第50話 一斉蜂起… までは2~3年掛かりそうです
私はランディさんとレイチェルさんを呼び、2人の軍でアンドレア帝国軍を押し返す事を提案。
敵の数およそ一万三千に対し、2人の軍は合わせて千人。
「マジかよ… たった千人で一万三千を相手にしろってのか?」
「いくらなんでも無謀ですわよ… 勝てるワケありませんわ…?」
まぁ、そう言うだろうとは思ったが…
「大丈夫ですよ♪ お2人が躊躇するなら、私が1人で片付けましょうか?」
私がニンマリ笑って言うと、2人は慌てて私を止める。
「それこそ無茶に決まってんだろ! 何を考えてんだよ!」
「分かりました! そこまで言うなら、ジェニファー様の言う通りにしますから!」
…そんなに慌てなくても良いと思うんだけどな…
2人の実力と、その2人が鍛えた軍なら楽勝だと思ったからなんだけど…
「2人共、冷静に考えて下さいよ? 確かに敵の人数は一万三千人ですけど、その内の何割が実際に戦うと思ってるんですか? 輜重部隊や衛生兵なんかは基本的に戦いませんし、無理矢理かき集められた兵も士気は低いでしょう。なので、実際に武功を上げる為に戦うのは、全体の2割程度ですよ? それに比べて私達の軍は、全員が戦闘員です。更に言えば、通常は全体の3割を失った時点で全滅と定義される事を踏まえれば…」
私か言うと、2人は顔を見合わせる。
「…て~事は、敵の総数一万三千人の3割… 三千人ちょっとを倒せば勝ちって事か?」
「一万三千の3割は三千九百ですわよ? 四千人弱ですわね… でも、実際に武功の為に戦うのが2割程度と言う事を考えると、三千人も倒せば勝ち目が見えますわね…」
ランディさんの計算の甘さを指摘しつつ、冷静に計算するレイチェルさん。
「それだけじゃ、ありませんよ? 今まで戦っていたお互いの一万人は、疲れて戦力としては不十分でしょう。新たな敵の戦力は三千、こちらは千。相手は侮るでしょうが、こちらは数が少ないだけに必死に戦う筈ですから、気持ちの差はハッキリ出るでしょうね♪ 勝機はこちらに有ると言っても過言ではありませんよ♪」
言って私はウインク一つ♡
「よっしゃぁあああああっ! 行くぞ、お前らぁあああああっ! ジェニファー軍ランドルフ隊の恐ろしさ、アンドレア帝国の連中に嫌と言うほど思い知らせてやれぇえええええっ!!!!」
「ランディの軍に遅れてはいけませんわよっ! ジェニファー軍レイチェル隊、出撃ぃいいいいいいっ!!!!」
なんなんだ、そのジェニファー軍ってのは…?
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その後の展開は、私の予想通り圧勝…
とまでは言えないが、こちらの損害は軽微。
多少の怪我人は出たものの死者は0。
対するアンドレア帝国軍は怪我人が続出。
腕や脚を斬られ、戦力としては役に立たなくなっていた。
敵に対する気構えが勝敗を分けたかな?
私は基本的に、敵を殺さなくても戦闘能力さえ奪えば良いと考えている。
敵はこちらを殺そうとしか考えていなかったみたいだけどな。
相手を殺そうとすれば、どうしても力んでしまう。
力んでいては、本来の実力の半分も出ないだろう。
対してこちらは、相手の腕を斬って武器を扱えなくするか、脚を斬って動けなくすれば良いって考えだ。
殺す事を意識しないから必要以上に力まないし、力まないから本来の実力通りか、それに近い実力を出せる。
結局は、その考え方の違いが勝敗を分けたって感じだな。
「ジェニファー様から鍛えられた戦い方、こんなに有効とは思わなかったぜ♪」
「ですわね♪ 敵を殺さないから罪悪感も殆どありませんしね♪」
数時間の戦闘を終え、意気揚々と戻ってきたランディさんとレイチェルさん。
その部下(?)達は、初めての戦闘で1人も欠けずに戻れた事に安堵の表情を浮かべていた。
「お疲れ様でした♪ これだけ戦ったんだから、お腹が空いたでしょう? 食事を用意して貰いましたんで、好きなだけ食べて下さいね♪」
出迎えた私が言うと、全員が我先にと食事に群がるのだった。
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「いやはや… たった千人で一万三千を押し返すとは… ジェニファー嬢の軍の強さも然る事ながら、我が軍の不甲斐なさを痛感いたしました…」
項垂れるガリア王国の国王の横で、防衛大臣が何度も頷きながら言う。
「今後の為に、私の軍から2隊を常駐させましょう。これから私はアンドレア帝国の周辺国を回り、同じ様に各国に2隊ずつ常駐させていきます。そして、時が来たら帝国に対して一斉に蜂起する予定です」
「「「「「なんですと!?」」」」」
私が対帝国戦を宣言すると、ガリア国王を初め、全ての人達が驚愕の声を上げる。
「なんで私の軍の皆さんまで驚いてんですか…? 何の為に私が動いたか、理解せずに来たんじゃないでしょうね?」
「いえ、それは理解してますわよ? ただ、ジェニファー軍だけで攻め込むと思ってましたから…」
「あぁ… 俺もそう思ってた。だから、何でそんな回りくどい事をするのかと思ってさ…」
そ~ゆ~事か…
「私達だけで正面からぶつかったら、間違いなく負けますよ? 私達の軍は三万に届きません。対する帝国の軍は、全部合わせると十五万から二十万だそうです。勝てると思いますか?」
そう言うと、レイチェルさんの表情が曇る。
「私達の5倍以上ですか… 確かに、数で圧されたら…」
「でしょう? だから周辺国と協力して、帝国に戦力を集中させない様に戦う必要があるんですよ」
頷く一同。
私は話を続ける。
「全ての周辺国が一緒に戦ってくれるかは、今の時点では判りません。でも、帝国と小競り合いを続けている国なら、私達と共に戦う事で戦局が有利になれば、協力してくれる可能性が高くなります。また、戦局が開いていない国でも、いつ帝国が攻め込んでくるかと戦々恐々としてるでしょう。ならば、いっそのこと私達と一緒に帝国を倒そうと呼び掛ければ、呼応してくれる可能性もあります」
黙って話を聞く一同。
「まぁ、中には日和見を決め込む国もあるでしょうが… それなりの数の国が攻め込む事で帝国の戦力は分散しますから、1ヶ所に集中できない帝国は不利になるでしょう。そこで日和見している国が参戦する様に仕向ければ…?」
「それこそ一気に帝国を倒せるって寸法か!」
手の平に拳をバシッと打ち付け、ランディさんが叫ぶ。
「…で? 一斉蜂起するのは何ヶ月先を予定してますの?」
笑顔で聞くレイチェルさん。
しかし目は笑っておらず、彼女もやる気満々の様だ。
「アンドレア帝国の周辺を回って、各国の国王と面会しますからねぇ… 今回みたいに帝国軍と戦う事もあるでしょうし…」
「だとすると、早くても2年。各国の説得に時間が掛かれば、3年以上になる可能性も…?」
私は大きく頷く。
「マジかよ… いや、今までの事を考えると、妥当なトコかな…? だけど、それだと蜂起するまでの間、生活はどうするんだ? まさか、各国の王宮の世話になるワケにもいかないだろうし…」
「そこはホラ、皆さんハンターや冒険者としてのライセンスを持ってるんですから♪」
私がニッコリ笑って言うと、レイチェルさんは呆れた様に言う。
「まぁ、そんなトコだと思いましたけど… まさか、そこまで読んで全員にライセンス取得を促したんですの? だとしたら、やっぱりジェニファー様は策謀家ですわね…」
「さて、何の事やら…? とりあえず隊長達で、どの隊をガリア王国に残すか話し合って下さい。各国に2隊ずつです。一斉蜂起まで2~3年掛かる事を考えて、熟練度の低い隊から順に残して経験を積んで貰うのが理想的ですけどね♪」
言って私はウインク一つ。
残す隊の選出を丸投げしたのだった。




