第43話 王都脱出
「「「ジェニファー様!」」」
バーンッ! と大きな音を立ててドアを開き、マニエルさん、ミハエルさん、ミーナさんが声をハモらせながらマニエルさん宅のリビングに駆け込んでくる。
「そんなに慌てて、どうしました?」
3人は息を調える間を惜しむ様に捲し立てる。
「「「国王国王様王陛がが下死亡がんな崩じゃら御ったれさって!たれまそした!うです!」」」
3人バラバラに喋んなよ…
何を言ってるか解んねぇだろ…
ジト目で見る私に気付いたのか、マニエルさんの肩をミハエルさんとミーナさんがポンッと叩く。
その意味を理解したマニエルさんは、コホンッと咳払いし…
「国王陛下が崩御されました!」
次にマニエルさんがミハエルさんの肩をポンッと叩く。
「国王が亡くなられたそうです!」
続いてミハエルさんがミーナさんを見る。
「王様が死んじゃったって!」
トリオ漫才でもやってんのか、お前等…
別に良いけど…
私はゆっくりと立ち上がり、借りている部屋へ向かう為に階段へと歩く。
「ジェニファー様、どちらへ?」
私はニッと笑って答える。
「国王が亡くなられた事で王都は混乱する事でしょう。これを機に、王都を脱します」
私の考えを察したのか、マニエルさん達3人は黙って頷いた。
国王が崩御したとなれば、対応に追われて不審者への警戒は多少なりとも弛むだろう。
その隙を突いて、王都から逃げ出すのだ。
とにかく大切なのはスピード。
あれこれ考えてる暇は無いと言って良いだろう。
私は部屋で寛いでいるランディさんとレイチェルさんを急かし、いつでも王都を逃げ出せる様に荷物を纏め始める。
待つことしばし…
やがて外が騒がしくなり始める。
「そろそろ動きますか。マニエルさん、王宮から一番近い門に案内して下さい」
私の言葉にマニエルさんは勿論、全員が訝しげな表情になる。
「なんで一番近い門なんだ? 脱出するなら、一番離れた門から出た方が安全なんじゃないか?」
「そうですわ。王宮から遠い門の方が、追手を差し向けても到着するまでに時間が掛かりますから逃げ易いのではありませんこと?」
ランディさん、レイチェルさんの意見に頷くマニエルさん、ミハエルさん、ミーナさん。
「逆ですよ。国王崩御と聞いた民衆は、王宮周辺に集まる筈です。すると、王宮から離れた場所になればなるほど、民衆は少なくなります」
「だから逃げ易くなるんじゃないのか?」
ランディさんが話を遮って言うと、全員がコクリと頷く。
「民衆が少なければ、門を守る警備兵は門から離れなくても問題ありませんよね? なので、王都を出る者の審査も普段通り… と言うか、カール襲撃犯が捕まっていない現状なら、審査は厳しいままでしょう。けど、王宮に近い門の警備兵は、多くの民衆が集まって騒ぎになってる王宮付近の警備に駆り出されるんじゃありませんかね? 残る警備兵も居るでしょうけど、国王の崩御が気になって、王都を出る者の審査も適当になると思いませんか?」
私の意見に全員が顔を見合せ…
「なるほど… だから王宮から一番近い門か…」
「そこまでは考えてなかったわ…」
「単純に遠い門の方が安心だと思ってましたね…」
と、ミハエルさん、ミーナさん、マニエルさん。
「ジェニファー様って、私達より優れた… 鋭い… いえ、言葉では表せない思考を持ってらっしゃる様ですわね…」
「それって、常人の思考を超えてるって事か? まぁ、ジェニファー様だからなぁ… 俺達とは脳の造りが違うんだろうぜ? もしくは脳年齢が俺達より遥かに歳上なんじゃないか?」
と、レイチェルさんとランディさん。
ど~ゆ~意味だ、テメー等。
と言いたいトコだが、ランディさんの意見の後半部分。
ちょっとギクッとしたぞ?
私の中身は前世で18年生きてた分だけ、確かに歳上だからな。
「まぁ、小さい頃から、そんな事ばかり考えてましたから…」
とりあえず誤魔化す。
いや、実際こんな事ばかり考えてたのは事実だから、誤魔化してはいないか…?
「アンドレア帝国がベルムート王国を侵略するんじゃないかって、お父様に進言したのも4歳の時でしたしね」
「「「「「4歳で!?」」」」」
ハモるな。
「アンドレア帝国は侵略国家でしょ? ベルムート王国を含めた多くの小国と小競り合いを続けてたから、いつ本格的に攻め込んで来るか気になってたんですよ。ベルムート王国の防衛体制とかも気になってましたし…」
皆、黙りこくって私の話を聞いている。
「まぁ、4歳児の言う事ですから、本気で捉えては貰えませんでしたけどね。で、結果はご存知の通りで、現在に至るワケですよ」
私は嘆息しつつも荷物を纏める。
「4歳で国防の事が気になるって、普通じゃねぇよな…」
「いや、それより4歳でアンドレア帝国が攻めてくる可能性を進言するとは…」
「そうですわね… 普通の4歳児が考える内容ではありませんわね…」
「て~事は~… ジェニファー様は異常な危機察知能力を持ってるって事なんですかね?」
言いたい放題だな、テメー等…
でもまぁ、そう言いたくなるのも解らないでもない… 気がする…
いや、そんな事より、さっさと王都を脱出しなくては!
「ハイハイ! 言いたい放題言うのは構いませんが、ランディさんとレイチェルさんは早く荷造りを済ませて下さい! 国王崩御の報が広まって騒ぎになったら、警備の隙を突いて王都を脱出するんですからね!」
ハッとして2人は慌てて荷造りを再開する。
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「外が騒がしくなってきましたね」
2階から階段を降りながらマニエルさんが言う。
私、ランディさん、レイチェルさんの3人は荷物を背負い、裏口からマニエルさん宅を出る。
「このまま出来るだけ裏道を通って門まで進みます。そこから先は…」
ランディさんとレイチェルさんは、私の後ろを歩きながら揃って頷く。
「分かってるって♪ 門を出るタイミングは、ジェニファー様に任せるぜ♪」
「そうですわね。こんな事を言うのは失礼かも知れませんけど、ジェニファー様に任せた方が安心ですわね。私やランディじゃ、タイミングを間違えそうですものね」
レイチェルさんに言われて不服そうな表情になるランディさん。
「なんだよ… そりゃ、俺よりジェニファー様に任せた方が安心なのは分かるけどよ…」
「別にランディを卑下したワケではありませんわよ? ちゃんと〝私やランディ〟って言いましたでしょ?」
「そうだけど、結局は俺がジェニファー様より劣ってるって言ってるのと同じじゃねぇか?」
「ジェニファー様に劣ってるのは私もでしてよ? もう一度言いますけど、私は〝私やランディ〟って言ってましたでしょ? 貴方だけを貶めたワケではありませんわ」
とか何とかやってる内に、王宮から一番近い門が視認できる場所に到着した。
私達は物陰に隠れ、門の警備兵の様子を伺う。
警備兵達は門の警備を優先したいが、国王崩御の報が気になってる様でソワソワしている。
私達の居る場所から門までは、ほんの20~30m程度。
全力で駆ければ数秒の距離だ。
上手くすれば、警備兵に気付かれる事もなく王都の外に出られる。
私は逸る心を抑え、慎重にタイミングを見極める。
そして…
「今です! 一気に駆け抜けますよ!」
王宮の門の近くで起きた小さな騒ぎ。
それを治めようと、持ち場を離れる警備兵達。
その僅かな隙に、私はランディさんとレイチェルさんに声を掛けつつ走り出す。
「…っしゃっ!」
「やっぱり、いきなりですのね…」
ランディさんは気合いを入れて走り出し、レイチェルさんは呆れた様なセリフを吐きつつも駆け出す。
程無く私達は王都の門を駆け抜け、アッサリ過ぎる程アッサリと王都の脱出に成功したのだった。
良いのか、これで…?




