第48話 クーデターを成功させるには…?
アンドレア帝国の王都を脱出して3ヶ月。
ようやくバルバッツァに到着し、私達家族は久し振りに全員が揃う事になる。
ランディさんとレイチェルさんは途中で別れ、それぞれの街へと向かった。
デレックさん達は合宿所へ。
大人数だからな、合宿所じゃなきゃ寝泊まり不可能だろ。
私とジュリア姉様が自宅に戻ると、出迎えてくれたのは何故かお母様だけ。
いや、理由は何となく解るけど…
「お帰りなさい、ジェニファー♪ ジュリアもご苦労様♪ 2人共、無事で良かったわ♪」
「お母様♪」
私はお母様に抱き付くが、ジュリア姉様は周囲を見回し…
「ところで、お父様とお兄様達は?」
うん、その疑問は当然だろうな。
「3人共、仕事に行ってるわ。なんでも3ヶ月ぐらい前に国王陛下が崩御なさって、息子さんが後を継いでから政策が変わったらしいのよ… 今まで私達みたいな元・王族は国費で面倒を見ていたんだけど、元・貴族と同様に国費で面倒は見ない事にしたんですって…」
やっぱりか…
ま、こうなるとは思ってたけど…
「それじゃ、今までみたいにノホホンとは暮らせないって事…?」
ジュリア姉様…
ノホホンって…
まぁ、姉様だけはその通りだったけど…
「そう言えば、兄様達はハンター登録してましたよね? 勿論、ジュリア姉様も。ランクはどうなりました? 確か、ジュリア姉様はDに近いE、ジャック兄様はE、ジョセフ兄様はFでしたね? 私が居ない間に、少しはランクアップしました?」
私の質問に、ジュリア姉様は笑みを浮かべ…
「あぁ、ジャック兄様はCランクに上がれたわ。ジョセフ兄様はDランクだけど、もう少しでCに上がれるわね。で、私はギリギリだけどBランクに上がれたわ」
ほぅ、なかなかやるじゃん♪
私がバルバッツァを離れてる半年の間に、精進してたみたいだな♪
「それなんだけど、ハンターギルドからジェニファーに手紙が届いてるのよ。15歳──成人になった事だし、そろそろAランクの昇格試験を受けないかって…」
Aランクか…
軽く受かる自信はあるし、なんなら一気にSランクに挑戦しても良いかもな。
私はお母様に向き直り…
「明日、朝イチでギルドに行きます! Aランク試験を受け、ついでにSランク… いえ、SSランクだろうと受かってみせますよ! むしろ、前人未到のSSSランクだって、挑戦したって良いんですから!」
高々と宣言する。
「ジェニファー… マジで言ってんの…? いくらなんでもSSSランクなんて… 聞いた話だけど、SSSランクの試験って、1人でドラゴン討伐じゃなかった? いくらジェニファーでも…」
心配そうな姉様に、私はニマッと笑い…
「ドラゴン討伐? 1人で? 簡単過ぎて欠伸が出ますよ♪ そんな事でSSSランクになれるなら、私はすぐにでも12Sランクになれる自信がありますけどねぇ♡」
言いつつ私は腰に佩いた刀を抜き、軽く振り回して鞘に納める。
次の瞬間、椅子の一つがバラバラの木片と化してしまう。
いつの間にか集まっていたシンシアさん達メイド勢は、バラバラになった椅子に目を丸くする。
お母様は驚愕の表情を浮かべているものの、ある程度は予想していたのか取り乱してはいない。
ジュリア姉様は…
「なんて事してんのよっ! こんなにバラバラに切り刻んだら、修理できないじゃないっ! ジェニファー! 椅子を壊した責任を取って、今日の夕食は床に座って食べなさいっ!」
そっちかい…
まぁ、元が日本人なだけに、床に座って食事するのに抵抗は無いんだけどね…
────────────────
翌日、朝食を済ませた私はハンターギルドに向かう。
Aランクの昇格試験を受け、軽く合格した私は、ギルド職員が固まってしまう提案をする。
すなわち、ドラゴンの単独討伐に依るSSS試験への挑戦である。
私にとっては何の問題も無い、単なる通過儀礼に過ぎないのだが…
何故か必死に止めるギルド職員。
ギルドマスターまでが出てきて止める様に説得する事態になっていた。
アホらしい。
私にとって、ドラゴンなんか巨大なだけのトカゲにしか見えないのだ。
私は必死に止めるギルドマスターや職員を振り払い、ドラゴンが住んでいる山へ単独で踏み入り…
その日の夕刻には10を超えるドラゴンの首を引き摺って凱旋。
名実共に、12Sランク…
いや、史上初のPランクとして正式に認定されたのだった。
さ~て…
後は、どうやってアンドレア帝国に対してクーデターを起こすかだな♪
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お父様に聞いた話では、アンドレア帝国に侵略された国の王族・貴族の面々は、今までの優遇措置が全て無くなったそうだ。
こりゃ、不満が溜まってるだろうな…
特に王族は、仕事を探す事から始めなきゃいけないし…
お父様もだけど…
幸い、お父様は仕事が見付かって、兄様達と一緒に働いてるから不満は少ないみたいだけど。
むしろ、その事を知った元・国民が怒り心頭らしい。
それは当然の事だろう。
善政さえ敷いてれば、だけどな…
その辺りの事も含めて、ちょっと調べてみるか…
そして私は私はお父様の協力を得て、元・各国の元・王族や元・貴族に手紙を書く事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ジェニファー! あんたに手紙が来てるわよ!」
ジュリア姉様に呼ばれてリビングに行くと、山の様に積み上げられた手紙があった。
「あんた、いったい何の手紙を出したの? 相手は嘗て帝国と敵対していた国の元・王族や元・貴族でしょ? こんなに返事が来るなんて、今のご時世じゃ考えられないわよ?」
今のご時世…
どの地域でも、元・王族や元・貴族は困窮している。
それは元ベルムート王国の元・王族や元・貴族以外、全てだ。
元ベルムート王国の国民は、私達を含めて10歳以上の者は何らかの仕事を持っているから、そんなに深刻じゃないけど。
良かったよ、それぞれの得意分野でギルドに登録させておいて。
他の元・国ではやってない事だからな。
働いてるのは親だけだから、困窮するのも無理はない。
そんな中、安くない配達料金を支払ってでも私に返事を寄越してくれたと言う事は…
「クーデターに賛同してくれる元・王族や元・貴族が、これだけ居るって事ですね♪ 当然、元・国民もでしょうね。後は時期を決めるだけです。まぁ、すぐってワケにはいきませんけどね」
「なんで? これだけの元・王族や元・貴族が賛同してくれてるんでしょ? 当然、元・国民も… 同時多発的に蜂起すれば、さっさと片付くんじゃないの?」
「今はまだ時期尚早ですよ。私達みたいな元ベルムート国民はギルドに登録したりして、戦う準備はしてきました。けど、他の元・国の国民は違いますよね?」
「あっ………」
気付いたかな?
ハッキリ言って、私達以外は烏合の衆だって事に…
実力的にはデレックさん達よりも低いと言わざるを得ない。
正直、足手まといにしかならない。
これは私のミスでもある。
こんなに早くクーデターを起こせる状況になるとは思ってもいなかった。
最悪の状況ばかりを考えていた所為で、最良の状況になるとは微塵も思っていなかったのだ。
「今からでも早急に鍛えなきゃダメですね… それでも早くて1年、遅ければ10年は掛かるかも知れません…」
「そんなに…? ううん、ジェニファーが敷いてきた布石を考えたら、そんなモンかもね…」
私は覚悟を決め、元・各国を巡って鍛えまくる事を決意したのだった。




