第41話 カール襲撃成功♪ 次は反乱の準備です♪
カールと護衛の集団が私の眼下を通り過ぎる。
私は気配を殺し、カール達が10m程離れるまで待つ。
そして…
スタッ
私はカールに聞こえるか聞こえないかの足音を立てて舞い降り、一気にダッシュして間を詰める。
カールの護衛の中で、私が手練れと思った2人が振り向いた。
周りをキョロキョロ見回している護衛達の中で、ぼんやりとした表情でカールの脇を固めていた2人。
何気無く視界に入る全体を見ている方が、僅かな変化にも気付けるモノなのだ。
さすがに眼下に入るまで、私でもカール達を視認できない程に葉が茂った樹木では、隠れた私に気付くには至らなかった様だが…
「「曲者っ!」」
手練れの2人は声をハモらせ、私に向かって剣を振るう。
だが、遅い。
剣が振り下ろされた時には私は2人の間をすり抜け、カールの太股を斬り付けていた。
「ぐあっ!」
「殿下っ!? くそっ! 追えっ!! ゲイル! お前は行くな! 俺と殿下を守れ!」
チラリと後ろを見ると…
やはり、私に剣を振るった2人が残ったか。
私は壁と近くの木を交互に蹴り、壁の上へと駆け上がる。
「なんだとっ!」
「凄え身体能力だな…」
「感心してる場合か! 早く壁を登って追い掛けるんだ!」
口々に言いながら、護衛達は壁を乗り越えようとする。
壁に向かってジャンプする者、木をよじ登る者…
5分… 少なくとも3分は稼げるな。
壁から飛び降りると、待機している皆に声を掛ける。
「もう少ししたらカールの護衛達が壁から顔を出します。そしたら皆さんは思い思いに散らばり、追い掛けてくる護衛を引き離し過ぎないようにカルロスの別邸まで逃げて下さい。その後は打ち合わせ通りに」
全員がコクリと頷き、緊張が走る。
やがて護衛達が壁をよじ登り…
「居たぞ!」
「逃げずに止まっているとは余裕だな! …って、何だ!?」
「何人居るんだ!? てか、どいつが殿下を斬り付けたんだ!?」
「知るか! とりあえず全員捕縛しろっ!」
口々に言いながら壁を乗り越えようとする。
混乱してるな。
私が手で小さく合図し、全員同時に散開する。
「なっ…!? えぇいっ、追えっ! 追えぇえええええっ!!」
私は大きく迂回するルートでカルロスの別邸を目指す。
さあ、陰謀の始まりだ♪
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一気にダッシュして追っ手を撒いた私は、カルロスの別邸近くで身を伏せる。
しばらくすると、『待て~!』だの何だのと騒ぐ声が聞こえてくる。
ようやく来たか…
私はカルロスの別邸の正門前に歩み出て、閉ざされた門を蹴り開ける。
逃げてきた全員が別邸の敷地に入り、一気に裏門へ向かう。
私も敷地に入り、門を閉める。
蹴り開けた衝撃で多少歪んではいるが、閂を無理矢理捻じ込む。
私でも結構キツいので、護衛の連中では簡単に開けられないだろう。
「くそっ! 裏だ! 裏から回って取り押さえろ!」
うん、それが正解だね♪
無意味だけど♪
こっちは最初から別邸を通り過ぎるつもりは無い。
全員が裏門まで行かずに植え込みに隠れる。
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「おいっ! そこの掃除メイド! この邸に不審な者が入ってこなかったか!?」
裏門の近くで掃除をしているメイドの少女に、カールの護衛の1人が詰め寄る。
「な… 何ですか、貴方達は!?」
いきなり大声で捲し立てられ、脅えるメイドの少女。
「い… いや、脅かしてすまない。この邸に不審な者が入っていくのを見たのだ。こちらの方に来なかったかと思ってな…」
言われて少し少女は考えて答える。
「不審な者… ですか? いえ、私は何も見ていませんが…」
「そうか… 分かった、忘れてくれ」
そう言うと男達は踵を返し、正門の方へ歩いていった。
ポカンとした表情で護衛達を見送ったメイドの少女は、彼等の姿が見えなくなると…
「これで良かったんですね、ジェニファー様?」
メイドの少女に扮したミーナさんが、植え込みに隠れた私に向かって笑顔を向ける。
「はい♡ これで大丈夫な筈です。彼等は事の顛末をカールに報告するでしょう。報告を聞いたカールは…」
「ますますカルロスの関与を疑うって事ですね? カルロスの邸に逃げ込んだ賊が通り過ぎた様子が無ければ…」
私はコクリと頷く。
「邸に逃げ込んだとしか思えませんからね♪ 邸に逃げ込んだって事は、当然カルロスの放った刺客だと思うでしょう。ミハエルさんとミーナさんは、王宮に忍び込んで様子を窺って下さい。他の皆さんは、結果が判るまで待機です」
全員がコクリと頷き、その場を後にする。
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カール襲撃から数日後、ミハエルさんとミーナさんから報告が入った。
「カールはカルロスに詰め寄りました。勿論、カルロスは関与を否定しましたが、カールは聞く耳を持ちませんでしたね」
「もう、凄かったですよぉ~… 今にも殴り掛かるんじゃないかって感じで詰め寄るんですからねぇ…」
だろうな…
植木鉢が落ちてきたり、鏃に毒の塗られた矢が射かけられたりしたものの、今までカールに実害は無かった。
それが今回、脚を斬り付けられて、そこそこの怪我を負ったのだ。
護衛が暗殺者に気付き、剣を振るったからカールは殺されずに済んだ。
もしくは重傷に至らなかったと言う認識だろう。
以前に流布させた〝カルロスがカール暗殺を目論んでいる〟と言う噂もあり、最早2人の間に出来た溝は修復不能なまでに広がった事だと思う。
後は様子見だな。
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私は毎日マニエルさん宅でミハエルさんとミーナさんから報告を受けている。
カルロスとカールは日に日に険悪さを増しているという。
「ここまでは計画通りに進んでますね。ところで、貴族達の様子はどうですか?」
「カール派に鞍替えする貴族が増えている様ですね。ただ、表面上はカルロス派を装ってるみたいですよ? 会議室では派閥別に席が分けられてるんですが、カール派に鞍替えした貴族達は何食わぬ顔でカルロス派側の席に着いてましたね」
ミハエルさんが淡々と説明する。
「カール派の貴族達はカルロスを弾劾してる筈だろ? 鞍替えした連中はどうしてるんだ?」
ランディさんが当然とも言える質問をする。
私もそれは気になるトコだな。
「静観してますね~。カルロスとカルロス派に残った貴族達は必死になって関与を否定してますけど。カール派の貴族達も、誰が鞍替えしたかは知ってる様で、カルロスとカルロス派に残った貴族にだけ詰め寄ってましたね~」
なるほど…
かなりカルロス側は追い詰められてるって感じか。
これで次期国王がカールに決まる流れになれば、こちらの思惑通りだな♪
「ちなみにですが、カルロス派とカール派の割合はどんな感じですか? 今までは半々って感じだったんですよね?」
「えぇ。ですが、例の噂と植木鉢落下事件、毒矢が射ち込まれた事件。その上で今回の襲撃事件と合わさって、多くの貴族がカルロスの仕業と信じ込んだ様です。今やカルロス派は1割にも満たないって感じですね」
殆どがカール派に鞍替えしたって事か。
それで何食わぬ顔でカルロス派側の席に着いてるって…
どれだけ面の皮が厚いんだよ…
別に良いけど…
「こうなると、まず次期国王はカールに決まると思って良いでしょうね。それじゃ、私達は準備が調い次第、王都を離れます。カールが国王に就けば、かつて侵略した国家の国王や貴族達に対して厳しい対応を執るのは間違いないでしょう。それに合わせて反乱を起こす準備を整えます。ミハエルさんとミーナさんは、引き続き様子を窺って連絡をお願いしますね」
そして私、ランディさん、レイチェルさんは王都を離れる準備を始めたのだった。




