第67話 王都アドルの食料庫焼き討ち
立ち直った私は早速壁に手を付き、足を踏ん張る。
「じゃあジェニファー様、失礼するぜ?」
言ってランディさんは私の身体を上り、両肩に足を乗せて立ち上がる。
「それじゃあジェニファー様、ランディ、失礼しますわね?」
次に、レイチェルさんが私とランディさんの身体を上り、ランディさんの両肩に足を乗せて立ち上がる。
マニエルさん、ロバートさん、デビットさんも同様に私達の身体を上り、斯くして〝人間梯子〟が完成。
およそ8mの高さに在る窓に届いたのだった。
ジュリア姉様は火付け道具と油を詰め込んだリュックを背負い、私達の作った〝人間梯子〟を上って倉庫内に侵入。
油を広範囲に撒き散らし、火を付ける。
ぼぅっ!
火は一気に倉庫内に広がり、備蓄された食料を焼いていく。
ジュリア姉様は素早く脱出すると、扉全体と扉の周りに油を撒き、そこにも火を付ける。
「これで、この食料庫の備蓄食料は始末出来ましたね。ところでマニエルさん、王都の食料庫はこの倉庫だけですか?」
「いいえ、この敷地内の全ての倉庫が食料庫です。この倉庫だけで王都の住人を賄えるだけの食料を備蓄するには、さすがに足りませんからね」
だよなぁ…
だとすれば、パッと見た感じで残り8棟ってトコか?
今と同じ様に倉庫内に侵入して火付けしなくちゃいけないって事か…
手間が掛かるな…
それに、その内警備兵の誰かが気付いて駆け付けるだろうし、グズグズしていられないな…
「急いで残った食料庫も焼いてしまいます! 担当は今と同じく私、ランディさん、レイチェルさん、マニエルさん、ロバートさん、デビットさんで人間梯子を作り、ジュリア姉様が火付け役です! 残りのメンバーは、この敷地内に誰も侵入出来ない様に、門の周辺に油をタップリ撒いて待機! 誰かが来て、中に入りそうなら火を付けて下さい!」
指示を出した私は隣の倉庫に走り、土台と成るべく壁に手を付き脚を踏ん張る。
続いてランディさん、レイチェルさん、マニエルさん、ロバートさん、デビットさんが来て、人間梯子を形成していく。
二度目なので全員動きはスムーズ。
ジュリア姉様も素早く上り、中に侵入して火付けを済ませて出てくる。
そして次々と倉庫内の食料を焼き、最後の食料庫に取り掛かろうとした時、門に撒かれた油に火が付けられる。
「どうやら気付かれたみたいですね。残りはこの倉庫だけですから、さっさと済ませて引き揚げましょう」
言って私は最後の食料庫の壁に手を付き、足を踏ん張る。
私の意図を察したランディさんは素早く私の身体を上り、レイチェルさん達も後に続く。
ジュリア姉様は私達の形成する人間梯子を、すっかり慣れた足取りで上って倉庫内に侵入。
最初の食料庫を焼くのに20分近くも掛かっていたのが嘘の様に、僅か数分でジュリア姉様は倉庫から出てきた。
「で、どうやって敷地内から脱出するワケ? 門の周辺には警備兵が大勢集まってるみたいだし、火も付けられてるから門からの脱出は出来ないわよ?」
「とりあえず、警備兵の少ない場所を探ります。で、脱出したら王宮から逃げた時みたいに各自バラバラに逃走。またカルロスの別邸に逃げ込みましょうかね?」
私が言うと、全員が眉を顰める。
「またカルロスの別邸って… 意味あるのか?」
「ランディの言う通りですわよ? もうカルロスは王都を離れてるんですし、罪を着せるつもりでしたら無意味じゃありません事?」
「ですね… それに、カルロスの別邸は解体工事が始まっていた筈ですよ…?」
ランディさん、レイチェルさんが異を唱え、更にマニエルさんが追い討ちを掛ける。
「そうなんですね…? なら、バラバラに逃走した後は各自の判断で王都から脱出、王都に再侵入する前に夜営した場所を集合場所にしましょう」
今度は全員が納得した様子で頷いた。
そして私達は、警備兵の少ない場所を探して壁に沿って歩く。
しかし、周囲に人の気配が一定間隔で感じられ、人数は多くないものの、完全に包囲されている事が判明。
「どうすんだ? 包囲してる人数は多くなさそうだけど、だからと言って少なくもないみたいだぜ? 気配の数からしても、俺達よりは多く感じるよな」
「ですわね… 全員が同時に逃げたとしても、マンツーマンで追い掛けられたら… 誰かは確実に捕らえられるか、私達の集合場所まで追い掛けてくる可能性が高いですわよ?」
ランディさんとレイチェルさんに言われた私は即答する。
「まず私が1人で脱出します。囮として出来るだけ多くを引き連れて逃げますから、皆さんは警備が手薄になった頃合いを見て、逃げ足に自信のある方から順に脱出して下さい」
そして私は壁と近くに在る木を交互に蹴り上がり、壁の上から敷地外に出て駆け出した。
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ジェニファーが囮として逃げ出した後、ランディ達は気配を殺しながら相談する。
「俺達はジェニファー様みたいに壁を乗り越えられねぇからな… 普通に木を登って壁の上から脱出するか…?」
「それしかありませんわね… 私達の誰も、ジェニファー様みたいな身体能力は持ち合わせてませんもの…」
「そんなの当たり前よ。ジェニファーが異常なだけなんだから…」
ランディとレイチェルの会話に、ジュリアが呆れた様に口を挟む。
そして…
「人の気配が殆ど無くなったわね… 大部分がジェニファーを追って行ったみたいだけど、ど~ゆ~事かしらね? 普通なら、追い掛けるのは数人で良い筈だけど…?」
ジュリアは疑問に思ったが、ジェニファーの事だから何かしらの方法で警備兵を引き連れて行ったのだろうと気にするのを止めた。
事実、ジェニファーは出来るだけ多くの警備兵を引き連れる為、数回に渡って食料庫周辺に戻り、警備兵を挑発してから再度逃走を図っていたのだった。
そして、警備兵の大部分が自分を追い掛けてると判断してから、完全に警備兵を引き離さない様にしながら本来の集合場所とは反対側に向かって走っていたのである。
「……………今の感じだと、残ってる警備兵は門の周辺に居る連中だけみたいね。これなら簡単に脱出、ジェニファーの言ってた〝王都に再侵入する前に夜営した場所〟まで逃走出来そうね。皆、準備は良い?」
ジュリアが確認すると、全員がコクリと頷く。
「OK! それじゃ、全員脱出!」
ジュリアが号令し、ほぼ同時に全員が食料庫の壁を越え、思い思いに逃走を開始する。
当然、門周辺で待機していた警備兵には気付かれずに逃走を成功させる。
何人かはジェニファーの追跡を諦めて戻ってきた警備兵の目に留まったが、散々ジェニファーに振り回された後だった為、追い掛けるだけの体力が残っていなかった。
結果的に、警備兵達は食料庫を焼き討ちした犯人を捕らえる事が出来ず、更に食料庫の火災も鎮火する事が出来なかった。
カールは一連の報告を会議で聞き、烈火の如く怒ったのだが…
「こうなっては、どうしようもありません… 王宮の備蓄食料も、王都の備蓄食料も、持って数ヶ月… いえ、今の様に消費していては、1ヶ月も持つかどうか…」
大臣の1人が進言すると、カールは彼をギロリと睨み付ける。
しかし、大臣は構わず続ける。
「少なくとも、今の消費量の半分程度にまで落とす必要があります。秋の収穫まで2ヶ月弱。それまで持たす事が出来れば、近隣の農村や街から食料が──」
「それらは全て、反乱軍に依って王都への搬入が出来なくなっておろうが! その上、王都内に田畑の類いは無い! どうやって食料を確保すると言うのだ!」
カールの指摘に大臣は沈黙する。
だが、食料の確保は喫緊の問題である。
会議の席に集まった大臣、貴族達は必死に考えを巡らせるが、ジェニファー達に因って王都への食料搬入が遮られている為、何も解決しなかったのだった。




