第61話 最終段階… の、一歩手前?
地獄…
いや、むしろ地獄の方がマシかも知れない…
兵士1人1人の恋愛観事情を聞き、男性兵士が思いを寄せている女性兵士を別々の部隊に振り分ける。
言葉で言うのは簡単だが、1人の女性兵士に思いを寄せている男性兵士が1人であるとは限らず、編成作業は混迷を極めた。
最終的に、男性兵士から思いを寄せられている女性兵士ばかりを集めた部隊を編成し、私、ジュリア姉様、レイチェルさん(何故か女性兵士に人気があった)の親衛隊として組織する事にしたのだった。
その結果、全ての女性兵士が親衛隊に振り分けられる事になり、他の部隊は全て男性だけで組織される事になったのだった。
まぁ、男10人に対して女は1人ぐらいの割合だから仕方がない。
男性陣はブーブー言ってたが…
「あんた等ねぇ! 戦場は女性兵士とイチャコラする場じゃ無いんですよ! 浮わついた気持ちで戦ったら、すぐに死にますよ!? 死にたくなかったら、女の事なんか忘れなさい! 敵の戦闘能力を奪う事に集中しなさい! 私達の戦いのコンセプトを思い出しなさい! 敵は私達を殺そうと躍起になってますが、私達は敵を殺さなくても良いって事を忘れちゃいけません! 私達は、敵の戦闘能力を奪えればそれで良いんですからね! 殺す必要が無いだけでも気分的に楽でしょう!? 戦争が終わって生き残ったら、好きなだけ惚れた女性兵士を口説きなさい! 同じ女性兵士に惚れた男性兵士が居たなら、自身の倒した敵兵士の数で競って自身をアピールしなさい! 貴方達の女性兵士への思いは、自身の戦いでの実績がアピールになると思いなさい!」
私が言うと、男性兵士は目の色を変え…
「「「「「おぉおおおおおおおっ!!!!」」」」」
と、大声で叫んだのだった。
「男って単純ですわね…」
「バカなだけよ…」
レイチェルさんがボソッと言うと、ジュリア姉様も呆れた様に言う。
「連中、2人の意見を聞いたら耳が痛ぇだろうな…」
ランディさんは苦笑しているが…
恋愛に興味がないのか?
「ランディはどうなの? 思いを寄せている女性は居ないの?」
何故かジュリア姉様が聞く。
やっぱり意識してないだけで、実はランディさんが気になってるとかかな?
「俺ですか? 少なくとも今は居ませんね。アンドレア帝国に負けると判った日に、ジェニファー様に誓いましたからね。ベルムート王国を再興させる、その為には地獄の底まで付き合うって♪ まぁ、同じ形での再興になるかは判んねぇですけどね♪」
ランディさんはジュリア姉様にニカッと笑い掛ける。
あぁ… 言ってたっけな…
「私も同じ気持ちですわよ? 自分達の国を再興する… 私にとって、これ以上に猛る気持ちはありませんの。女に現を抜かす様な連中なんて、当てに出来るか疑問ですわね?」
レイチェルさんは声を張り上げ、思いを寄せる女性兵士が居る男共に聞こえる様に言う。
さすがに全員には聞こえなかった様だが、その台詞は人伝に伝わり、やがて全男性兵士が知る事となった。
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「このまま言わせておいて良いのかよ…」
「そんなワケ無えだろ、絶対に見返してやるんだよ」
「そうだそうだ! 俺達の力でベルムート王国を再興させて、レイチェル様を見返すんだ!」
「だな! そうすりゃ、あの娘だって振り向いてくれるってモンだぜ!」
「俺だって負けねぇぜ! 誰が誰に惚れてるのか知らねぇけど、大活躍して振り向かせてやるぜ!」
口々に言い、互いに、そして自らを鼓舞する男性兵士達。
そんな連中を、女性兵士達は冷めた目で見ていた。
「そんな事で振り向く女が居ると、本気で思ってるのかしら…?」
「そうよねぇ… そりゃ、戦で活躍したら格好良いとは思うけど、それと惚れるかは別問題よねぇ…?」
「実際問題として、私はランディ様みたいにストイックな方が好みだわ♡ ジェニファー様やレイチェル様からは脳筋って言われてるけど、一途にベルムート王国の再興を考えてるトコが格好良いのよ♡」
「あら、貴女もランディ様を狙ってるの? でも、それって厳しいと思うわよ? 飽くまで噂だし、本人も否定してるんだけど… なんだかジュリア様がランディ様の事を気に掛けてるらしいわよ?」
「あぁ~… それ、聞いた事があるわねぇ… ジュリア様は否定してたけど、どう見ても気にしてるわよねぇ?」
女性兵士達があれこれ言うので、私も口を挟む。
「やっぱり皆さん、ジュリア姉様がランディさんを気に掛けてると思ってるんですね? 実は私も同じ事を思ってるんですよねぇ… ランディさんの指揮能力を補う様に指導したり、私がランディさんを好きなんじゃないかって言ったら、わざとらしく何人も一緒に指導したりしてましたからねぇ… だから、本人は意識してないだけで、本当はランディさんの事を好きなんじゃないかって思ってるんですけどね♪」
私が自分の考えを言うと、わらわらと女性兵士達が私の周りに集まり…
「ですよね? ですよね? 私もそうなんじゃないかって思ってたんです♪」
「元の身分は第一王女と侯爵令息ですけど、今は互いに平民だから問題ありませんよね?」
「ジュリア様の方が4つ歳上ですけど、そのぐらいの歳の差なんて、愛があれば何の障害にもなりませんわ!」
等々…
男性兵士連中の思いは完全に無視され、ジュリア姉様とランディさんが付き合うかどうかの話に終始したのだった。
こんな事で、本当にベルムート王国を再興出来るんだろうか…?
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翌朝、私達の軍はアンドレア帝国王都を包囲していた。
完全と言うワケではないが、少なくともアンドレア帝国は王都から各国と対峙している軍に対し、支援部隊を送り出す事が出来ない状態になっている。
「これで… ほぼ大勢は決したと言っても良いわね… この状態でも、少しは輜重部隊が出てくるかも知れないけど、それを潰せば…」
「だけど、一回潰せばってワケには行かないでしょう? 俺が思うに、カール国王は諦めが悪い… だから、少なくとも輜重部隊を出せなくなるまでは潰し続ける必要があると思いますよ?」
ジュリア姉様が言うと、ランディさんが自身の考えを述べる。
その考えは正しいと言えるだろう。
確かにランディさんの言う通り、カール国王は諦めが悪い。
普通なら状況を把握して情報を整理し、最悪の事態を回避する方針を模索するモンだが…
彼の取る手は強行突破一択。
私達の裏をかくとか全く考えていない。
そんな作戦でも何でもない、ヤケクソとしか言えない策なんかが私達に通用するワケなかろうが。
当然の様に、私達の軍は無作為な策とも言えない無謀な突撃(?)を許す事はなかった。
兵士と思われる連中は、脚を斬り落としたりして戦闘不能に追い込んでいく。
兵士以外の無理矢理かき集められた一般市民と思える連中は、脚を斬り落としたりはしないが戦意喪失する程度に斬り倒す。
そうして私達ジェニファー軍は、ジワジワと帝国王都に対する包囲を狭めていき…
ついには帝国王都を完全に封鎖。
各門の前に牽制部隊を残す事にした。
帝国王都と、各国と戦う帝国軍との間に在る街や村から帝国軍に支援物資が送られない様に睨みを利かせる為、分隊を派遣。
帝国王都の東西南北に在る各門の前に展開するのは、私、ジュリア姉様、ランディさん、レイチェルさんの4分隊。
残り全ての分隊を牽制に回した。
帝国王都内部に残った輜重部隊を編成出来る人数は、ギリギリ10部隊編成出来るかどうかとのミハエルさんやミーナさんからの報告を受けたからだ。
まぁ、2人だけじゃなく、マニエルさんや仲間達も頑張って情報を集めてくれたから、私達4分隊で充分だって判明したんだけどね。
わざわざ牽制の分隊を派遣しなくても、そのまま王都を襲撃、掌握してしまえば良いと思うだろうが、それは私の考えでは悪手。
それだと各国と戦ってる軍が、王都奪還を掲げて徹底抗戦に出ないとも限らない。
そんな考えすら挫き、完膚無きまでに叩きのめした上での勝利を演出しなければ、私の考えるベルムート王国再興は有り得ないのだ!
「やっぱりアンタ、悪魔よ…」
私の呟きを聞いたジュリア姉様がボソッと言い、ランディさんとレイチェルさんも大きく頷くのだった。
ど~ゆ~意味だ、テメー等…




