第45話 久し振りの再会✕2
「やっと着きましたね~♪」
「やっと… 着いたんですのね…?」
「やっと… 着いたんだな…」
最初の宿場町〝ラルース〟に着くと、レイチェルさんとランディさんはへたり込んでしまう。
王都へ行く時は幌馬車だったので気付かなかったが、思っていたより起伏が激しい道だったな。
それにしても、私と一緒に鍛練してたのに、この程度でバテたのか?
「シャキッとして下さいよ。王都に居る間に鈍っちゃったんじゃありませんか?」
「そ~ゆ~問題じゃねぇだろ… 負担を軽減する為の曲がりくねった道なのに… 真っ直ぐ行く方が近いからって…」
「そうですわよ… あんな急な斜面を登ったり下ったり… バテない方がおかしいですわよ…」
そう言われれば、あの坂道は結構キツかったかな…?
歩いてみた感じだと、坂の角度は40度以上あった様な気がするなぁ…
「私としては、足腰の良いトレーニングになると思ったんですけど…?」
「逃走中まで… トレーニングするなよ…」
「ランディの言う通りですわよ… 王都から逃げてる最中にまで… トレーニングしないで下さいまし…」
疲労困憊って感じだな…
私は2人に歩み寄ると、サッとリュックを取り上げる。
「私は先に宿屋で部屋を確保しておきます。2人は息を調えたら来て下さい」
言いつつ私は宿屋に向かい、ドアを開ける。
早い時間だからか、客の姿は疎ら。
この分なら、1人一部屋取れるかな?
「やっと来たのね? 待ちくたびれたわよ…」
受け付けの横、階段の上から誰かが私に声を掛ける。
ゆっくりと降りてきたその人物は…
「ジュリア姉様!」
私は一気に階段を駆け上がり、胸に飛び込む。
どすぅっ!!
「ぶぐぇっ!」
姉様は変な声を上げて尻餅をつくが、私は気にせず全力で抱き締める。
姉様は私の背中をポンポンと優しく叩き…
やがて激しくバシバシ叩き始める。
「何やってんだよ、ジェニファー様…?」
「ジェニファー様… ジュリア様の顔が紫色になってますわよ…?」
宿屋に入ってきたランディさんとレイチェルさんが呆れ声で言う。
…力を入れ過ぎたか?
私が離れると、姉様は仰向けに倒れたまま汗をダラダラ掻き、激しく呼吸する。
「ぶはぁ~っ! はぁ~っ! だ… 抱き潰されるかと思ったわよ…」
「あはは… まさか姉様が居るとは思わなかったんで… それに久し振りだから、つい…」
私はジュリア姉様に馬乗りのまま、照れ笑いを浮かべる。
「つい… じゃありやせんぜ、ジェニファーの姐御… ジュリアの姐さんを殺さねぇで下さいよ?」
階段の上からゴツい顔をした男が声を掛けながら降りてくる。
更に、その後ろからゾロゾロと同じ様なゴツい男達が続く。
「ジェニファーの姐御がジュリアの姐さんを紹介してくれたから、俺達ゃハンターだの傭兵だののCランクまで昇格できたんですぜ? 俺達を鍛えてくれたジュリアの姐さんには、マジで感謝してるんですからねぇ…」
ゴツい顔の男が言うと、後ろの男達もウンウンと頷く。
私は男達を見詰め…
「誰だっけ…?」
男達は全員がブッ倒れた。
────────────────
「あの出来事を忘れるって、そりゃブッ倒れるだろ…」
「ジェニファー様の記憶力って、どうなってますの…?」
「自分が斬って治した相手でしょ? 覚えてないなんて、どうかしてるわよ…」
「酷ぇですぜ… こちとら姐御に斬られた上、馬車で引き摺られた恐怖は忘れられねぇってのに…」
非難轟々…
仕方無いじゃん…
王都に着いてから、如何にしてカールが王位継承できる様に仕向けるかばかり考えてたんだから…
王都に向けて出発したばかりの頃の出来事なんて、忘れてるよ…
「…それでもまぁ、良い人選だったわよ? ジェニファーの相手にはならなかったみたいだけど、基礎はしっかりしてたから鍛え甲斐もあったし…」
「何度も死ぬかと思いやしたがね…」
私が盗賊だと思ってボコり倒した連中のリーダー──デレック──が、遮光器土偶の様な眼をして言う。
死ぬかと思ったって…
しかも何度も…?
どんな鍛え方したんだよ、ジュリア姉様…?
「あれぐらい、大した事じゃないわよ? ジェニファーに鍛えられたら、本当に何人か死んでるかも知れないしね?」
ンなワケあるかいっ!
私は鍛える相手の状態を見て、ちゃんと死なない程度に鍛えるわっ!
「ジュリアの姐さん… 姐御の鍛え方って、生きるか死ぬかなんですかい…?」
デレックさんが少し…
と言うか、かなり引き気味に聞いてくる。
「違いますっ! ちゃんと鍛える相手の状態に合わせてます! 適切かつ、少し厳しめにして、上を目指せる様な鍛練メニューを組んでますっ!」
「少し? かなり厳しかったんじゃない? 口だけのFランク連中は当然として、EランクやDランク連中は虫の息だったじゃない… Cランク連中は鍛練終了後にしばらく動けなかったし、Bランクでギリギリ付いて来れたって感じだったけどねぇ…」
そ… そうだっけ…?
私にとっては普通の鍛練なんだけど…
「ジェニファー様には普通でもなぁ… ガキの頃から一緒に鍛練してた俺でも、結構キツかったぜ…?」
「ですわね… 私は幼少期からジェニファー様と一緒に鍛練してましたから、なんとか付いて行けましたけど…」
ジュリア姉様の言葉をランディさんとレイチェルさんが肯定すると、デレックさん達は青褪めた顔を私に向ける。
「姐御の鍛練って、どんだけ厳しいんですかい…?」
「そうね… 貴方達が私を訪ねてきた頃の実力だと、まず間違いなく全員が鍛練後1時間は動けなかったでしょうね…?」
死んだ様な目付きで私を見るデレックさん達。
私の鍛練、そこまで酷くないと思うけど…?
「20㎞以上走っても息切れしない様にだとか、ブラ下げた5mの綱を腕だけの力で10回以上登るだとか… 走るのにしたって、後ろから剣を振り回して追い掛けたり、最後尾で息切れしてる連中の尻を突っついたりしてたわよね…?」
「姐御… それ、悪魔呼ばわりされやせんでしたかい…?」
言われたな…
ジュリア姉様から…
「私、悪魔とも言ったし、悪魔でも逃げ出すって言った覚えがあるわね…」
全員が私をジト目で見る。
「そんな事より! 姉様達は、ラルースまで何しに来られたんですか?」
このままだと私がボロカスに言われるだけなので、強引に話題を変える。
「ん~… なかなか進展してないみたいだったから、様子を見にきたのよね。で、ラルースに着いたら国王が崩御しただの、カールが王位を継承するだの… なんだかんだで上手く行ったようね?」
「それなりに苦労しましたけどね。なんとかカルロスとカールを仲違いさせる事に成功しましたよ…」
コクリと頷くジュリア姉様。
そして…
「…それに、カルロスが王位継承権を放棄。歳の離れた妹のカレンも、カルロスと一緒に王都を離れるって聞いたわよ?」
それは初耳だな。
まぁ、私達は徒歩だったからな。
他の街へ行く定期馬車とか、商人の荷馬車が先に宿場町へ情報を伝えたって事か…
「良かったじゃねぇか、ジェニファー様。これでカールが王位に即く事になるから、クーデターも起こし易くなるってモンだな」
「カールの執る政策次第ですわよ? 今までと比べて、侵略した国の元・王族や元・貴族に対して厳しい… 厳し過ぎる政策ならクーデターも起こし易いし、参加する元・王族や元・貴族も多いでしょうけどね」
それなんだよな…
カルロスやカレンが王都を離れた事で、カールが変に心変わりしなきゃ良いんだけど…
そんな事を考えつつ、私はすっかり忘れていた宿屋へのチェックインを済ませるのだった。




