」
と、マニエルさんが肩を竦めながら言う。
「…なら、私達が現国王を処刑したとして、王都の住民は私達を支持する可能性が高いって事?」
マニエルさんは静かに頷く。
「…一部の住民には、反対する者は居ると思います。まぁ、本当に一部でしょうけど… 例えば現国王に賄賂を渡して優遇して貰ってた商人、あるいは貴族や大臣なんかは確実に… とも言い切れませんか… 自らの保身の為にも、積極的に現国王処刑に反対する者は少ないだろうと思いますよ?」
言われてジュリア姉様は少し考える。
「なるほどね… 確かに表立って現国王処刑に反対すれば、周りから『何故お前は民を苦しめた王の処刑に反対するんだ!?』って突っ込まれそうよね…?」
「ジュリア様… 突っ込まれるって言うか、マニエルさんの話から考えると、むしろ『賄賂を送って美味しい思いをしていたから』とか『現国王が生きていたら、いずれ復権した時に重要なポストに就けるかも知れないとか考えてるから』とか疑われるんじゃないですか?」
ををっ!?
ランディさんにしては、ある意味的確な意見じゃん!
「そ… それは、そうかも… てかランディ… よく、その考えに至れたわね…?」
「ジュリア様から色んな事を教わりましたからね。な、ハロルド、ヴィッツ、ゴードン?」
ランディさんから名前を呼ばれた3人は、苦笑しながら大きく頷く。
「俺、覚えが悪いと蹴られたけどなぁ…」
蹴ったんかい…
「俺はブン殴られたよ…」
殴ったんかい…
「俺は後ろから抱えられて投げられたよ… しこたま後頭部を打ち付けたな…」
それって、ジャーマン・スープレックスとかバック・ドロップぢゃねぇだろうな…?
ジュリア姉様、意外にテクニシャン…
いやいや、そうぢゃねぇだろ。
「ちなみにランディさんは、覚えが悪かった場合は…?」
「俺は、何回かジェニファー様がジュリア様に食らわされてるアレだな…」
ラリアットかい…
ジュリア姉様、容赦無いな…
「覚えが悪いのがいけないのよ! 1回や2回で覚えられないのは仕方無いとして、5回も6回も同じ事を… 酷い時なんか、軽く10回を超えて同じ事を説明するのよ!? 誰だってキレるでしょ!?」
うん、それは確かに仕方無いかも…
いやいや、覚えが悪くて蹴られたり殴られたりブン投げられたりラリアットを食らわせられるのはともかくとして、いちいちそんな事をしてたら離反する連中だって出ないとも限らないだろ!
「それが不思議なんですけど、ジュリア様に蹴られたり殴られたりした連中… 何故か恍惚とした表情なんですのよ? 普通なら、ちょっとは距離を置きそうなモノですのにねぇ…?」
レイチェルさんの意見に私は同意し、大きく頷く。
「ジェニファー… あんた、私に蹴られたり殴られたりした連中が、私にドン引きすると思ってるんでしょ…?」
「当たり前ですよ… 覚えが悪いのは仕方無いとして、蹴るとか殴るとか… 挙げ句にジャーマン・スープレックスだかバック・ドロップでブン投げるとか、ラリアットを食らわせるなんて…」
私が言うと、ジュリア姉様は目をパチクリさせ…
「へぇ~… あの技、そんな名前だったのね? なら、あんたに食らわせる為にも、もっと技量を研かないとね♪」
研かんで良いっ!
パンチだキックだスープレックスだラリアットだのの技術を研かれたら、食らわされる私達の身が保たんわっ!
と、思っていたのも虚しく、ジュリア姉様はパンチ、キック、スープレックス、ラリアットの威力を増す為の鍛練を繰り返し、僅か数日で私に匹敵するパワーを身に付けたのだった。
勿論、対アンドレア帝国の兵士に対する大きなアドバンテージになってはいたのだが…




