第46話 悪魔呼ばわりは止めて下さいっ!
「バルバッツァに居る時に聞いた情報だと、なかなか進展してないって感じだったんだけど… 結果的には巧くいったみたいね?」
「急いては事を仕損じるって言いますからね♪ カルロスやカールの様子を見つつ、慌てずじっくり追い込みましたよ♪」
私が言うと、ジュリア姉様は首を傾げる。
「急いては…? そんな諺、聞いた事がないけど… まぁ、あんたの事だから、何かの本で読んだのかも知れないけどね」
この世界に無い諺だったか…
「私も聞いた事はありませんわね…?」
「俺もだよ… ジェニファー様、本当に色んな事を知ってるよなぁ…?」
レイチェルさんとランディさんも、互いに顔を見合せながら頷き合う。
「…まぁ、カルロスが王位継承権を放棄、カレンもカルロスと一緒に王都を離れる。自動的にカールが王位を継承する… 問題は、カールがかつて侵略した国の元王族や元貴族に対しての扱いよね? クーデターを起こされる程、厳しい政策を執るかどうかだけど…」
確かに…
ミハエルさんからの報告では、カルロスよりカールの方が元王族や元貴族に対しての扱いは厳しい。
カルロスは元王族も元貴族と同じ様に職業を斡旋する等などして、元王族だからと特別扱いは止めるべきとの考え。
それに対し、カールは元王族も平民として扱い、元貴族にも職業の斡旋を止めるべきとの考え。
侵略された側の平民も、自分の国の元国王が平民に落とされた上に職業の斡旋すらして貰えないとなれば怒るだろう。
元国王が圧政を敷いていたのなら話は別だが、そうでは無いのだから。
なにせ、どの侵略された国よりもアンドレア帝国の税の方が高いし、侵略された国の国民は帝国の国民から虐げられてきたんだから。
「ですわね… 私も新たな学園に編入した時、帝国民の生徒から喧嘩を吹っ掛けられましたわ… それも毎日…」
「俺もだよ… ジェニファー様に鍛えられてたから、あっさり返り討ちにしてやれたけどな… それでも1ヶ月ぐらいは喧嘩ばっかりだったぜ…」
私は半年ぐらい掛かったかな…?
完全に学園の頂点に立ったと言えるのは、ランディさんとレイチェルさんが他の元ベルムート王国の皆と共に、それぞれの学園の生徒を率いて来てくれた時だろう。
…と思う…
「私は見た目で侮られてましたからねぇ… 散々〝チビ〟とか〝チビガキ〟って言われましたし…」
「それは仕方無いと思うわよ? 事実、ジェニファーって同年代の誰よりも小さいし…」
「だよなぁ… 俺より25cmは背が低いんじゃないか?」
「そうですわね… 私と比べても、15cmぐらい低いですものね…」
放っとけ!
好きで小さいんじゃないわいっ!
何故か知らんが、150cmから全く伸びないんだよ!
「小さいのも悪くはありませんよ? 身体が小さい分、小回りが利くから素早く動ける利点もありますよ?」
自分で言ってて虚しくなるのは気の所為に決まってる。
決まってるったら決まってる!
…誰か、気の所為だって言って下さい…
「…まぁ、そんな考えもありますわね…?」
「あぁ、そんな考えもあるだろうな… 多分…」
「そう言うしかないわよねぇ… 身体が小さいのは事実だし…」
レイチェルさん、ランディさんが一応は肯定してくれてる(よね?)中、ジュリア姉様だけは微妙に痛いトコを突いてくる。
相変わらず辛辣なんだよなぁ…
少しはオブラートに包んでくれよ…
「まぁ良いです。それより今後の方針について話し合いましょう。まず…」
言って私は話し始める。
・お父様から各国の元王族に手紙を書いて貰う
・元王族には元臣下への手紙を書いて貰う
・手紙の内容は、アンドレア帝国の新国王が、かつて侵略した国家の元王族や元貴族に対して扱いが悪くなる政策を取った場合のクーデターへの誘い
「あぁ、それなんだけどね…? 私がバルバッツァを出る前に、お父様に頼んでおいたわ」
へっ…?
「進捗は良くないみたいだけど、ジェニファーならやり遂げると思ってね… だから今頃、各国の元王族には手紙が届いてるかもね? 近い所だと、もう元臣下にも連絡は行き渡ってるかも知れないわね」
そこまで予想してたんかいっ!
てかジュリア姉様、私の事を信用してくれてたんだな…
ちょっと感動したぞ。
わたしは立ち上がると懐から皮袋を取り出し、デレックさんに手渡す。
「デレックさん! この中の金貨で馬を人数分、購入してきて下さい! 今すぐバルバッツァに向けて出発しますよ! アンドレア帝国が何も知らない内に、クーデターの準備を調えないと!」
「えっと… ジェニファー…?」
ジュリア姉様が何か言おうとするが無視!
「グズグズしないっ! さっさと行くっ! 時間は待ってくれないんですからね! ジュリア姉様、ランディさん、レイチェルさん! ボ~ッとしてないで、旅支度を調えて下さい! 新国王が新たな政策を発表し、その政策が私達元王族や元貴族が不満に思い、かつての国民も同じ思いを抱くなら… アンドレア帝国が何も知らない内に行動を開始するのが最善なんですから!」
一気に捲し立てる私に、ジュリア姉様すら何も言えずに出発準備を始める。
ランディさんとレイチェルさんも慌てて準備を始め、デレックさんは部下(?)を引き連れて馬を買いに宿を出ていく。
私達の出発準備が終わる頃、デレックさん達が戻ってきた。
が、その表情は曇っている。
「あの~、もしかして…?」
デレックさんはコクリと頷き…
「さすがに宿場町じゃ、数頭しか売ってやせんでしたぜ… 馬具はそこそこ売ってやすがね…」
「じゃ、大きな街まで行って買うしかないって事か… ラルースから一番近い街って~と…」
「確か… もう一つ宿場町を越えた先の街、ステファノですわね… なので、馬を揃えられるとしても、2日は先になりますわね…」
私と同様、ランディさんもレイチェルさんも少々気落ちした様子。
まぁ、慌てる事はないとは思うけど、やっぱり早く帰って態勢を調えたいよなぁ…
慌てる何とかは儲けが少ない…?
急がば回れ…?
損して得取れ…?
どれも違うかな…?
まぁ良いか…
「馬が手に入らないんじゃ、仕方無いですね… 今日はゆっくり身体を休めましょう。ジュリア姉様達の馬車でステファノまで行って馬を購入しましょうか」
「えっ…? 私達、ラルースまで徒歩で来たんだけど…?」
「「「はぁっ!?」」」
ジュリア姉様の意外な一言に、私、ランディさん、レイチェルさんの驚く声がハモる。
「どどどどど、ど~ゆ~事ですか!? バルバッツァからラルースまで徒歩って、何ヶ月掛かったんですか!?」
私はジュリア姉様が思わず椅子からズリ落ちそうになる勢いで迫る。
「さ… 3ヶ月だったかな…? デレック達を鍛える目的でだけど…? それに、ジェニファーなら同じ事をしたと思うわよ…?」
そ… それを言われると…
確かに私なら同じ事をしたかも知んないけど…
「徒歩だったお陰で、良い感じで鍛えられたわよ? ラルースに来るまでの間に、何度も盗賊に襲われたしね♪」
「…本当にヤバい時はジュリアの姐さんが助けてくれやしたが… そうでなけりゃ、基本的に放置されやしたからねぇ… 生きてラルースにたどり着いた時ゃ、全員泣きやしたぜ…」
やり過ぎだよ…
デレックさん達、それなりに腕は立つけど連携がイマイチなんだから…
「あぁ、それは言えてるかもね… でも、今回の旅で連携は良くなったみたいよ? 3人1組の小隊、4小隊1組の中隊を4つ作って対処する事を考えたしね。随分と成長したんじゃないかしらね?」
で、4つの中隊が集まって大隊になり、リーダーであるデレックさんが大隊長ってワケか…
人数までは把握してなかったけど、デレックさんを含めて49人も居たんだな…
私の考えに近い事を考えたって事か…
なかなかやるじゃん♪
私の考えは4人1組が小隊、小隊が4つで中隊、中隊が4つで大隊だけどね。
話を聞いて、俄然やる気が出てきた私は…
「馬を購入するのは止めましょう! バルバッツァまで、徒歩で移動します! デレックさん達には、更に経験を積んで貰いましょう!」
「やっぱり悪魔ね…」
「悪魔だよなぁ…」
「悪魔ですわね…」
「悪魔でやすね…」
ジュリア姉様、ランディさん、レイチェルさん、デレックさんが口々に言い、デレックさんの部下達も、魂が抜けた様になっていた。
何故だ…?




