第60話 私よりジュリア姉様の方が悪魔なのでは?
アンドレア帝国の王都から出てきた輜重部隊との戦いは…
いや、果たして戦いと言っても良いのかどうか…
確かに敵輜重部隊の数は多い。
数えてみると25の部隊が編成されており、一つの部隊は300~500人規模で構成されている。
平均すると400人規模。
全体としては10000人ぐらいか。
対する私達ジェニファー軍は全部で10部隊。
一つの部隊は約500人で構成されている。
全体としては5000人程度。
私は全部隊を集め、25の部隊──1部隊200人──に再編成する。
今まで指揮官を務めていた者は、そのまま指揮官として200人を指揮する。
新たな指揮官として向いている者を15人選出し、作戦を伝える。
普通に考えれば、野戦で倍の兵数の敵と戦うのは無謀でしかない。
こちらは1部隊が200人なのに対し、敵は300~500人。
300人規模の敵部隊と当たる部隊はともかく、500人規模の敵部隊と当たる部隊はキツいだろう。
普通なら…
だが、敵は殆どが素人。
女子供に老人が部隊の大部分を占め、若い男もチラホラ居るが明らかに若過ぎる。
輜重部隊を編成するのに人数が足りず、無理矢理かき集めたって感じだ。
烏合の衆と言っても良いだろう。
そんなのを相手に、私が鍛え上げた部隊が負ける要素は微塵も無い。
更に、敵を殺す事は考えず、腕や脚を斬って動きを封じれば良いと伝えてある。
だからか、誰もが気負う事無く戦えている。
私は誰がどの部隊に当たるかを伝え、戦闘開始を宣言する。
そして、私自身も部隊を率い、敵輜重部隊に向かって突撃したのだった。
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「突撃ぃいいいいいいいっ!!!!」
「「「「「おぉおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」」
私が叫ぶと、部隊全員が雄叫びを挙げて敵輜重部隊へと突っ込んでいく。
そこからは正に蹂躙。
護衛らしいヤツは2人居て、それなりの技量だったが…
私にとっては児戯に等しい。
何よりも動きが遅い。
他の人からすれば充分に脅威を感じる速さなのだろうが、私の目にはスローモーションにしか映らないのだ。
私は2人の剣撃をスルリと躱すと、スパッスパッと踏み込んだ足からアキレス腱部分を抉り飛ばす。
混戦状態の中、護衛らしき2人は前のめりに倒れ伏す。
私は抉ったアキレス腱部分を踏み潰す。
これでもう護衛の2人は治療する事も歩く事も出来ないから、戦闘への参加は不可能。
私は踵を返して戦いに戻る。
戦闘開始から1時間も経たず、私の部隊は敵輜重部隊が運んでいた物資を強奪し、意気揚々と駐屯地へと引き揚げたのだった。
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駐屯地に着くと、殆どの部隊が戻って戦果を自慢し合っていた。
そんな中、ジュリア姉様は指揮官達を集めて何やら話し合っている。
そして、私に気付くと指で来る様に指示する。
何か気になる事でもあるのかな?
「ジュリア姉様、何かありましたか?」
「最初に言っておくわ… これは戦争だし、輜重部隊に参加した時点で兵士と見做されるのも、ある意味では当然の事なんだけどね… で、話ってのは、500人規模の敵輜重部隊を相手にした部隊の何人かが、敵の抵抗に遇って負傷したの… まぁ、これも想定内だし、戦争なんだから当然よね?」
私はコクリと頷く。
「で、これも当然の事なんだろうけど、負傷させられたのは全員が女性兵士でね… これも身体能力的には、ある意味では仕方無いとは思うけど… なにしろ、さっきも言った様に、500人規模の部隊に対して200人で当たったんだからね…」
私は再度コクリと頷く。
「相手は素人同然とは言え必死で抵抗するし、数の差で苦戦する… その上で男性に比べて身体能力の劣る女性兵士… 負傷するのも当然と言うか、仕方無いわよね…?」
また私はコクリと頷く。
それにしても、随分と勿体振った話し方だな…
何が言いたいんだろ…?
「で、ここからが本題なんだけど…」
言ってジュリア姉様は集まった指揮官達に目配せする。
すると数人の指揮官が、やはり数人の兵士を連れてくる。
「この人達は…?」
「負傷した女性兵士に思いを寄せてた連中よ。言っちゃ悪いとは思うけど、片思いしていた連中ね」
言われた兵士達は、顔を真っ赤にして…
「ジュリア様! それは言わないで下さいよ!」
「片思いだろうと何だろうと、好きな女が傷付けられて黙ってられますか!」
「惚れた女が怪我させられたんですよ!? やり返したって良いでしょう!?」
と、ジュリア姉様に食って掛かった。
あぁ~… なるほどなぁ…
「あんた達の気持ちも解るけどね… だからって、なますにする事はないんじゃない? そんな話がアンドレア帝国に伝わったら、私達がどんな目で見られると思ってんの? 好きな女性が怪我させられて怒るのは理解するけど、その事が与える影響を考えなさい! そもそも戦争なんだから、怪我するのは当然! それどころか、殺される事だって当然なんだからね!」
なるほどなぁ…
まぁ、お互いの言い分も理解出来るっちゃ~出来る。
私だって、自分の好きな人が傷付けられたら怒る。
だが、その気持ちを抑え、自身に与えられた任務を全うするのも兵士としての務めである。
それを諭すジュリア姉様の意見は当然の事だ。
けどまぁ、偶然なんだろうけど、片思いしている女性兵士が同じ部隊に配属されていた事が、そもそもの問題なんだろう。
「ジュリア姉様… とりあえず、片思いしている… あるいは互いに好きな相手が居る兵士は、別部隊に配置を換えましょう。さすがに衆人環視の中で誰が誰を好きなのかを聞くのは憚られるので、それは指揮官達との個別面談という形にせざるを得ませんが…」
私の提案に、ジュリア姉様は大きく頷く。
「そうね… 本当なら私とジェニファーが聞くのが一番なんだろうけど、さすがに5000人もの兵士達の恋愛事情を聞くのは時間が掛かり過ぎるわね… て~事だから、私とジェニファーは勿論だけど、各部隊の指揮官達は、自身の部隊の兵士達に誰が誰を好きなのか、あるいは恋愛感情を抱いてるのかの調査を命じます! 聞き間違いや記憶違いは許しませんので、しっかり記録を取る様に! 最終的に、私、ジェニファーを中心に、ランディ、レイチェルとの話し合いを以て、新たな部隊を編成します!」
ジュリア姉様の宣言に、ランディさん、レイチェルさんは目を丸くし…
「えぇっ!? 俺達も!? 何で!?」
「ちょっと、ジュリア様!? いきなり、そんな事を言われましても!?」
と、抗議の声を挙げるが、当のジュリア姉様はどこ吹く風。
「何を言ってるの? 指揮官達の中で、誰よりも人心掌握術に長けているのは私、ジェニファー、ランディ、レイチェルでしょう? なら、その私達が兵士達の恋愛事情を掌握した上で、編成を決めるのが妥当ではなくて?」
と、悪魔の様な笑みを浮かべてニヤリと笑ったのだった。




