第53話 ブラックな職場(?)は許しませんよ?
ラーマス王国に駐留させる二部隊を残し、私達は隣国のダルマス王国を目指して出発した。
ラーマス国王は、私達への礼として食料支援をしてくれた。
ありがたや、ありがたや…
兄様達や姉様の方は巧くやってるだろうか?
まぁ、何か問題があれば早馬で知らせる様に念を押しておいたから、何の連絡も無いって事は大丈夫って事だろう。
そして、ラーマス王国から5日掛けてダルマス王国に辿り着いた私達を待っていたのは、ダルマス国王からの歓迎の宴だった。
謁見の間には、既に宴席の用意が調えられていた。
「お初に御目に掛かります。私がダルマス王国国王、アーノルド・ダルマスにございます。此度の訪問、国を挙げて歓迎しますぞ♪」
やけに腰が低いな…
こりゃ、ガリア王国やラーマス王国での私達の戦働きを聞いたんだろうな…
で、少しでも良い部隊を駐留させて欲しいってトコかな?
まぁ、どの部隊も似たり寄ったりなんだけどね。
「此方こそ、御目に掛かれて光栄です。早速ですが、ダルマスとアンドレア帝国との状況をお教え願えますか?」
「それは食事でもしながら話しましょう。ささ、どうぞ♪」
言って席を勧めるダルマス国王。
私はニッコリ笑って頷き、席に着く。
て、雛壇の上で、更に国王の隣かい。
まぁ、私がリーダーだから仕方無いか…
各部隊長と、ハンターや冒険者のAランクの資格を持つ者も同席し、貴族や大臣達と交互になる形で席に着く。
ちなみにBランク以下は、大食堂で近衛騎士達と会食である。
そしてダルマス国王が演説を始める。
「皆の者! 長年のアンドレア帝国との小競り合いにも、これで決着が齎されるであろう! ジェニファー嬢率いる軍から、二部隊が駐留してくれる! 今宵の宴は、来るべき勝利への前祝いである! 大いに飲み、食べ、語り合おうぞ!」
身振り手振りを交え、大袈裟に語るダルマス国王。
私は楽観的に過ぎると思いつつも、とりあえず乗っておく。
「諸君! ダルマス国王の仰る通りだ! 帝国との小競り合いも、これで終わりになる! まだ暫くは続くが、私の兄や姉も仕込みに動いている! 準備が調い次第、一斉に帝国へと反撃を開始する! 帝国を滅ぼし、帝国に虐げられた国を復興させる! 今宵の宴は、その前祝い! 英気を養い、共に帝国に立ち向かおう!」
「「「「おぉおおおおおおおっ!!!!」」」」
ダルマス国王と私の檄に盛り上がる一同。
そして、大盛況のまま宴は終了した。
いや、勿論ダルマス王国の現状は聞いたよ?
拍子抜けしたけど…
なにしろ、本当に小競り合いしか無かったんだから。
考えてみれば、ダルマス王国は小国の中の小国。
これと言った特徴も無く、軍事的にも脅威は無い。
アンドレア帝国としては、余計な茶々を入れない様に牽制しておくだけで充分な国。
それでも私の計画的には欠かせない。
ダルマス王国みたいな小国の中の小国ですらアンドレア帝国に対して挙兵したならば、他のアンドレア帝国に不満を抱いている国は黙ってないだろうしな。
そうして翌日、私はダルマス王国に二部隊を駐留させ、隣のシュナイデッド王国に向けて出発したのだった。
────────────────
宿営地を築き、夜営の準備をしていると、伝令を名乗る者が駆け込んできたとの報告を受けた。
「誰からの伝令なんですか?」
私が問うと、取り次ぎの兵は嬉しそうに話す。
「はっ! ジャック様、ジョセフ様、ジュリア様からの伝令と名乗っております! 御三方の現状報告との事です!」
私は伝令の謁見──と言って良いのか判らないが──を許可し、報告を聞く事にした。
報告の内容は、正に僥倖。
兄様達も姉様も、私達と同じ様に訪問した国から歓迎され、アンドレア帝国に対して反旗を翻す言質を取ったとの事。
まだ2~3国ずつと少ないけどな…
私も似た様なモンだし。
「ご苦労様でした。こちらも順調に進んでいると伝えて下さい」
報告を聞いた私が言うと、3人の伝令は…
「「「はっ! では、失礼致します!」」」
敬礼し、その場を後にしようとする。
「待って下さい。そんなに急いで戻る必要はないでしょう? 夕食を取って寝て、疲れを癒してからでも…」
そう言って私は彼等を止めるが…
「いえ。ジュリア様からは、報告を終えたらすぐに引き返す様にと命令されていますので…」
「私もジャック様から同様の命を受けておりますので…」
「私も同じく、ジョセフ様から同様の命を…」
「その命令、破棄する事をジェニファー・ベルムヘルムの名に負いて命じます。今宵は食事を取り、眠り、体力を回復させてから、各々の部隊に戻りなさい。文句を言われたら、私が休めと命令したと伝えなさい。それでも納得しない様なら、私を呼ぶよう言いなさい。兄と姉と言えども無茶な命令を出し、それを当然と考えているなら… 当然ですが、シバき倒さなければいけませんねぇ…」
言って私はバキボキと指の関節を鳴らす。
それを見た3人の伝令は青褪める。
前世で学生時代に死んだ私は未経験だが、話題には上っていたからな。
所謂『ブラック企業』ってヤツだ。
中世ヨーロッパ程度の文明である異世界では普通の事かも知れないが、前世の記憶を持ってる私にブラックな体系は許せない。
結局、3人の伝令は私の意向に逆らえず、しっかりと夕食を取り、充分に睡眠を取り、万全の体調で兄様達や姉様の元へと帰っていった。
そして私達も同様に、万全の態勢でバーテルズ王国へと進軍したのだった。




