第56話 滑り出しは順調。帝国側はバタバタ?
緒戦に勝利した私達は、意気揚々とアンドレア帝国の王都方面に向かって進軍を開始した。
「アンドレア帝国の奴等、大慌てだったな♪ まさか背後から襲われるとは思ってもみなかっただろうからな♪」
「本当ですわね♪ ストレイツ王国の軍をナメてたってのもあるんでしょうけど、私達が背後から現れた時の狼狽振りときたら…♪ 思い出すだけでも笑えますわね♪」
ランディさんもレイチェルさんも、お気楽だなぁ…
私的には不満な勝利なんだけど…
「ジェニファー様、どうかなさいましたの? なんだか浮かない表情に思えますけど…?」
「いや… 何だか手応えが無かったな~って思いまして… ラーマス王国でアンドレア帝国軍を押し返した時にも言いましたけど、もっとゴリッとした戦いをしたかったんですよねぇ…」
「だから何なんだよ、そのゴリッとした戦いってのは…」
レイチェルさんの質問に答えた私を、ランディさんがジト目で見ながら言う。
「アンドレア帝国軍がだらしなさ過ぎなんですよ。ラーマス王国で戦った軍も、ストレイツ王国で戦った軍も、統制がとれていなくて数で圧すだけの一辺倒。もっと抵抗してくれないと、面白くも何ともないんですよ」
「「戦争狂かよ…」ですか…」
冷めた目で私を見る2人。
解せぬ…
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少し進軍した先でアンドレア帝国軍の後詰めと遭遇。
あっさり帝国軍を押し返した私達は、その場に陣を張って休息を取っていた。
しばらくすると、ストレイツ王国方面から十数頭の騎馬と、数十名の歩兵が近付いてくる。
陣から少し離れた位置で馬を降りた高官と思える人物が、深々と頭を下げて私に話し掛ける。
「ジェニファー・ベルムヘルム嬢とお見受けします! この度の御助力、感謝いたします!」
言って再度深々と頭を下げると、後ろに控えている面々も一斉に頭を下げる。
私は一歩前に出ると…
「滅相も御座いません。我等はアンドレア帝国を倒す為、共に手を取る仲間ではありませんか♪ 頭を上げて下さい♪」
と、手を出し握手を求める。
「そう言って頂けると嬉しいです。申し遅れました。私はストレイツ王国軍の総司令を任されております、ロベルト・ハーベイと申します。軍での階級は中将、爵位は侯爵にございます」
言ってハーベイ中将は私の手を握る。
「ジェニファー・ベルムヘルムです。私達は陣で一晩休息を取り、朝には王都アドルに向けて出発します。皆さんは如何なさるんですか?」
私が聞くと、ハーベイ中将は…
「御一緒したいのは山々ですが、ジェニファー様の軍に比べれば… 我々の実力では足手纏いにしかならないでしょう。国境の警備態勢を整えておきましょう」
と、同行を固辞したのだった。
結構良い感じに連係が取れていたし、足手纏いって感じでもなかったけど…
まぁ、国境の警備も大事な仕事だし、本人がそう言うなら任せておくか。
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「どうなっておるのだ! 何故、今になって周辺国が反旗を翻すのだ! さっさと片付けてしまわんか!」
アンドレア帝国王宮の会議室に、カールの怒号が響き渡る。
3日前に数ヶ国が帝国に宣戦布告し、日を追う毎に参戦国が増えていた。
勿論、カール配下の貴族や大臣達は、手をこまねいていたワケではない。
宣戦布告した国に応戦する為、動かなかった国を牽制していた軍を割いて対応していた。
が、静観していた国は、アンドレア帝国軍の自分達に対する数が減ったと見るや次々と参戦を表明。
今や、アンドレア帝国と開戦していない国は無かった。
「陛下、そうは仰いますが、今や我が帝国は全ての周辺国と戦っておるのです。簡単には片付けられませんぞ」
宰相であり、従兄でもあるカーネル・フォン・クラーク公爵が諫める。
更に、防衛大臣を務めるネルソン・フォン・シルヴァ侯爵もが、状況が厳しい事を告げる。
「侵略した元・王国への対応に不満を抱いた民衆も、各国の蜂起に便乗する形で反乱を起こしている様です。我が国は防衛するだけで手一杯。とてもではありませんが、反乱軍を片付けるのは容易ならざる事かと…」
シルヴァ侯爵が告げると、会議室に集まった面々は渋い顔で頷く。
そして、口々にカールの政策に対し、小声で非難し合うのだった。
「やはり、侵略した国に対する政策が厳し過ぎたのでは…?」
「うむ… 先王の懐柔策から一転… と言うか、真逆の政策であったからな…」
「突然の厳し過ぎる方針転換… それが今回の反乱に繋がったと考えるのが自然であるか…」
小声とは言え静まり返った会議室では、カールの耳にはハッキリと聞こえていた。
「確かに余の政策が性急に過ぎたかも知れん! だが、いつまでも我が国に取り込んだ国の王族に対して優遇措置を取り続けるのは、我が国の財源を無駄にするだけであろう! いずれは同様の措置を取らねばならなかった筈だ! それが少し前倒しになっただけではないか! そんな事に不満を呈し、反乱を起こすなど愚の骨頂であろう! 違うか!」
カールの怒号に縮み上がる貴族や大臣達。
仕方無く防衛に関する案を出し始める。
が、全ての反乱軍を押し返す妙案が浮かぶワケでもなく、全員が頭を抱えたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さぁて、そろそろ出発しましょうか。王都方面に展開している帝国軍に攻撃を仕掛けますよ♪」
私が宣言すると、レイチェルさんが大きく頷く。
「そうなると、各国の軍と戦ってる帝国軍は、目の前の敵に集中出来ませんわね。背後を守る味方が攻撃されてるだけでなく、負けでもしたら…」
今度はランディさんが大きく頷く。
「背後から挟み撃ちにされる事を心配しなきゃならないって事か… 確かに集中出来ないよなぁ…」
最後に私が大きく頷き…
「それじゃ、新国家誕生に向けて出発!」
「「「「おぉおおおおおおっ!!!!」」」」
そして私達は、王都方面に向かって進軍を開始したのだった。




